第10話 空き地のお地蔵様

 ドライブが好きな俺は、友人と一緒によく海へ山へと所構わず走りに行っていた。

 この日も仕事終わりで”夜桜を見に行こう”なんて言ってダムの近くを走っていた。

「いや〜、夜の桜綺麗だね〜!」

 休憩しつつダム沿いのドライブを楽しんだ。


「そろそろ休憩しよう。」

 仕事終わりということもあり、疲れが溜まっていた俺は目の前に見えてくる空き地に入った。

「こんなところに駐車スペースなんてあったっけな。」

 隣に乗った友人は不思議そうに呟いた。

 友人の言葉を聞き流し、俺は休憩後にすぐ道に入れるように車をグルっとターンさせた。


「うわぁぁぁぁ!!」


 後ろを向いていた俺は、友人の声に驚いて急ブレーキを踏んだ。

「びっくりした、なんだよ…」

 友人は目を見開いたまま、前を指を指した。

「お、お地蔵さん…。」

「地蔵なんてそんな珍しいもんでもないだr…」


 友人に呆れながら彼の指差す方を見ると、尋常じゃない数のお地蔵様が並んでいた。

「異常だろこの数は…。」

 車内の空気がどんよりと重く感じた。

「…とりあえず、一服したら帰ろうぜ。」

 タバコを吸いに車を降りた俺は、更に冷や汗をかいた。


 後輪から10cmもないだろう、その先は崖だった。


 言葉が出ずにしばらく崖を見つめていると、車内に居た友人が急に騒ぎ出した。

「早く!!早く車を出せ!!」

 吸いかけのタバコの火を慌てて消して運転席に戻ると、先程よりも青ざめた友人がガタガタと震えている。

「お、お願いだ、直ぐにこの場を離れてくれ…!!」

 促されるまま俺はアクセルを踏み、もと来た道を走った。


 ・・・


 近くのコンビニに車を停め友人の様子を伺ったが、彼はまだ震えていた。

「どうしたんだよ?なんか視えたのか?」

 茶化すために言ったのだが、友人は顔色を変えなかった。

「…12体。」

「は?」

「お地蔵さん、12体あったんだ。」

「それで?」

「お前がタバコを吸いに車から出たら、数が増えて…。」

「…数え間違いじゃないのか?」

「違う!!」

 友人は自分の肩を抱きながら震えた。

「最初、一番右端のお地蔵さんは帽子なんて被ってなかった。」

「……。」


「お前が車から降りてから見たら、一番右端のお地蔵さん、帽子を被ってたんだよ。…今お前が被ってるのとそっくりなキャップを。だから数え直したら…。」



・・・



 後日明るいうちに同じ道を通ったが、お地蔵様が並んでいる場所は無く、そもそも車が停められるような空き地は存在しなかった。

 俺たちがあの日駐車した空き地は一体何処だったのだろう。13体目のお地蔵様は何故俺と似たキャップを被っていたのだろう。そしてあの日、崖があることを知らずに少しでも車を後ろに下げていたら…。

 この事件以降、俺たちは夜にドライブへ行くことはなくなった。

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