第9話 夢の中の知人
「最近体の疲れが取れないんだよね。」
休憩中、おもむろに同僚の田沼が呟いた。
「仕事が忙しかったからじゃないか?」
「いや、俺はどんなに忙しくても定時であがっているからそんなことが理由じゃないと思う。」
「そうか(笑)。じゃあ何が原因だと思ってるんだ?」
「俺が思うに、睡眠の質が善くないと思うんだ。」
「あぁ、熟睡できてないと疲れは取れないって言うよな。」
枕かマットレスでも新しく変えたのだろう。そんな事を思いながらタバコを咥えた。
「俺さ、夢を見ない人間だったんだけど、最近しっかり記憶してるくらい鮮明に夢を見てるんだよ。」
「へぇ。どんな?」
「中学んときの同級生が出てくる夢。」
「そんなふわっとした説明されてもな(笑)。」
「いや、夢ん中の状況は日常生活と変わんねーんだわ。でも、毎回必ずそいつが出てくるんだよ。」
「仲が良い奴なのか?」
「いんや。別に仲悪くもないけど、良くもないみたいな?」
「そんな奴が夢に毎回出てくるのか?」
「変だろ?しかも夢の中でそいつと話すわけでもなくって、視界の中にただ”居るなぁ”って感じ。」
「ほぉ。」
「でも俺はそいつを目で追ってるわけでもないんだわ。」
「その同級生がお前の視界に入ってくるってことか?」
「そういうわけでもない。そいつもそいつで何か目的を持って行動してるっぽいんだが、気づいたら俺の視界に居るんだよ。」
「それで?」
「それだけ。あ、でもなんとなくだけど、そいつ、段々俺に近づいてきてる気がするな。」
「なにそれ。あっちはお前に気づいてないんだろ?」
「うん…多分?」
「多分?」
「だって俺もそんなにそいつのこと目で追ってないし、何してるかわかんねーもん。ただ目の前を通り過ぎるとか、そんな感じで出てくるし。」
「じゃあ今度そいつが何してるか目で追ってみたらわかるんじゃねえか?」
「そうだな、見てみるわ。」
話の落ちがついたところで休憩の時間が終わったので、俺たちは業務に向かった。
次の日、俺は田沼に夢の事を聞こうと思い彼を探したが、今日は仕事に来ていないようだった。
「あいつ、寝不足で体調でも崩したか?」
田沼にLINEを送ったが、既読がつかなかった。
次の日も、また次の日も田沼は職場に現れなかった。無断で欠勤しているようだったので、流石に気になった。
欠勤初日に送ったLINEはまだ既読が付いていない。
”おい、大丈夫か?”
”課長も心配してるぞ。連絡、待ってる。”
どんなにメッセージを送っても既読がつくことはなかった。
連絡が途絶えた田沼を心配し、会社から警察に連絡。彼の部屋を訪ねてもらうことになったが、そこで田沼が首を吊っているのが発見された。
テーブルには”迎えが来た”とだけ書かれたメモがあり、おそらく遺書だろうと判断された。
しかし田沼は自殺するほど思いつめるような奴ではないし、連絡が途絶える直前も元気がないなどの異変はなかった。
気になるのは、あいつが話していた「夢に知人が出てくる」という話だ。
「段々俺に近づいてきてる気がするな。」
生前彼が言い残していた言葉と、”迎えが来た”のメモがどうしても何か関係があるように思える。
夢の中の知人が田沼を迎えに来たとして、どうして仲が良くも悪くもないような相手を迎えに来たのだろうか。
そして事故や寿命を全うせずに自殺という方法で命を断つ必要があったのだろうか。
確かめようにも田沼はもうこの世には居ない。
なんとも後味が悪いまま終わってしまった話に、俺は同情しつつも興味が惹かれてやまない。
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