本物在中・ハロウィンナイト(後編)

「猫耳ってかわいいですよね。でもお揃いじゃないんだ?」

「私と秋葉がお揃いだとカップルみたいで微妙です。司くんは猫より犬って感じだから今日は狼っぽく」

「近江くんも?」

「秋葉は、犬」


 何か差別されているが問題ない。オレは狼などというかっこいい系のイヌ科でも、忍のように気が付いたらどこか行ってしまっているよな猫科でもないのだから。


「犬って猫より見た目のバリエーション豊富だよね。チワワと柴犬とサモエドはもはや別種だよ」

「オレがその内どれに当てはまるのかは敢えて聞かないけど、司さんは確かに狼でもいけるよなー。ハロウィンだし」

「秋葉は黒柴」

「敢えて聞かないって言っただろ」


 そうか、オレは柴犬くらいなのか。愛玩専門の超小型犬でないのは救いだな。色が黒なのは単に今日はイメージカラーが黒い日だからだろう。


「これからダンタリオンのとこですけど、司さんも呼ばれてはいるんですよね?」

「あぁ、ここから一緒に行くから。巡回続けてくれるか?」


 そう同僚に声をかけて別れた。相変わらずいいなーの声を受けながら。司さんは複雑そうだ。


「忍、もうこれ取ってもいいか?」

「ダメ。そのまま公爵のところに行くのです。一緒に」


 司さんは今まさに、一人で抜け駆けをした罰を受けている。


「あ、特殊部隊の人もケモミミつけてるー服白いけど一緒に写真撮りたいー!」

「仕事中だからダメっしょ。白制服も萌えだよね」



 ……。



 三人同時に流れる微妙な空気。制服が白いだけに悪目立ちしている。


「ごめんね、目立たせるつもりはなかったんだけど」

「じゃあ取ってもいいか?」

「ダメにゃ」


 ……にゃ?


「にゃ?」


 忍がオレと司さんが繰り出すそれぞれ無言の視線の交点でこころの問いを復唱した。


「忍が猫語とか」

「違うニャ。そうじゃなく……勝手についてるニャ!?」

「えぇー!!?」


 驚愕。忍もかつてない自体に多少泡を食っている。ネコの仮装で猫語とか、駄目だろそれ。


「司くん、何かおかし……にゃー」


 何言ってもにゃーが着いてくることに消沈。

 耳としっぽも消沈している。


「……」


 司さん、今ちょっとかわいいとか思ってませんでしたか。何この破壊力。ケモミミ女子なんて大体ミニスカはいたりメイド服だったりメディア露出そんな感じだけど黒パーカー女子が黒猫系もけっこうやばいぞ。


 私服感増し増しなだけに忍の場合はギャップも更に激しい。


「いや、おかしくない? しっぽ……え、オレなんか尻尾自分で動かせるワン」


 !!?


 ワン!?


「おかしいニャ。ホンモノの犬はワンなんて語尾に付けないニャ」

「ネコもだワン!」


 ……。



 撃沈。


「これは……うかつに喋らない方が良さそうだな。というか、この耳取れなくなってるんだが」


 司さんの言葉は幸い普通だ。が、いつワン、とか言い出すのか戦々恐々としているのかこれから口数を減らす予定っぽい。

 自分の犬耳のさきっぽを引っ張ってみているが確かにびくともしていないようだ。


「……」


 無言で入り口でもらったパンフレットを見直している忍。いつもならまっさきにチェックするところ、今日は仮装の方がすごいので見物が優先になっていた。


「追記事項:このイベントでは仮装に見合った行動、言葉使いをするようになります」


 読み上げたところを見ると端っ子に小さく当日ルールが書かれていた。


「仮装に合った行動!?」

「そういえば当日解禁のシークレットルールがあったニャ」

「これ結構大変なことにな……」


 周りの会話が耳に入ってくるとあちこちで、わんわんにゃにゃーその他獣言葉が飛び出している件について。


「キリンの語尾は何になるニャ!?」

「そこ! 単独行動禁止!」

「にゃー! 司くん気になるニャ、一緒に見に行くにゃ」


 いつもの会話がおねだりにしか見えない聞こえない。司さんが森さんのように忍を甘やかしてしまいそうな気配がする。なんだろう、このイヌ科と猫のコンビネーション。


「司さんの言葉はなんで変わらないワン?」

「語尾がつかなそうな単語で喋ればいいニャ。ちなみに私はもう諦めたニャ」


 諦め早いなこの子。オレは最初に驚いただけで抗ってないけども。しかしその諦めの速さは平常運行、安定のフラットさなのでそれはそれでマイペースな猫っぽい。


「俺は霊装がうまいこと効いているようだな。オプション以外は問題なさそうだ」

「けも尻尾も買ってくればよかったニャ」

「とにかく公爵と合流して……園内放送でもっとルールの周知をしてもらわないと」


 化け物系に扮した人間が暴れ始めている。

 わんわんにゃにゃー言ってるくらいが平和だわ。


 いつのまにか周りは特殊部隊が追加投入されそうな勢いで混乱半分、お笑い半分くらいになっていた。元々混入していた神魔の、とくに悪魔系のヒトたちはえげつない見た目で穏やかだからそれはそれですぐにわかる。


「このカオスなルールっぷりは……主催は神魔の方々ですワン?」

「そういえば最近、ペディグリー〇ャムのCM見ないけどどこ行ったのかにゃ」

「なんでこのタイミングで思い出すワン? オレの何かがお前の記憶の回路を導通させたのかワン?」


そんなすっかり平常会話のオレたちを前に……司さんだけが深いため息とともに、軽く頭を抱えている。



気持ちはわかります。



だがしかし、何が出来ようもないオレ。

喜劇か悲劇か、ハロウィンの夜の本番はまだまだ、これからだった。


とりあえず。霊装超えた勢いで司さんが侵食されないことを祈りつつ。





***************


ハロウィン話当日執筆。なぜか丸っと二話校正。前回は日常一話さっくりなので、よろしければそちらもご覧ください。


ハロウィンの起源については、

終わる世界と狭間の僕ら本編 前哨予兆編「1.さまよえるカボチャの灯」

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054919001024/episodes/1177354055381214465


にて掲載されています。

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