6.そして、疑問はエターナる

「不知火、いいから。気にしてないから」


といって、反対の頬を撫でるとはたとしたように離れた。よほど反省モードだったのだろう。


「アスタロトさんが来てたんだよ。バレンタインのお返しにって、なんか菓子おいて行ってくれんだ。あと差し入れ」

「……この時期、メロンって手に入るんだっけ?」

「うん、そっちお返しじゃなくて差し入れな」


と、フランス流のピクニックについて再度説明。

聞きながら、ふたりはケーキボックスを開ける。


「あ、タルトだ」

「おいしそうだね。お皿あったっけ?」


皿というか、載せるものはあるのでそこに並べて出す。

フルーツとゼリーの乗った色とりどりのタルトだった。


「せっかくだから今食べた方がいいんだろうか……」

「デザートとメインディッシュが逆になる」

「じゃあお昼もだそう」


といっても、本当に手軽に用意してきたので、すぐに用意は整う。

手軽な割に、なんか逆に箱詰めのお弁当とかだされるよりそれっぽい。


時間もちょうどお昼くらいなので、それぞれつまむ。


「で、アスタロトさんはどこに?」

「散歩の途中だったみたいだから、園内歩いてるんじゃないか?」

「次みかけたら一緒に、……ていうのはエシェル的にはやめた方がいいかな」


エシェルにとっては珍しい外出だろうので、そちらを優先するみんな。

当のエシェルは


「いや、今度は人間に徹するから問題ない」


と、意外と平気そうな感じだった。


「今度はってさっき何かあったの?」

「……正直内心、みたいなところはあったが、表面上は何もなかった」


今日のエシェルは素直だ。解放的なこの環境がいいのだろうか。あるいは、思わすそう言ってしまうくらい割と本気でドキドキしてたかどっちかだろう。


「彼は魔界の大使と違ってとても理性的なようだし」


そうだな、いきなり喧嘩吹っ掛けてきて炎の魔法で焼き殺そうとかしないもんな。むしろ、フランス流で差し入れしてくれたよ。すごく良心的だよ。


なんて言ってると、戻ってきた。戻ってきたと言っても、こちらは芝生の広場でその向こうの道を歩いているところだ。エシェルに了承をもらったところでこちらから声をかける。


「アスタロトさん、タルトありがとうございます」

「……まだ食べてなかったのかい? 今日は天気がいいからぬるくなるよ」

「昼食後にもらおうと思って。あと、良かったら一緒に休んでいきませんか?」

「……」


ちょっと考える間。


「いいのかい?」


これ、エシェルに対する配慮だよな。神魔苦手って言ったからそこなのか? それとも正体ばれてんのか?


もう考えないと決めたのにエターナる疑問。


「僕なら大丈夫です。差し入れのお礼にお茶でもいかがですか」


そして、聞いたことがない、エシェルの、敬語。


そうだねー、見た目年齢的にもさすがにタメ口はまずいよねー、人間のフランス大使モードだ。


「そう言ってくれるなら、いただこうかな」


アスタロトさんのために用意されていたと言っても過言でないくらい、ティーカップが似合っている。紙コップじゃなくてよかった。なんとなく。


「ベルガモットか。おいしいね」

「香りが好きだな」

「それは忍が前に教えてくれた店のだよ」


なんかふつうに天使と悪魔が人間挟んでお茶してるんですけど。

オレ、目こすった方がいい?


司さんはもう悟ったような顔で、ふつうに昼食に手を伸ばし、休日を満喫している。

森さんは不知火の分も用意されたサンドイッチを不知火にあげている。

なんか内心のんびりしてないのオレだけか? そうか。みんな切り替え早いな。ていうか、一度「いい」って言ったらみんな「いい」と思う人だからな。


オレもそうしよ。


「秋葉、食事おいしくない?」

「あ? いや、おいしいよ? サンドイッチとか失敗しようがないメニューだろ」

「失礼だな。納豆と豆腐とバナナ挟んでやろうか」

「……身体には良さそうだけど……なんかにおいでやられそうだな……」


切り替え不足で失言した。


「豆腐をアボカドに変えたらもっと混沌とすると思う」

「そうだね、納豆と豆腐は食材被ってるからね。あと何か繊維質」

「やめて。オレが悪かったから、間違っても今度、弁当とか作ってこないで」


森さんと一緒にオレ専用の謎料理を考え始めたので、止めておく。


「繊維質といえば、最近アイスプラントという植物が出回っていて」

「アスタロトさん、やめてください。なんか名前が怪しいです」

「いや? ふつうに栄養価の高い野菜だよ。今の組み合わせだと栄養価的にはすごく高くなるんじゃないかな」

「すみません。それこの二人のどっちかが作ってきたら食べますか」

「秋葉にあげるよ」


やっぱりそうくるのか。

さらりと言われたけど、味は全く想像できない。究極の健康志向とか言われたらどこかにありそうで怖い。


「それ以前に今の組み合わせで忍は作れるのか」

「作りたくない。脳内作業だけでおなかいっぱいになったからもういい」

「自己完結しないでくれ。作る気がなくなったのはいいことだけども」

「……」


と、ここで黙り込んでしまっているエシェルに気付く。


「どしたん? 大丈夫?」

「あぁ、いや。いつもこんななのか?と思って」

「いつもこんなですよ」

「その……神魔のヒトが混じっても?」

「誰が混じっても同じですよ」


なんで敬語なんだよ。忍が応えているがエシェルにはその意味が通じたらしい。

そう、エシェル。お前も天使なのに大体お泊り会とか、こんなだろ。


……忍はブレない。違う意味では司さんも。


「ボクはそうそう交じるものじゃないよ。今日はお邪魔してるけど、基本、眺めてる方が好きだし」

「確かにアスタロトさんはど真ん中にいる感じではない。というかここにいる全員端っこの方が好きなタイプだと思う」


すっごい分析力を発揮しているよ。その通りだ。


「アスタロトさんの差し入れてくれたタルトすごくおいしいよ。エシェルももらったら?」

「いや、それ差し入れじゃなくてお返しなんだろう? 忍と君に所持物じゃ」

「要冷蔵な時点で今消費用だよ。メロンももらったし、みんなで楽しむピクニックの演出がプレゼントだ」


粋だな。渡す側も受け取る側も、よくわかっている。


「満足してもらえたなら良かったよ。君たちふたりともただ品物を横流ししても喜ぶとは思えないし」

「みんなして思い出はプライスレスな方向で考えてくれてるのが一番嬉しいよね」

「楽しいしね。午後、何して遊ぶ?」


昼寝して、エネルギーはチャージされているようだ。

一通り食事を軽く済ませると、そんな話になっている。


「せっかく芝生広場だから何かアクティブなやつ」

「ボールもそういうスポーツ用品も用意してません」

「球技は外した時に拾いに行かないとだから割に合わない。せめてミントン」


そうだな、バドミントンだったら羽が遠くまで行かないもんな。

オレは点在する中でも、ピクニック慣れした家族がなぜそれをやっているのかを理解した。

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