2.白上家に集合

「なんかそういうゆっくり休日過ごす文化圏のこととか知ってそうだし、用意するものとかも気を利かしてくれそう」

「エシェルにその気があるならそれは願ってもないことだが」

「オレ、連絡してみます」


今日のオレは行動が早い。それでもマナーとして廊下に出るとフランス大使館に電話をかけてみた。

と、いうかダンタリオンの前でエシェルと話すとかストレスゲージが目の前で上がっていきそうなのでさすがに、それくらいは空気を読みたい。自分と司さんのためにも。


「司さん、OKだそうです。なんかセットがみんな揃ってるみたいだから大抵のものは用意してくれるみたいですけど」

「さすが仕事が早いな」

「そうですね、仕事が早いですね」

「なんでオレを見るんだ、小僧ども」


言葉が荒れてるぞ。けっこうキている感じだ。よっぽど天使が嫌いなんだろう。当たり前だけど。


「いや、うん、お前も来られたらよかったのにな」

「なんでいきなり懐柔モードになってるんだ?」

「え、なんか火とかつけてくれそうで助かる感じが」

「秋葉、バーベキューじゃない」


気の使い方を間違った。

慣れない対象に気を使うものじゃない。


「貴族は貴族らしく大勢の美女に囲まれて過ごすから、もういい」


ダンタリオンの方が諦めた。

なんか、悪い。


心の中でオレは一言だけ詫びておくことにする。


「教習終わり―。……公爵、どうしたんですか」

「なんでもない」


なんとなくメンタルダメージを受けているような微妙な雰囲気にタイミングよく帰ってきた忍が声をかけるが、ダンタリオンは組んだ手の上に額を押し付けて、なんとなくお通夜モードだった。





そんなわけで。

ホワイトデーが近くなる。天気予報は悪くないし、場所は新宿御苑ということで決まった。

都内には、憩いの場になる広い緑地もけっこうある。

新宿御苑は入園料もわずかながらにかかることから、逆に荒らすような人があまり入らないのもポイントが高い。

場所としては申し分ないだろう。


サプライズではないので、忍と森さんの予定も確保する。

ティーセットやそれにちなんだ菓子類はエシェルの方が、軽食は忍と森さんが用意してくれることになり、結局、オレと司さんはお誘いをしただけであまりすることがない。

ので、各々それっぽいお返しは別に軽く用意しようという話になった。


そして、ホワイトデー前日。


「すみません、お泊り会とか本当にいいんですか」

「忍が森との軽食とかの準備で来るから、結局みんな泊まって一緒にでかけたらという話になり」


なんてサプライズだ。むしろこっちの待遇がすごいわ。

ホントに見返り期待しない人たちだな。

オレは司さんと待ち合わせをしていた白上家の最寄駅前で、立ち話をしていた。


「エシェルにも声をかけたんだが、返事がまだ……」


と、また絶妙のタイミングで電話が鳴った。

司さんが取る。


「あぁ、わかった。……キミカズは除外で」


清明さん、除外された―ー……


「あ、いやそこまで行ってるとは思わず。今のはエシェルからの確認の復唱だから」


電話が終わるとすぐに司さんはオレにそう教えてくれる。

そういえば、エシェル経由でチョコが渡った気がするな。ダンタリオンのところから入手したやつ。


そんなこともあり、術師は今それどころでないなど数々の正当な理由ではずされたらしい。

キミカズが除外、というのは冗談で済みそうだが、清明さん除外、だとなんかちょっと哀しく聞こえる不思議現象。


「それで、エシェルは?」

「来るそうだ。一人で来られるから先に行ってくれと……不知火」


駅の階段の向こうから、忠犬ハチ公ならぬ不知火が現れる。オレたちを迎えに……ではなさそうだ。来るなら司さんが家を出る時に一緒に来ただろう。


「エシェルが来るみたいだから、案内してやってくれるか」


森さんに言われたのか、自分の意志でか。

司さんがそう言うと、すり、と差し伸べられた手に一度だけ長い鼻を撫でつけて、尾を揺らした。

それからその場にお座りをする。座高も高いので軽く肩くらいの高さに頭が来る。


「頼むな」


なんでもないかのように司さんはオレを連れて歩きだす。


「……大丈夫なんですか、リードとか」、

「不知火はいつも森を迎えに来てるから、駅員にも顔が知れている」


大分離れてから振り返ると、駅員が2人ほど出てきて、不知火に何事か話しかけている。可愛がられているようだ。


……まぁ、防犯上にもよさそうだよな。この駅、治安良さそうなの不知火効果じゃないんだろうか。


そしてそのまま白上家に到着。


「ただいま」


すっごいきれいにしてあるので、上がるのに恐縮しそうだ。というか、司さんと森さんの家というだけで常日頃世話にしかなっていないオレは、恐縮する要素しかない。


「? どうしたんだ?」

「あ、いえ。お邪魔します」


玄関を上がって廊下を通って、リビング。

視界が急に開けると、窓の外は遠い高層ビル群と空。空間が広いせいもあって、解放感半端ない。


「おかえり。秋葉くんもいらっしゃい」

「お邪魔します」


同じことを言うしかないオレ。

忍は先に来ていて、リビングにあるテーブルの上で開かれたパソコンの画面を二人で見ていたようだ。


「適当に座っててくれるか?」

「はい」


というか、適当にと言われても……はじめてお邪魔する家で、しかもここ一人暮らしのアパートとかじゃなくてふつうに「人の家」なので、どこに適当に座っていいのかも戸惑う。


居間に入ったらコタツがあって、そこに座ってとかそういう空間ではない。


「……」


ふと、視線。気づくと忍と森さんに観察されていた。

うん、明らかにみられてたとかいう感じじゃなくてこれ、観察されてる。オレがどう動くのか見てる感じだ。


「忍、何とか言って」

「あぁ、ご両親いないから基本的に森ちゃんと司くん二人ぐらしの家」

「知ってるよ、そういうことじゃないよ」


といいながらも立ち上がって、二人はソファの方に移動した。


「こっちどうぞ」

「ありがとうございます」


適当にって、どこに? みたいな感覚なのはばっちりわかってくれたらしい。

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