ホワイトデーがやってくる

1.ホワイトデーが近い

※せかぼく本編、エシェルに係る著しいネタバレがさりげなく含まれています。

 本編併読の方はご注意ください。


 * * *


2月……バレンタインイベントは、菓子業界の完全勝利で幕を下ろした。


「お前らよくやったな。バレンタインどころか年間売り上げ目標を一日でクリアしたらしいぞ」


ひと月ほど前、オレたちはダンタリオンが依頼された広報用のポスターについてあーだこーだと言っていたくらいであるが…


資料を見せられると、一年間の総売り上げグラフが、そこだけ突き出て他の月の売り上げがよくわからないことになっていた。

それくらい大成功だったらしい。


「それで次はホワイトデーなんだが」

「いや、もうバレンタインで概ね企業戦略決まっただろ? 悩むほどじゃないんじゃ?」

「神魔起用のポスターと、シノブが提案した投票制度が爆発的にSNSで拡散し、以降も恒例化はしそうだな」


それで十分だろう。バレンタインに対し、ホワイトデーは日本オリジナルのイベントだというし、あとは好きにやってほしい。


「まぁいいか。業界からお礼にいろいろもらったのあるから好きほど持ってけ」

「え、いいの?」

「何のためにシノブがいない時にこんな話してると思ってるんだ? お前、お返しとか考えてる?」


……そういえば、もらったな。あとでよくよく考えたら、チロルチョコはフェイクだったわけだが、あれだけの量だと十分義理チョコに値する金額だっだと思う。

むき出しで手のひらに落とされたから、もらった感がなかったが、あとから渡された分も考えるとそれなりにきちんとしたお返しはした方がいい……のか?


正直、義理チョコの返しって微妙だ。


「他にももらったんだろ? 義理ならいっぱい」

「どういう意味だよ」

「再利用していいから、持ってけ」


あ、それ素直に助かるわ。

さすがに忍にそれはどうかと思うが、特に心こもってない義理チョコだったら色々本当に助かる。


ドン、とダンタリオンはラッピング済みの菓子らしきものが詰まったコンテナをテーブルに上げてきた。


「ツカサも好きだけいいぞ」

「俺は遠慮しておきます」

「まさかお前……義理にも本気で答えたいとかいう、どこかの恋愛ゲームの攻略対象みたいな所業を……!」

「するわけないでしょう。俺たちの部隊は庁舎内での受け渡し厳禁だから、貰いたい人間は外に出ろ、という扱いで」


……司さん……こもっていましたね?


庁舎外に出て接触さえしなければ、基本、貰わずに済むというとんでもシステムが採用されていた模様。

けどこれは、貰いたい人と貰いたくない人どちらにとっても理に適っている。


あげたい女子は本命なら頑張るだろうから、チャンスを潰したとまではいわないだろう。


「渡されたのはごく少数なので、使いまわしをするほどではないです」

「あとでシノブにもやるけど、妹に土産は?」

「……あとで忍と選ばせてください」


この辺りは安定の判断基準だ。


「司さん、森さんと忍は恒例みたいですけど、今年は何返すんですか?」

「あの二人は並大抵のものじゃ喜ばないからな。かといって、見返りを期待してるわけじゃないから、何を渡しても気にしないんだが……」


わかる。適当にコンテナから何か貰って渡しても、多分気にしない。

が、それではあのサプライズに負けすぎではないだろうか。

勝つほど何かしようと思わないが、悩みどころだ。


一方で司さんは、気持ちには気持ちを返したいようだ。


「だから、二人まとめて一日どこかに連れ出そうかと」


すっごい喜ぶわ、それ。目に浮かぶようだわ。司さんから遊びのお誘いってだけでもレアだからな。


「オレも便乗していいですか!?」


この機を逃したらオレはただ、パッケージ物を買って渡す羽目になる。


「お前なー。ちょっとは自分で考えたらどうなんだ?」

「そういえばお前はあの大量のチョコの送り元がみんなわかってんの?」

「……わからないのもあるから、適当にパーティでも開いて送ってくれたヤツは来い形式にしようかと」


お前の方が失礼な感じになってるぞ。

もっとも、魔界の公爵のパーティなんてそうそう招かれるものでもないから、みんな喜ぶだろう。分からない人間をどうやって招くのかがまず、見ものであるが。


「秋葉、便乗というか、一緒に遊びに行くくらいだけどそれでいいのか?」

「あ、奢りとかもちろん出します。オレ、忍経由で森さんからももらってたんで」

「聞いてる。あの二人のチョコの行き先は大体同じだから」


そうなんか。

そうするとエシェルのとこにも行ってる感じだな。


「今年のホワイトデーは折しも日曜だな。日がかぶるからオレはいけない」

「お前そもそももらってないだろ。お返しは貰ったやつにしとけ」

「……」


思い出したらしい。

忍はたくさんもらえる人には自分からのチョコは不要と判断して、ダンタリオンには本当に渡していない。


「どこに行きます?」


オレは司さんと早速打ち合わせを……


「あとにしろ。ここをどこだと思ってんだ」

「仲間に入れないからっていつもの雑談を邪魔するなよ。アイデアがあるなら言っていいから」

「おま……! いつからそんな傲慢な子にーーー!」

「お前の真似」


オレ、結構強い子になったと思う(対ダンタリオン限定)。

傲慢な域には達していないと思うけどな。


「天気が良さそうなんだ。暖かくなってきたし、ピクニックとか地味に喜ぶと思うんだが」

「……確かに地味ですね」

「けど日と季節と天候が合わないとできないという意味では、いつでも行ける場所より、セッティング難易度は高い」


ホントだ。街に繰り出すとか通年でできるわ。聞いてしまうと付加価値がすごい。

そして、忍も森さんもそういうことにはきっちり気が付くタイプだから、たぶん、何でもない一日でも喜ぶだろう。


「そして、滅多なことではピクニックなんてする機会はない」

「すみません、オレしたことないんですけど何を用意すればいいんですか」

「コンビニスイーツ」

「すっかり不貞腐れたそこの大使は仕事でもしてろ」


しかしそういうアウトドアは司さんも率先してやるタイプではないせいか、ちょっと考え込んでいる。


「まだ少し時間があるからちょっと調べて……」


本格的ですね。

なんだかんだいって、こういうところは森さんとやっぱり似ていると思う。


「小さい頃に親がよく連れて行ってくれたから、どこかにそういうセットはあったと思うんだ」

「オレが用意してやろうか? 銀製品とかあるぞ」

「有難いですけど、そこだけ豪華にしても意味が……」

「あ」


オレはふと。思いついた。


「エシェルを誘いましょう、司さん」

「……オレの前でそいつの名前を出すか、いい度胸だな秋葉」

「急に殺気立たないでくんない? あれはフランス大使だ。今はそういう話だ」

「……」


こればかりは見逃した立場にあるので、悪いとは思うが……とりあえず、目の前の打ち合わせが優先だ。

何せ忍は、アスタロトさんと別室で召喚の教習中なのでうかうかしていると戻って来る。

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