2.魔界公爵のどや顔
「気持ちは!?」
「たくさんもらってる人には必要ないかなと」
「合理的だね」
高級感のある生チョコをオレと司さんも分けてもらって食べている。
「世話になってないもんな」
「そういうお前はもらったのか!」
「もらった。そして、お前は確実に司さん以下だ」
オレに降るなと思いつつ、事実を突きつけてみた。
「実際、お前けっこうもらってるんだろ?」
「けっこう?」
そう言うと、なぜかふふん、とどや顔になるダンタリオン。
「そうだな、けっこうといえばけっこうだな。見ろ」
ドザザザザザ。
どこからともなく、執務用の大きな机の上にチョコが降ってきて、あっというまにラッピングの山が出来上がった。
「……お返しが大変そうだね」
「ちなみに私は気持ちなので、お返しは一切必要ありません」
「そうなの?」
「見返りを期待していない分、下手に義理で返される方が嫌なんだ」
難しい奴だ。
一方で、相変わらずどや顔のダンタリオンは机に足を乗せて、高級執務チェアにふんぞり返っている。
「どうだ、これが人望というものだ」
「人望って言うか、派手さの極みって言うか」
「ラッピングきれいー公爵、これもらっていいですか?」
「持ってけ持ってけ」
さっきまで欲しがってたやつ誰だよ。逆にあげるのかよ。
「秋葉ももらう?」
「それ、むしろ今まで感じなかったみじめさを感じるから絶対に要らない」
「司くん、これとか森ちゃん好きそうだよ」
どれ?と司さんが席を立つ。
ちょ、待ってください。司さんはそこから何かを持ち帰ることに抵抗はないんですか。
……ないんだろう。
なぜなら行き先は森さんだから。
「チョコは森ちゃんと一緒に見に行ったから、生チョコも預けてある。司くん、帰ったら森ちゃんと食べてね」
「ツカサはまさかのダブルなのに、オレにはないのかシノブ」
話題が不意に戻った。
忍はやや沈黙してからオレの方に戻ってきた。
「秋葉、一個分けてあげて」
「何、分けてあげてって!?」
「……オレが分けんの? 魔界の公爵に」
思わずにやにやしながらオレ。
ダンタリオン、お前はチロルチョコ一個以下だ。
「なんだその笑い方! 腹立つ!」
「大衆イベントだけど、量より質の方が嬉しいものだよね」
「ウェハースでいい?」
「いいんじゃない? 普通、ラッピングチョコにない感じだし」
「そういうレア度はいらねーよ。ってか、これチロルチョコだろ。秋葉、お前もこの程度じゃねーか!」
今日に限って忍のダンタリオンに対する扱いも心なしぞんざいだ。
本当に必要ないと思っているのだろう。
どうみても質より量で満足しているどや顔だったから、まぁいいんじゃないだろうか。
オレとダンタリオンがやり取りしている間に、忍は司さんと森さんお土産用のチョコを再び選定している。
切り替え早いな。
ちなみにアスタロトさんはさりげに口をはさんでいるが、傍観者のごとく何事もないかのように、お茶を飲んでいる。
「冗談ですよ、公爵。はい、これ」
「……シノブ、オレは見ていたぞ。今そこの山から選んだだろ」
「ちゃんと選びました。シャンパンゴールドのラッピングが公爵に似合ってると思いません?」
あぁ、なんか派出そうなところとかな。一応、品のある色だし。爵位も意識してみたんだろう。
選んだところで、それ、知らない誰かが買ってここに流れ着いたものだぞ。
しかし。
「ゴールドの下のシルバーリボンにブルーのラインでしょ? こんな感じのブルーって公爵の持つ色でしたよね」
「お、よく見てるな。確かにこのデザインは悪くない」
「何? ラッピングの話? イメージカラーまで考えると面白いね」
すっかり話題が逸れた。
元より食い気にあまり興味なさそうなアスタロトさんも席を立って、見物するように改めてチョコの山を見る。
「アスタロトさんは金よりプラチナかなぁ。でも髪とか服の色と被るんだよね」
「質感にもよるだろ? 模様とか」
「こっちの白地に銀模様のラッピング、白の細いリボンに黒タグが映えててかっこいい」
「確かにただの紙だと安っぽいな~ ギンガムチェックとか、ないだろ」
何の品評会だよ。
「リボンでも差が出る。ラッピングと同じ色をベースに入れて二色三色になるとゴージャス」
「これなんかいいんじゃないか?」
司さん、誰にですか。
でも一人でソファにいるのも何なので、参加する。
「さすが公爵あてだけあって、きれいなのが多いですね」
「そうだろう。贈り物は人望のバロメーターだからな」
下げて上げる作戦なのか。
……いや、忍はそんなことは考えていないだろう。
しかし、その後、終始ダンタリオンはご機嫌だった。
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