第4話 日帰りの約束


 カイエは麗奈れいなに手を貸すと約束・・を交わした。


「だったら、麗奈と加奈子かなこの安全は俺が保証するけど。麗奈の望みは『光の神の使徒』の奴らを殺すことなんだよな。それって奴らを皆殺しにするってことか?」


 皆殺しにするなら、それでも構わないと漆黒の瞳が告げるが……


「皆殺しまでは言わないけど……私の命を狙う連中とは徹底的にやるわ! また装甲車とか出てきたら、カイエに頼るしかないけど……私だって自分で戦うわよ!」


「まあ、独自魔法オリジナルマジックが作れる麗奈なら、装甲車オモチャなんて簡単に壊せるようになる筈だけどな。今のおまえは魔力の使い方が雑なんだよ」


「雑って……言ってくれるじゃない。だったら、あんたが私に魔法を教えなさいよ!」


「別に良いけど。俺が暇なときで、麗奈にやる気があるならな」


「やる気なら勿論あるわよ!」


 前のめりの麗奈に、カイエは苦笑する。


「おまえさ……やる気なのは解ったけどさ。水色の縞は、俺の趣味じゃないから」


「え……」


 麗奈は足を組んだままカイエに迫ったので……制服のスカートの隙間から下着が見えていた。


「何見てるのよ、変態!」


「何だよ、おまえが勝手に見せたんだろ」


 麗奈は真っ赤になって隠すが、カイエの方は余裕だ。加奈子がバックミラー越しに極寒の視線を向けているが、それも気にしていない。子供扱いされて、麗奈は気に食わなかった。


「それで……カイエが私と加奈子さんを守ってくれる対価として、何を要求するのよ?」


 カイエは邪神でも悪魔でもないから、身体も魂も要らないと言っていたが……


「対価なんて要らないよ。俺がやりたいと思うことをやるだけだからな」


 カイエが本気で言っていることは、麗奈にも何となく解るが……


「そんな訳にはいかないわよ! 無償で守って貰うなんて、私のプライドが許さないわ!」


「麗奈って面倒臭い奴だよな。だったら、こっちの世界の金を報酬としくてれよ。金があった方が、なにかと便利だからな。金額は……おまえと加奈子の命の値段だからさ、そっちで決めろよ」


 意地の悪く笑うカイエに、麗奈は思いきり顔を顰める。


「解ったわよ! 絶対に文句を言わせない額をキッチリ払うから!」


「とりあえず、二人には護衛をつけるよ。さっきの装甲車オモチャなら素手で引き千切れるレベルなら、問題ないよな」


「装甲車を素手って……勿論、十分だけど。カイエがいるんだから、護衛なんて要らないわよね?」


 不思議そうな顔をする麗奈に、カイエは平然と応える。


「いや、俺は今日のうちに帰るから。ずっと護衛をしてるぼど暇じゃないからな」


「えー! それじゃ約束が……違わないけど」


 カイエは麗奈と加奈子の安全を保証すると言ったが、自分が護衛するとは言っていない。ベルカッツェとの契約を考えても、魔神のカイエがずっと護衛してくれる筈はないのだが……何となく一緒にいてくれると思っていた。


「俺がいないときに、もし護衛でも敵わない奴に襲われたらさ……これを使えよ」


 カイエが何処からか取り出したのは、何の変哲もない銀の指輪シルバーリングだった。


「何よ、これ……あんた、私を口説いてるつもり?」


「おまえなあ……俺の世界まで『伝言メッセージ』を送れるマジックアイテムだよ」


 『伝言メッセージ』とは特定の相手に言葉をイメージで伝える単純な魔法だが……世界を跨いで届けるとなると、それだけで超弩級のマジックアイテムだ。


「別の世界にいるカイエに『伝言』が伝わるなんて……本当でしょうね?」


「何だよ、疑い深いな。とりあえず、俺が向こうに帰ったら試してみろよ」


 麗奈はまだ半信半疑だが……カイエのやることだからと諦めるしかなかった。


「ところで、そんなに急いで帰る理由って何よ?」


 麗奈の女の勘が警鐘を鳴らす。


「俺には一緒に住んでる奴らがいて、夕食は一緒に食べるって約束してるんだよ」


「ふーん……それって家族ってこと? 魔神のくせにカイエには家族がいるんだ」


「まあ、家族には違いないけどさ……妻が四人と愛人が二人だよ」


 カイエの衝撃発言に、麗奈が目を丸くする。


「え……あんたって化物のくせに、女ったらしなの?」


「別にたらしとかじゃなくて、全員本気で誰よりも大切に想ってるよ。まあ、麗奈にしたら、大概だと思うのは解るけどさ」


 恥ずかしげもなく堂々と惚気るカイエに、麗奈は呆れる。


「あんたねえ……もうその話は良いわよ。つまり、カイエはこっちの世界に来ても、毎回日帰りで帰るってことよね」


「ああ、この条件は譲れないからな。麗奈も一緒に夕食を食べるなら、そのうち連れて行くけど」


 魔神と妻たちの晩餐に麗奈も興味があるが……何となく癪に触る。


「それは遠慮するけど……カイエは何時までいられるのよ?」


「とりあえず、18時までだな」


 二つの世界の時間の流れる速度がほとんど同じで、カイエの家がある場所と時差が1時間ということは『異界の門ゲート』を開いた時点で確認している。


「もう護衛は用意したけど、今は実体化してないから見ることも触れることもできないからな。証明しろって言うなら、実体化させるけど?」


「装甲車を素手で引き千切るような化物なんでしょ? 用もないのに実体化なんてさせなくて良いわよ」


 カイエが嘘をついているなどと麗奈は疑っていない。そんな必要はないからだ。


「幾つか確かめたいことがあるんだけどさ。麗奈たちは今、何処に向かっているんだよ?」


「何処って……政府機関の急な依頼で、指定された打ち合わせ場所に行くところだけど」

「つまり、いつもと違う場所を移動してるってことだよな。そこで襲われたってことはルートまでバレてるんだし、内通者がいるってことだよな」


「そうね……カイエが言っていることは、たぶん正解よ」


 内通者の存在には麗奈も気づいていたが、身内に裏切者がいるなど信じたくはなかったのだ。


「麗奈が『未来視』が使えることも、修道服たちにバレていると思うか?」


「『電子情報透過』で情報を掴んだように上手く偽装しているし、『未来視』のことを知ってるのは身内でも極一部だけだから大丈夫だと思うけど……そんな質問をするってことは、カイエはバレてるって思うの?」


「そうだな……なあ、麗奈。これまで今日みたいに襲われたことは?」


「私たちがいる日本って国は世界一安全な場所で、銃撃戦なんて滅多に起こらないわよ。だから、日本で襲われたのは今回が初めてで……」


 説明している途中で麗奈は気づく。『光の神の使徒』がわざわ装甲車まで用意して襲ってきたのは、麗奈を確実に殺す理由ができたからで……


「『未来視』のこともバレてる……」


「そう考えた方が良いな。麗奈が言った極一部の身内の中に内通者がいるんだよ」


 カイエの漆黒の瞳が、獲物を狙う鋭い光を放った。

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