第3話 特A級の理由
他に車が走っていない高速道路を
麗奈に言われたからグロックはホルスターに仕舞っているが、とても警戒を解く気にはならない。
少し長い黒髪と漆黒の瞳。ハーフのような整った顔立ち。ラフな服装のせいで遊び好きな大学生のように見えるが……カイエは紛れもない化物なのだ。
「さっきの修道服の連中は『光の神の使徒』って秘密組織のメンバーで、奴らは魔術士を地上から殲滅しようとしているわ」
麗奈はカイエをどうやって口説き落としてやろうかと思惑を巡らせる。『光の神の使徒』に対抗するには、魔神であるカイエの力がどうしても必要なのだ。
「『光の神の使徒』は中世の時代から続く組織よ。奴らは魔女裁判の仕掛人になって、何万人もの魔術士を火炙りにした。
その後も世界の裏側で暗躍して、魔術士が多い民族との紛争を仕掛けたり、一般人に紛れた魔術士を探し出しては血祭りに上げて来たわ」
「魔術士を殲滅するとか、頭のイカれた連中だってことは解ったけどさ。麗奈も魔術士って理由だけで、奴らに襲われたのか?」
「ここは武器を持っているだけで捕まる世界一安全な国だから、これまでは奴らも表立って行動することはなかったわ。
なのに軍用兵器まで持ち出して襲って来たのは……私が二つの特別な魔法を使えるからよ」
「麗奈さん!」
加奈子が慌てて止めようとするが、麗奈は不敵な笑みを浮かべて首を横に振る。
「加奈子さん、良いのよ……カイエに契約して貰うためなら、私は全てをさらけ出すわ」
能力を知られることは麗奈にとってリスクだが、自分の価値をカイエに認めさせる必要があるのだ。隠しごとをしている場合じゃない。
麗奈はスマホを取り出して呪文を詠唱する。魔法によってブラウザのような画面が出現し、暫く待つと氏名や年齢と写真が掲載された一覧が表示された。
「この魔法は『
ちなみに今表示してるのは自衛隊……この国の軍隊の機密情報で、存在しない筈の諜報部隊のリストよ」
説明しながらカイエの反応を伺う。『電子情報透過』の価値が何処まで伝わっているか探るためだ。
「おまえが言っていることの意味なら解ってるからさ、説明を続けろよ」
カイエは麗奈の意図に気づいており、
「もう一つの特別な魔法は……加奈子さん、テレビをつけて。ニュースが良いわね」
カーナビの画面にニュース番組が映る。男女二人のキャスターが出演しており、女性の方がニュースを読み上げている。
麗奈は呪文を詠唱すると……
「次のニュースは品川で起きた事故で、五十代の運転手の車がコンビニに突っ込んだみたいね。その次は笹本って俳優が覚醒剤で捕まった事件。それから……」
麗奈が告げた順に女性キャスターがニュースを読み上げて、内容もそのままだ。
「『
未来を知ることができる魔法には途轍もない価値がある。勿論金儲けにも使えるし、危機の回避や、死に繋がる病気を知って早期治療するなど使い道なら幾らでもあるし……
『光の神の使徒』が引き起こす事件を事前に察知して、罠を仕掛けて一網打尽にすることだってできるのだ。
「『未来視』か……なるほどね。欠点も多いけど、奴らにとって脅威だよな」
「何よ、カイエ……まるで自分も『未来視』が使えるような台詞じゃない」
『電子情報透過』も『未来視』も麗奈だけの
「ああ。俺は魔法の原理を全部理解してるからさ、使えない魔法なんてないよ」
「冗談でしょ! いくらあんたが魔神でも、『未来視』が使える筈がないわ!」
「この女が2分後に読み間違えて、隣りの男が指摘する」
「え……」
キッチリ2分後、カイエが言った通りになった。偶然の可能性もあるが、時間まで正確なのは偶然にしてはでき過ぎている。
「『未来視』でも自分に直接関わる未来を知ることができないだろ。『未来視』が使える時点で未来の可能性が増え過ぎて、情報がオーバーフローするからな。だから、麗奈も修道服の襲撃を予知することはできなかった」
完璧な説明に、麗奈は息を飲む。
「自分以外についても見えるのは『未来視』を使った時点の未来だからな。未来なんて不確定要素によって刻々と変化するから、そこまで確実なモノじゃない。
例えば人が介在する未来は、今みたいに直近なら当たる確率が高いけど、一日後でも細かいところはブレるからな」
「解ったわよ……カイエが『未来視』を使えることは認めるわ。ねえ……もしかして、『電子情報透過』も使えるってこと?」
次の瞬間、カーナビの画面が切り替わり、本来ある筈のないブラウザが表示される。高速で流れる大量の文字と画像は、麗奈のスマホでデザリングして、『電子情報透過』で得たものだ。
レベルが違い過ぎて、カイエの能力は麗奈の理解の範疇を軽く超えているが……だからこそ、どんな手を使ってでも絶対に契約してやると、麗奈は改めて心を決める。しかし……
「麗奈の事情は解ったし、修道服の連中は気に食わないからさ。俺が手を貸してやるよ」
カイエはアッサリ言った。
「それじゃ……カイエは私と契約してくれるの!」
期待に満ちた麗奈の顔を見て、カイエは苦笑する。
「いや、契約はしないよ。そもそも契約ってさ……身体や魂を差し出すとか、俺は邪神や悪魔じゃなくて、魔神だからな」
「邪神と魔神の違いは解らないけど……結局、口約束を信じろってこと?」
真っ直ぐに向けられる攻撃的な青い瞳を、漆黒の瞳が受け止める。
「魔神は特定の属性を司る存在のことで、別に邪悪な存在じゃないからな。まあ、それは置いておいて……約束したことは、俺は絶対に守るよ」
「解ったわよ……私はカイエを信じるわ」
契約という形で縛らないことに不安を覚えるが……カイエなら信じられると
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