不登校新聞

めり

第1話

15歳の時、10枚の新聞を持って在籍している中学校を訪ねた。10枚の新聞。これは爆弾だ。


机の上にはボンドまみれの赤白帽子。ボンドでどろどろの机。先生が来る前に必死でボンドを片付けた。それが私の不登校の始まり。


不登校生活3年目、私は中学三年生の年になった。でも、それだけだ。毎日ゲームに逃げ込んで現実を忘れようと努力する日々に代わり映えはない。昼間に面白いテレビ番組はやらないのだということを思い知っただけだ。笑っていいともにも、ごきげんようにも飽き飽きしていた。


でも実は最近、ちょっといいことがあった。不登校の子供の会を作ったのだ。不登校の親の会はあるのに子どもの会がないなんてつまらない!友達がほしい!その一念で、不登校の親の会の人全員に電話をかけて「子どもの会をつくりませんか?」と呼びかけたのだ。運良く4人の子が集まってくれた。会の名前だって考えた。「EARTH」っていうの。ベタな名前だけどいいでしょ?

真面目に活動しようと思ってメンバーと新聞を作ったんだ。その名も「不登校新聞」記事のメインの内容は不登校の現状、他にも読みやすいエッセイやおすすめの本のコーナーも作った。オススメ本が五味太郎なんて洒落てるし、メインの不登校の現状の記事も快作だ。現在の不登校者数と不登校になった原因、不登校の受け皿として注目されているホームスクーリングや、フリースクールについても書いた。不登校は変な事じゃなくて、不登校になっても道はあるってことを伝える内容だ。メンバーのゆみちゃんが書いてくれたイラストもめちゃくちゃうまくて目を引く。


これを親の会に持っていったら、みんなすごく喜んでほめてくれた。だからってわけじゃないけど、中学にも持っていったらどうかって思ってるんだ。いや、持っていくべきじゃない?見せたい。そう思った。


行こうと決めてからははやくて、次の日には、入学して1ヶ月も立たないうちに、行かなくなった中学校の門の前に立っていた。もっと緊張するかと思ったけど、授業中でシーンとした学校にはあっけないほど簡単に入れた。

職員室に入るとまばらに先生たちがいて、不審げにこっちを見てくる。担任の先生はいなくて、副担任の木村先生が、

「笹井さんどうした!?」

とこちらにやってきた。

「先生たちに見てほしいものがあって来ました。」

というと木村先生は、

「なんだい?どうしたんだい?」

と言いながら応接間の戸をあわてて開ける。

「新聞を作って、、、」

とそこからは応接間に歩く間も機関銃のように私は喋りだした。不登校の親の会というのがあること。子どもの会を作ったこと、公民館で週一回集まってること、新聞を作ったこと。

応接間の椅子に座った瞬間には、新聞の入った封筒を取り出して机の上にのせていた。

木村先生は私の話しを少し面食らったように聞いていたが、新聞を作ったと言うと、

「すごいなぁ。よませてほしいなあ。」

と言った。喜んで新聞を渡すと、真剣に読み始めて、読み終わったあと少し考える仕草をした後、秘密を打ち明けるように、

「実は、先生も学校ってなくていいと思ったことあるんだよ。それを気づけるなんて鋭い視点だね。」

と言った。

「え、、、?」

「先生なのにおかしいかい?でも、笹井が書いたような視点は必要だよ。」

拍子抜けした。そんな返事が来るなんて予想はしていなくて、どんなことを言われても言い返せるように身構えていたのに。私の小さな爆弾は不発に終わった。でもちょっと嬉しかった。



その後、私は木村先生と何を話し、結局残りの新聞はどうなったのか覚えていない。でも、あの夏の日、セミの声がする中で先生が言った言葉だけを今も鮮明に覚えている。

私は今、教師になった。きっと木村先生の目には卒業を間近に控えて、高校に進学するあてもなく、将来への不安と恐怖に飲み込まれそうになって必死に虚勢を張る私の姿が見えていたのだろう。精一杯、意地を張って自分は大丈夫なんだと新聞を書いてきた姿が見えていたに違いない。だからこそ、秘密を打ち明けるように寄り添ってくれたのだ。教師は一瞬の瞬発力を問われる瞬間がある。日頃の人間性が一瞬であらわになる瞬間が。木村先生、私は果たして木村先生みたいになれているでしょうか。今、あなたの言葉が聞きたい。

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不登校新聞 めり @mizucomery

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