第2話 ボクは……だれ?(おまけ的なやつ)
「あ、お待たせ〜」
学校帰りに絵名とモールに向かう。絵名はいつも通りの格好で来る。けど、ボクは…
「待ったんだけど?」
「ごめんごめん。補習が長引いちゃってさ」
「単位だけは落とさないでよね」
「え?なんで絵名がそんなの気にするの?」
「それは…いいから早く行こ」
珍しい気がする。いつも、そんなこと言わないのに今日だけはその話に触れた。きっと、MVの制作が終わらないからとかそういうことだろうけど。9月の初めと言っても暑いわけではなく寒いぐらいだった。
「それにしても寒いね」
向かう最中寂しくならないように頑なに話しかける。だけど、うんとかそうだけで全く聞いてくれないようだった。絵名、どうしちゃったんだろう。モールに着いた。いつもと同じ道なのに長く感じた。
「この前気になる服見つけてさー、時間なくてちゃんと見れなかったから今回はーー」
やっぱり、聞いてないようにしか見えない。ほんとに聞いてないの?それとも聞いてるの?ま、どっちにしたっていいんだけど。だって、誰もボクのこと気にしてないんだし。
「これかわいい〜」
「試着しますか?」
「いいんですか。お願いしまーす」
店員さんの後をついて行って試着室に着く。カーテンを開けて中に入る。服を着る瞬間は最高に楽しいんだよね。上の服だけだから制服を脱ぐ。カーディガン、ポロシャツ…
「あっ…」
鏡を見て思わず声が出た。服を着る瞬間は最高に楽しいけど、最高につまんない時でもある。顕になったボクの上半身は女の子と言えるか微妙な体つきをしている。いや、もうそういうのやめるって誓ったんだ。自分を責めてばかりじゃ何も変わんない。無意味だって思って。でも、やっぱり無理だよ。いくら隠し通そうとしたってみんなはわざと聞こえるようにボクに向かって行ってくる。分かってくれるのはーー
「瑞希っ!大丈夫?なかなか出てーー」
カーテンの隙間から顔だけこっちに出して尋ねてくる。絵名の顔が歪んで見える。
「瑞希…どうしたの?」
わかんない。わかんないよ…涙が溢れる。自分が醜い。嫌い。鬱陶しい。
ーーーーーー消えたいーーーーーー
こんな気持ち、初めて。何、この感じ。なんかすごいモヤモヤしてる、だけどなんだか切ない。あれ?ボクは…誰だっけ?ボクは、ボクは……
「瑞希?瑞希!」
みずき。聞き覚えのある名前。ここではっとした。
「え?ごめん。ボク何かあった?」
「急に泣き出すからびっくりしたんだけど」
ボクとキミが一生交わることも無い。生まれ変わることも無い。このちっぽけな世界の中で今日も1人、いや何億人と悩みの種を知らず知らずのうちに成長させていってる。そんなことを考えるとボクの悩みはほんのわずかでしかないんだと思う。
暁山瑞希の秘密 @karua820
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