新月

立花 ツカサ

新月

満月は綺麗だ


全てがある


人の綺麗な心も

自らが放つ輝きも


全部



そんな満月が

そんな月が


僕は嫌いだった


新月の夜が


好きだった


だって、そうじゃなきゃ・・・



ある日、俺は彼女とデートをしていた。

彼女と映画を見に行って、美味しいご飯を食べて、たくさん笑った。

とてもとても楽しかった。

いわゆる僕たちは「リア充」なのだろう。


・・・違う


「今日満月だね」

「あぁーそうだな。」

彼女は俺をじっと見て、ちょっと照れながら

「月が綺麗ですね。」

と言った

俺は笑いながら

「月はずっと綺麗だよ。」

と言った。

本心だった・・・


それから、彼女と別れ、家へ帰った。

誰もいない暗い部屋に電気をつけ、心の中で「ただいま」と言った。


ベットに寝そべって考えた。


『充実なんてしていない。ただ僕らは、「可愛らしくて容姿のいい女の子」と「優しくてまあまあかっこい男」を求めていただけだった。

悲しい話だと分かっている。それに、お互いわかっていても認めたくないのだ。

確かにこの関係が好きだ。彼女のことだって好きだ。結婚だってしてもいいと思っている・・・』

「あぁーもう考えるな。」

口に出していったら本当にそうできた。


正直者なんかになっちゃダメだ・・・


それから、俺は深い眠りについた。



それからほぼ一ヶ月たったある日、彼女とデートをした。

その日は・・・新月の日だった


「今日は、月がないから寂しいね。」

「暗いな。」


それから、今までで一番いいお店に行って食事をした。

とても楽しかった。


駅前で別れる時、気持ちを伝えた。


「あのさ、凛」

振り向いた彼女はやっぱり綺麗だった。

「なに?」

「俺と、別れてくれ。」

「えっ・・・なんで?私のこと嫌いになったの?」

「好きだよ。でも、俺は凛のことを幸せにできない。

俺なんかじゃない、もっと凛のことを思ってくれる人を見つけて、幸せになって欲しい。」

彼女の目には何も浮かんでいなかった。

「分かった。

今まで、私のことを自分の中で精一杯大切にしててくれてただけでも、私は幸せだった。ありがとう。

じゃあね。」


そう言って、彼女は駅の中へ消えていった。


俺の中ではあの満月の日から、月が欠けるたび隙間を埋めていくように、「もう彼女のことを幸せにできない」という気持ちが増していった。

 でも、今日それが全て消えた。


「俺には、もう何もない」

光を失った小さな星だ。ただそこにあるだけの石ころだ。


でも、新月は・・・








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新月 立花 ツカサ @tatibana_tukasa

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