第11話 グラディス先生の研究室は最悪です

先生たちにマッサージを終え、馬車で家路についた。


「お帰りミレニア、随分と遅かったね!」


先に帰って来ていたお父様が出迎えてくれた。そうだわ、お父様にお礼を言わないと!


「ただいま、お父様。クラウド様の件で動いてくれたと聞いたわ。ありがとう!」


深々と頭を下げた。


「ミレニアにお礼を言われる様な事はやっていないよ。そもそも、クラウド殿下は物凄く優秀で、本来王太子になってもおかしくはない人材だ。それをくだらない呪いなんて話で彼を苦しめ、挙句暗殺をしようと企てた第一王子派に、少し牽制をしたまでだよ!」


そう言うと、改めて私の方を向きなしたお父様。


「それで、お前はクラウド殿下の事が好きなのかい?社交界では、お前とクラウド殿下の仲の良さは既に有名な話だ。お前たちが近いうちに婚約するのではないかという話まで出てきている。私は、お前がクラウド殿下と結婚したいと言うなら、陛下に話をするつもりだ。クラウド殿下もお前と婚約し、家の保護下に入った方が安全だろう」



「ありがとう、お父様!確かに私はクラウド様を心よりお慕いしているわ!でも、今はまだその時期ではないと思っているの。もっとクラウド様には私の事を知ってもらって、彼と心が通じ合ったタイミングで婚約したいと思っているの。もちろん、クラウド様が別の人を好きになった時は、潔く身を引くつもりよ!だからお父様、もう少し見守っていれくれると嬉しいな」


私の言葉に、大きく目を見開いたお父様。


「まだまだ子供だと思っていたのに、いつの間にか相手を思いやれる優しい子に成長していたんだね。わかったよ、ミレニア。お前が思う様にしたらいい!ただ、クラウド殿下は引き続き私の方で守るようにするから安心しなさい」


そう言うと、にっこり微笑んだお父様。


「ありがとう、お父様!大好きよ!」


ギューっとお父様に抱き着いた。いつでもどんな時も味方でいてくれるお父様。本当に感謝してもしきれない。


「ミレニア、早く着替えて来なさい。そろそろ晩ご飯の時間だよ」


お父様に言われ、自室に戻り着替えを済ませた。食堂に向かうと、お兄様が飛んできた。


「ミレニア、早速お前が書いた資料を研究者たちに見せたんだが、皆口々に素晴らしいと言っていてね。早ければ今週中にも、毛染め剤第一号が出来そうだ!」


「まあ、そんなに早く出来るのですか?」


「まだ実験段階で、改良を加える必要はありそうだがね。発毛剤の方も、今研究者たちが色々と調べているところだ!」


どうやらお兄様は研究が楽しい様で、目を輝かせている。とりあえず、こちらはお兄様に任せてもよさそうね。そうだわ!


「お兄様、毛染め剤ですが、どうしても薬剤で髪が傷んでしまいます。その為、毛染め剤専用のトリートメントも一緒に開発して頂けると助かりますわ」


「なるほど、確かにミレニアの美しかった髪も、随分と痛んでいしまったしね!分かったよ、トリートメントの方も合わせて開発を進めよう!なんだか物凄く楽しくなってきたよ!」


そう言って嬉しそうにしているお兄様。賢いお兄様と優秀な研究者がやる気を見せてくれているのですもの。この分だと、随分早く商品化できそうね。



翌日。

早速放課後にグラディス先生の元へと向かう事にした。教室を出て研究室に行こうとした時、クラウド様に声を掛けられた。


「ミレニア嬢、今から帰るのかい?」


「いいえ、今からグラディス先生の研究室に行くところですの。実は昨日の放課後、先生たちにマッサージをしたところ、ぜひマッサージの研究をしたいと言われて」


昨日の出来事をクラウド様に簡単に説明した。


「それなら僕も行くよ!君1人であの先生の元に向かわせるのは心配だからね」


クラウド様が、私を心配して付いて来てくれると言ってくれたわ!なんてお優しいのかしら!


「ありがとうございます、クラウド様。では参りましょう」


クラウド様の手をがっちり掴み、先生の研究室へと向かう。最初はなぜか顔を赤くしていたクラウド様だが、最近は私が手を掴むと当たり前のように握り返してくれる様になった。これは嬉しい進歩だ!


コンコン

「グラディス先生。来ましたよ」


ドアをノックし、外側から声を掛けた。すると


「悪いが今手が離せないんだ!勝手に入って来てくれるかい?」


手が離せない?クラウド様と顔を見合わせた。


「先に僕が部屋に入るよ」


そう言ってドアを開け、部屋に入って行くクラウド様。その後に私も続く。もちろん、手はギューッと握られたままだ。初めて入る研究室は、物凄く散らかっていた。はっきり言って、めちゃくちゃ汚い!それに、なんだか臭いわ、この部屋!


急いで部屋の窓を開けた。


「よく来てくれたね、ミレニア嬢。おや?クラウド殿下も一緒かい?そう言えば、君たちは付き合っているらしいね。彼女が心配で付いてきたのか」


そう言って笑ったグラディス先生。


「先生、適当な事を言うのは止めてください!僕とミレニア嬢は、つ…付き合ってなんて…いません…」


すかさず抗議するクラウド様だが、なぜか最後の方は小声になっていた。


「それより先生、何なんですか、この汚い部屋は!ニオイもきついし!」


「すまんすまん、つい研究に集中してしまってね。それじゃあ、早速マッサージの研究をさせてもらってもいいだろうか?」


ここでマッサージをしろと言うの?あり得ないわ!


「こんな汚い部屋でマッサージは出来ません。とにかく、部屋を片付けましょう!」


まずは部屋を片付ける事を提案したのだが…


「それなら君たちで頼む。私は奥で別の研究をしているから」


そう言って奥に行ってしまった先生。全く、どういう神経をしているのかしら。仕方がない、片づけるか!クラウド様にも手伝ってもらい、部屋を片付けていく。それにしても、そこら中に食べかすや食べた物の容器等が残っている。


気持ち悪いので、手袋をして掃除を進めて行く。仮眠用と思われる布団をどけた時、黒い生き物が沢山出て来た。


「キャァァァァァァァ」


私の悲鳴を聞きつけ、慌ててクラウド様が飛んできた。奥から先生も出て来た。


「どうしたんだい?ミレニア嬢!」


「ゴ…ゴキブリ!」


そう、私は前世からゴキブリが大の苦手なのだ。幸い転生してからはゴキブリに出会う事は無かったのだが、まさかこんなところでご対面するなんて!それも大量に…


恐怖からクラウド様にギューッと抱き着いた。そんな私を、優しく抱きしめてくれるクラウド様。


「なんだゴキブリか!ほら、これを使え」


先生が渡してくれたのは、何かの液体だ!


「先生、これは何ですか?」


「コレか?これは殺虫剤みたいなものだ。私が開発したんだ!こうやってゴキブリにかけると、ほら簡単に退治できるだろう?」


得意そうなグラディス先生。でも…


「先生、この薬剤が凄い事は分かりましたが、退治したゴキブリが転がったままなのですが…」


「悪いがクラウド殿下、片づけておいてくれるか?私はまだ研究が残っているから」


そう言うと、涼しい顔で再び奥の部屋へと戻ってった。何なのよ、あいつは!結局クラウド様がゴキブリを処分してくれた。


その後も2人で片づけた結果、何とかある程度片付いた。


「おお、随分と奇麗になったな!久しぶりに床が見えた!ありがとう、それじゃあ、早速研究を始めようか?」


嬉しそうに笑うグラディス先生。でも、もう日が暮れそうだ。さすがに帰らないと!


「先生、もう遅いので、明日研究を行いましょう。いいですか!せっかく私とクラウド様がきれいにしたのですから、絶対に汚さないで下さいよ!」


そう念押しをして先生の研究室を後にした。それにしても疲れたわ!掃除をするなんて、前世以来ね。


「クラウド様、今日は掃除に突き合わせてしまってごめんなさい!」


第二王子のクラウド様にまで、掃除をさせてしまったものね。さすがに申し訳ないわ!そんな思いから、深々と頭を下げた。


「僕は全然大丈夫だよ。あれほど汚かった部屋が、あんなにも奇麗になったんだ!ある意味貴重な体験をさせてもらったよ。それに…ミレニア嬢を抱きしめる事も出来たし…」


ん?最後の方は声が小さすぎてあまりよく聞こえなかったわ。


「ごめんなさい、クラウド様。最後の方があまりよく聞こえなくて!もう一度おっしゃってもらっても、よろしいかしら?」


私の言葉になぜか急に慌てだし


「いいや、何でもないよ。帰ろうか!」


そう言うと、私の手を掴んで歩き出したクラウド様。なぜか顔が赤い気がする。夕焼けに照らされているからかしら?それにしても、今日は本当に疲れたわ。慣れない掃除に疲れ切っているミレニアであった。

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