第10話 私のマッサージは学院でも人気です

「随分と楽しそうだね。一体何で盛り上がっているんだい?」


やって来たのは令嬢を引き連れた、王太子だ。


「マシュー殿下、見てください。ミレニア嬢の絵。とても個性的でしょう?」


そう言ってバカマシューに絵を見せる令息。ちょっと、人の絵を何だと思っているのよ!


「そう言えば、ミレニアは昔から絵が苦手だったね」


そう言ってクスクス笑う王太子。もう突っ込むのも疲れたので、放置しよう。


「でもこの絵、ある意味芸術だとは思いませんか?」


「それじゃあお前はこの絵を屋敷に飾れるのか?」


「それはちょっと…」


令嬢と令息のやり取りを聞き、また笑いが起きた。せっかく令嬢がフォローしてくれたのに!あの令息、私に恨みでもあるのかしら?


「それにしても、ずっと絵を描いていたから、なんだか肩が凝って来ましたわ」


そう言って肩を自分で叩く令嬢。肩が凝ったですって!元マッサージ師の血が騒ぎ出す。すかさず令嬢の後ろに回ると


「ちょっと失礼しますね」


そう言い、令嬢の肩をほぐしていく。


「ミレニア様、何を…あぁ…でも、気持ちいいわ…もう少し右をお願いします」


「右ね。ここかしら」


「あぁ…そこです、そこ…」


まだ16歳なのに、意外と凝っているものなのね。ある程度もみほぐしたところで、マッサージは終了だ。


「ミレニア様、ありがとうございます!とても気持ちよかった上、なんだか首から肩にかけて軽くなりましたわ。それにしても、一体どんな魔法をかけたのですか?」


鼻息荒く詰め寄る令嬢。


「魔法でも何でもないわ。マッサージという施術よ。ちなみにうちの使用人や家族にもとても好評なの。他にも肩が凝っている人が居たら、マッサージするわよ」


私の言葉で、次々とマッサージ希望者が手を挙げ、1人ずつ施術を行っていく。


「あぁぁ…気持ちよすぎる…何なんだこれは…」


この世の極楽と言わんばかりの顔をする令嬢や令息たち。


「そんなに気持ちいなら、俺もやって欲しいな」


王太子まで手を挙げた。その時だった。


「お前たち、何を盛り上がっているんだ。絵は完成したのか?」


先生がやって来たのだ。


「先生、ミレニア嬢のマッサージが天才的に気持ちいいんですよ。先生も受けてみてはどうですか?」


令息が先生に提案した。


「なんだ?マッサージだと?さすがに公爵令嬢に何かしてもらう訳には…」


そう言いかけた先生を無視し、肩をほぐし始めた。


「おぉ、これは!あぁぁぁ…何だこれは…」


一気に顔を緩める先生。


「先生、随分と凝っていらっしゃいますね」


そう言いつつ肩をほぐしていく。


「あぁぁぁ、ミレニア嬢、もう少し下を頼む…」


「ここですか?」


「あぁぁぁ…そこだ。気持ちよすぎるぅぅぅ」


ある程度もみほぐしたところで終了だ。


「ありがとう、ミレニア嬢。物凄く気持ちよかったよ。これは病みつきになりそうだ」


「それは良かったです。本当は背中や腰、足などもマッサージをすると、もっと体が楽になりますよ」


「何!全身も出来るのか。それはぜひ受けてみたいものだ!」


どうやら完全に私のマッサージの虜になった先生。結局そのまま授業時間が終わってしまった。


授業終了後はお昼だ。最近では、他の令嬢や令息と皆で食べる事も多い。でもなぜかこの日は、クラウド様に人けの少ない校舎裏へと連れてこられた。


「最近ずっと皆でご飯を食べていたから、たまには2人きりで食べたいなって思って」


そう言うと、真っ赤な顔をして俯くクラウド様。その姿がまた尊い!


「私もクラウド様と2人きりでご飯を食べたいと思っていましたの。最近はどうしても皆がいて、2人で話す機会が少なくて、少し寂しく思っておりましたのよ」


まさかクラウド様から誘ってくださるだなんて!こんなに嬉しい事があってもいいのかしら?ヤバイわ。ニヤニヤが止まらない!


「クラウド様、早速食べましょう。今日はクラウド様の好きなローストビーフを料理長に作ってもらいましたの!」


「これは美味しそうだね!いつもありがとう」


そう言って嬉しそうに頬張るクラウド様。そう言えばここ数日、クラウド様のお弁当も豪華になっていた。もしかしたら、料理人との関係もうまくいっているのかしら?


美味しそうに食事をするクラウド様の姿を見ていたら、私も自分で料理がしたくなったわ!せっかく前世の記憶を取り戻し、日本という料理がおいしい国で生きて来たのに、残念ながら料理が苦手なのだ。でも、おにぎりや卵焼きぐらいなら作れそうね。一度挑戦してみようかしら。


そう言えば、王都にみたらし団子によく似たお菓子が発売されたらしいわね。一度食べてみたいわ。みたらし団子、私大好きだったのよね。そうだわ!


「クラウド様、今度のお休みに一緒に街に出掛けませんか?王都に珍しいお菓子が売っているお店がありますの。せっかくだから、2人で行きましょう!」


休みの日もクラウド様と出来るだけ一緒にいたい。それに、いつ反王政派がクラウド様にアクションを起こして来るか分からないものね。


「僕で良かったら、ぜひ行きたいよ!」


少し照れ臭そうにそう言ったクラウド様。少し前に比べれば、随分と表情も豊かになって来た。うん、良い傾向だわ!


「それでは、週末家の馬車で王宮まで迎えに行きますわ」


「いや、さすがに令嬢に迎えに来てもらうなんて、情けない事は出来ないよ。一応僕は第二王子だからね。馬車はこちらで準備するよ」


そう言ったクラウド様。王宮内ではクラウド様の味方はほとんどいなかったはずだけれど、大丈夫なのかしら?


つい心配で、クラウド様を見つめてしまった。


「ミレニア嬢、心配してくれてありがとう。でも、君のおかげで最近僕に味方してくれる使用人も出て来たんだ。というより、君の父親が僕の父親に頼んでくれた様で、今回使用人が一掃されたんだよ。今までの使用人は全て解雇され、マーケッヒ公爵自ら手配した使用人が先日から来ているんだ」


何ですって!お父様が!そう言えば、私が王太子と婚約してしばらく経ってから、お父様に


“第二王子と仲良くしているみたいだね”


そう聞かれたから


“ええ、クラウド様はあの浮気男と違い、真面目で誠実でとても素敵な人ですのよ!結婚するなら、彼みたいな人がいいわ”


そう伝えた事がある。


なるほど、私の事を溺愛しているお父様が、クラウド様の事を気に掛けてくれたのね。さすがお父様だわ!今日帰ったら早速お礼を言わないと!


楽しい昼食も終わり、2人で教室に戻った。そして午後の授業が終わった後、なぜか先生に呼び出されたのだ。


私何かしたかしら?そう思いつつ、連れてこられたのは保健室だ。なぜか何人かの先生が集まっていた。


「呼び出してすまないね。君の事を先生たちに話したら、ぜひ施術を受けてみたいとの事でね。申し訳ないが、皆に施術をしてあげてもらってもいいだろうか?」


物凄く申し訳なさそうに話す美術の先生。仕方がないわね!


早速先生たちをベッドに寝かせ、1人ずつマッサージを行う。


「これは…き…気持ちよすぎる…」


この世の極楽と言わんばかりの顔をしている先生たち。話を聞きつけた学院長先生まで、施術を受ける事になった。


「君は天才なのか?こんなに気持ちの良い技を使えるなんて!それに体も軽くなったぞ!」


そう言って喜んでいた。


やっと解放されたころには、日が沈みかけていた。急いで帰らないと。


その時だった。


「マーケッヒ嬢、待ってくれ」


呼び止められたのは、少し変わっていると評判のグラディス先生だ。研究が趣味で、物凄く物知りで有名な先生でもある。


「どうかいたしましたか?グラディス先生」


「君のマッサージとか言う施術は物凄く素晴らしい!ぜひ研究させてくれないかい?」


「私のマッサージをですか?」


「ああ、そうだ!こんなにも体が軽くなるなんて、まるで魔法の様だ!一体どういう仕組みになっているのか調べたいんだ!」


なるほど、私のマッサージを研究したいというのか。別に研究するほどの事ではないが、まあいいか。


「別にいですよ」


「本当かい?それなら早速明日、僕の研究室に来て欲しい!」


目を輝かせて私の手を握るグラディス先生。結局勢いに負けて、明日先生の研究室に行く事になった。


それにしても、学院でも私のマッサージがこんなにも人気になるなんて、なんだか嬉しいわ。軽い足取りで、馬車に乗り込むミレニアであった。




~あとがき~

いつもお読みいただきありがとうございますm(__)m

かなりご都合主義なお話になっておりますが、その点は温かい目で見て頂けると嬉しいです。


今回、事実上ミレニアの父親によって、クラウドを苦しめて来たメイドたちは全員クビになりました!ちなみに、ミレニアの父親によって第二王子を毒殺しようとした実行犯のメイドたちは、全員処刑される事が決まった様です。


ミレニアの父は非常に優秀なうえ、貴族界でも非常に影響力のある男でもあります。そんなミレニアの父親が事実上第二王子を守る行動をしたという事は、第一王子派にとってはかなり衝撃だった事でしょう(^^)


引き続き、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

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