第8話 許される限り彼女の側にいたい~クラウド視点~

教室に戻ってからも、僕の心臓はずっとドキドキしていた。そもそも、どうして彼女は僕に優しくしてくれるのだろう?今までの彼女は、僕の目から見ても傲慢で我が儘だったはずだ。


それなのに、第一王子との婚約を解消してからは、まるで別人だ。まさか、第一王子と婚約を解消したくて、わざと傲慢な態度を取っていたのか?そんな都合の良い考えが、僕の頭を支配した。


そして放課後。

第一王子がミレニア嬢に、僕が呪われた人間だから一緒にいない方が良いと忠告していた。ごもっともな意見に、僕は何も言えず離れた場所から俯くしかない。


そんな中ミレニア嬢は、僕が呪われた人間ではない、もしそうなら根拠を示せと、第一王子に詰め寄ったのだ。第一王子はしどろもどろになりながらも反論していたが、ミレニア嬢によってことごとく打ち破られていく。


ミレニア嬢はどうやら頭が非常に良い様だ。そんなミレニア嬢に反論できなくなった第一王子は、がに股で出て行った。きっと甘やかされて育った第一王子は、誰かから反論された経験が無いのだろう。令嬢に言い負かされるなんて、情けない男だな。


そう思ったら、ほんの少しだけスカッとした。でも周りからは、やはり黒髪は気持ち悪いという声も聞こえてくる。中には、婚約を解消されたショックで、ミレニア嬢が壊れてしまったのではないかと言う人まで現れた。


このままでは、ミレニア嬢まで僕の様に孤立してしまう。やっぱり明日、僕には近づかない方が良いと伝えよう。そう決意したのにいざ翌日になると、やっぱりミレニア嬢と一緒にいたい!そんな思いが強くなる。僕は自分勝手だ!


ミレニア嬢の為を思うなら、自ら突き放すべきだ。でも、初めて知った温もりを手放したくはない。


重い足取りの中、学院へと向かった。どうやら、ミレニア嬢はまだ来ていない様だ。とりあえず席に着いた。その時、ミレニア嬢がやって来た。


その姿を見て、固まった。美しかった金色の髪が、真っ黒に染まっていたのだ!もちろん、クラス中の生徒がミレニア嬢の髪に注目している。


ミレニア嬢の黒髪を見て、怒りを露にしたのは第一王子だ!それに対し、自分が黒髪で1週間過ごして、何も起こらなかったら呪いは嘘だと認めろ!と、第一王子に迫ったミレニア嬢。


そんなミレニア嬢に第一王子は


「君はどうしてそこまで第二王子の為に動くんだ!まさか、第二王子を好きなのか?」


そう聞いた。一気に僕の鼓動が早くなる。ミレニア嬢が僕の事を?そんな事はない。きっと、同情に決まっている。でも…


彼女の答えが物凄く気になる。すると


「そうですね、少なくとも、殿下よりかはお慕いしておりますわ」


そうにっこりと答えたミレニア嬢。


“お慕いしている”その言葉で、さらに僕の鼓動は早くなる。落ち着け、そもそも“殿下よりお慕いしている”と言ったんだ。もしかしたら、よっぽど第一王子が嫌いだったのかもしれない。


とにかく自分にそう言い聞かせた。変な期待を持って、後で傷つきたくはない。


その日のお昼も、ミレニア嬢と一緒に食べた。今日もお弁当を半分こした。嬉しそうに僕に話しかけて来るミレニア嬢に、ついどうして僕の為にそこまでしてくれるのか聞いた。あんなに美しかった金髪を、真っ黒にしてまで…


そんな僕に対し、黒髪は似合わないか?と悲しそうな顔をするミレニア嬢。そんな事は無い、とても似合っていると言うと、物凄く嬉しそうに笑ってくれた。


彼女はどんな髪色でも美しい。それに黒髪にすることで、より上品さが際立つ。


他の令嬢や令息も同じ事を思ったのか


「ミレニア様の黒髪、とてもよく似合っていらっしゃるわね。まるで女神様のようだわ。そもそも、どうして黒髪が呪われていると言われているのかしら?うちの愛犬も真っ黒だけれど、あの子を迎えてから不幸な事なんて何一つないわ」


「確かにそうだよな。そもそも、黒が不吉だなんて言いがかりに近い気がして来た。それに、第二王子は黒髪だがずっと普通に生きているぞ?」


「ここだけの話、第二王子を嫌った王妃が“黒は呪われた色だと言いふらせ”と、家臣に指示したという情報もあるらしいぞ。黒が不吉だなんて、第二王子が産まれるまで言われていなかったようだし…」


その様な噂が、学院中で密かに広まりだした。


さらに

「最近のミレニア様は本当に人が変わった様にお優しいのよ。昨日なんて、教科書を忘れてしまった私に、さりげなく見せて下さったし」


「確かに、婚約を解消してから人が変わったわよね。もしかして、王太子との婚約が嫌で、わざと我が儘な態度を取っていたのかしら?」


「それ、俺も思っていたよ。よっぽど王太子が嫌だったんだろうなって」


「でも、婚約を解消して以降、王太子様はミレニア様が気になって仕方が無いようね。あんなに熱を上げていたソフィー嬢には目もくれないのよ!正直そんな男はちょっとね…ミレニア様がお嫌になるもの頷けるわ!」


そんな噂まで広がっている。そして、ミレニア嬢が髪を黒くしてから1週間が過ぎた。もちろん、彼女も彼女の家族にも何も不幸な事なんて起こっていない。


「殿下、これで分かっていただけましたよね!クラウド様が呪われていないっていう事が!」


どや顔で第一王子に詰め寄るミレニア嬢。悔しそうに頷き教室を出て行く第一王子を、勝ち誇った顔で見つめていた。


その日を境に、僕の置かれている状況も少しずつ変化していった。今まで僕に近づきもしなかったクラスメートが、少しずつではあるが話しかけてくれるようになったのだ。


そしてミレニア嬢はなぜか1週間を過ぎた後も、黒髪で学院に通っている。理由を聞くと


「黒髪の方が似合っていると思いませんか?せっかくなので、しばらくは黒髪でいようと思いまして。そうそう、この髪染めはとても取れやすいの。だから今、比較的取れにくく、髪にも負担がかからない髪染めを開発しているところですのよ。これが完成したら、皆好きな色の髪色を楽しめるでしょう?」


そう言ってにっこりと笑うミレニア嬢。彼女がどんな気持ちで僕に優しくしてくれるのかは分からない。でもそんなミレニア嬢の優しさが、僕には嬉しくてたまらない。初めて僕に人の温もりを教えてくれたミレニア嬢。


許される限り、彼女の側にいたい。こんな僕が側に居たら、ミレニア嬢にとってマイナスでしかないのかもしれない。それでも、きっと僕はもう自分からは彼女と距離をとる事は出来ないだろう。


彼女が僕から離れていくまでは、ずっと側に居て彼女を守りたい。その為にも、もっと強くならないと!ミレニア嬢の笑顔を守れるように…

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