第2話 王太子と婚約を解消したいです

「どうしたんだい?急に私を呼び出すなんて!やっぱり男爵家に抗議をして欲しいのかい?」


なぜそう言った話になるのだ!そもそも、両親とお兄様にこれでもかと言うくらい甘やかされたから、こんな我が儘で傲慢な娘が出来上がったのだろう。て、人のせいにしてはいけないわね。私、人のせいにする人も大嫌いだったわ。


「いいえ、違いますわ!今回の件で、自分がどれほどバカな事をしたかってやっと気づきましたの。いくら男爵令嬢のソフィー様が気に入らないからって、階段から突き落とそうとするなんて。その上、助けに来たマシュー様にまで暴言を吐いたのです。こんな私が、未来の王妃になんてなれる訳がないわ!それに、ソフィー様とマシュー様はお互い愛しあっているのです。そんな2人の邪魔を、これ以上したくはありません。私はお父様やお母様みたいに、お互い愛しあって結婚したいの。だから、マシュー様とは婚約を解消させて下さい」


私の言葉に、目を大きく見開いて固まっているお父様。


「あぁ、可哀そうに…そこまで思い詰めていたなんて!王宮でも王太子とあの男爵令嬢との恋仲は噂になっているからね。でも、お前が我慢する必要はない!そもそも、婚約者がいる男に手を出した男爵令嬢が悪いんだ!あの女を裁く事も出来るんだ。お前が王太子を諦める事は無いぞ!」


なぜそうなる…

これははっきり言わないといけないわね!


「お父様!私、今回の事ですっかりマシュー様には愛想が付きましたの。そもそも、婚約者がいるのに、他の女にうつつを抜かすなど言語道断!そんな浮気男となんて、絶対に結婚したくありませんわ。それでも結婚しろというのなら、私を勘当してくださいませ!平民になって、自分で好きな男性を見つけて結婚しますから!」


私の言葉を聞き、見る見る顔が青くなるお父様。


「わかったよ!お前がそこまで王太子を嫌っていたなんて、全く気が付かなかった!すまなかった!早速明日にでも、陛下と王太子にその旨を伝えてみよう。ただ、婚約解消となった場合、お前のサインも必要になる。明日はちょうど貴族学院も休みだ。お前も一緒に登城しなさい」


「わかったわ。お父様」



そして翌日

王宮にはどうやらお母様も一緒に行く様だ。お父様とお母様と一緒に馬車に乗り込んだ。


「ミレニア、本当に婚約を解消してもいいの?あんなに一生懸命王妃教育を頑張っていたのに」


私に問いかけるお母様。


そう言えば、学院に入学するまでは、王妃教育の為に毎日王宮に来ていたわね。物凄く厳しい王妃教育に必死に耐えたな。本当に物凄く厳しかった。それもこれも、王妃になりたいが為に頑張ってきたのだ。


きっと心の中で、こんなに頑張った私を差し置いて、どうしてポッと出の男爵令嬢にマシュー様を取られないといけないの!そう言う思いもあったのだろう。でも、今は…


「確かに王妃教育は大変だったけれど、もういいの!とにかく今は、婚約を解消したい。その一心よ!」


「そう…わかったわ」


そう言うと、何も言わなくなったお母様。お母様もお父様も、私が王妃になる事を望んでいたのかもしれない。でも、どちらにしろ私は王妃にはなれない。それなら、早いうちに解消した方がいい。


王宮に着くと、陛下、王妃様、マシュー様が待っていた。


「やあ、よく来てくれたね。朝一番で使いの者から話は聞いたよ。とにかく座ってくれ」


陛下に促され、席へと着く。


「ミレニアちゃん。今回の件、マシューが男爵令嬢なんかにうつつの抜かした事が原因なのよね。本当にごめんなさい!でも、マシューもほんの出来心だったと思うの。どうか、許してあげてくれないかしら?」


早速私を説得しようとする王妃様。でも、私の答えはもう決まっている。


「王妃様。私はマシュー様に近づく男爵令嬢に、今まで沢山酷い事をしました。それもこれも、醜い嫉妬心からです。本来王妃になる女性は、王妃様の様に器が大きい女性がなるべきです。でも、私にはその器を持ち合わせておりませんでした。それに、私は私だけを心から愛してくれる男性と結婚したいと考えております。どうか、婚約を解消させていただけないでしょうか?」



はっきり言ってクラウド様を冷遇していた王妃様が、器が大きいとは到底思えないが、今はこう言っておいた方が無難だろう。


「娘は今回の事で深く傷ついております。娘は私にこう言いました。“浮気男と結婚するぐらいなら、勘当して欲しい。平民になって好きな人と結婚しますから!“と。ここまで娘は追い詰められていたのです。どうか、娘との婚約を解消してやってください。お願いいたします」


深々と頭を下げるお父様。私もつられて頭を下げた。


「マシュー、お前は公爵とミレニア嬢の話を聞いて、どう思う?」


「俺は、ミレニアには本当に申し訳ない事をしたと思っています。ですから、慰謝料を払って婚約を解消したいと考えています」


「マシュー!!」


「そもそも、母上が勝手に決めた婚約だ。俺は元々、ミレニアの事なんて全然好きじゃなかったんだ!我が儘だし、傲慢だし!無理やり婚約させられて迷惑だったんだよ!」


おいおい、マシュー様。いくら嫌だったとしても、本人の前ではっきり言うのは、さすがに失礼ではないのかい?ほら、お父様もお母様も顔を真っ赤にして怒っているわ。でも、お父様もマシュー様の事を、浮気男と言っているのだからお互い様か。


「マシュー殿下もそうおっしゃっていますし、それでは婚約は解消という事でよろしいですね。今すぐ書類にサインをいたしましょう」


お父様、口元は微笑んでいるが目が完全に怒っている。さらに、青筋まで立てているわ。王妃様がまだ何か言いたげだったが、さすがに陛下に止められていた。こうして、無事私たちはサインを行い、婚約が解消さる事になった。


「午後には正式に婚約解消が発表されるでしょう。それでは、私たちはこれで」


お父様とお母様が陛下たちに頭を下げたので、私もつられて下げた。そうそう、一応お礼は言っておいた方がいいわね。


「マシュー様。いいえ、殿下とお呼びした方が宜しいですわね。今まで、色々と嫌な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。どうかこれからは、愛する人とお幸せになれる事を、心よりお祈り申しております。それでは、失礼いたします」


「ミレニア…」


ぼそっと私の名前を呼んだのが聞こえたが、もう私たちは婚約者ではないのだ。呼び捨てにするのは止めて欲しい。


そのまま両親と馬車に乗り込んだ。


「何なのあの王太子!最初からミレニアと結婚するのが嫌だったですって。迷惑だったですって!なんて失礼な男なの。あんな男と結婚させなくて、本当に良かったわ!」


物凄くお怒りなお母様。握られた扇子が、今にも折れそうだ。


「本当にその通りだ。ミレニア、お前には今回の件で、本当に申し訳ない事をした。王妃になればきっと幸せになれると思っていた私が浅はかだったよ。もしお前がまだ誰かと結婚するつもりがあるのなら、もう私たちは口出ししないから、好きな人を選びなさい。お前が決めた相手なら、私たちは反対しないから」


そう言って、ため息を付くお父様。これはラッキーな展開ね。小説では完全に私が悪者だったけれど、そもそも、浮気する方が悪いのよ!これで、心置きなくクラウド様に近づけるわ。


午後、お父様が言っていた通り、私たちの婚約解消の発表が大々的に行われた。部屋で静かに本を読んでいると、物凄い勢いでお兄様が飛び込んできた。


「ミレニア、どういう事だ!王太子と婚約を解消したなんて!」


そう言えば、まだお兄様には話していなかったわね。


「どうもこうもありませんわ!あんな浮気男と結婚したくないから、婚約を解消したまでですが、何か?」


「なんだ、お前から解消を申し出たのか!それなら良いんだよ。もし、あの浮気王太子からの申し出なら、文句を言いに行こうと思っていたんだ」


口笛を吹き、嬉しそうに出て行くお兄様。そう、私には2歳年上の兄が居るのだけれど、貴族学院を首席で卒業、騎士団では副団長を任され、さらに容姿端麗という事もあり、かなり令嬢から人気が高いのだが…


なぜか極度のシスコンなのだ…

普段冷静なお兄様も私の事になると、周りが見えなくなるのだ。そんなお兄様は、未だに独身。もう19歳だ。早く婚約者くらいは決めて欲しいものだ。


何はともあれ、王太子と婚約解消が出来たのだ。第一ステップはクリアってところね。

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