第3話 この世界でも私のマッサージの腕は通用するようです
翌日、今日も貴族学院がお休みだ。階段から転げ落ちて頭を打ったものの、奇跡的に特になんともなかった私。元々友達という友達もいないため、休日は暇だ。
今までの私なら、取り巻き達を呼び出し、お茶会という名の自慢話をしていたが、前世の記憶が戻った今、そんなクソ面倒くさい事など絶対にしたくない。それにしても暇だ。
ふと廊下に出ると、メイドたちが忙しそうに仕事をしていた。我が家は公爵家、メイドや執事など、使用人だけでも50人近くいる。
そうだわ、せっかくだからメイドたちにマッサージをしてあげましょう。そもそも、私の腕がこの世界でも通用するか、正直心配だったのだ。
もしこの世界でも通用するなら、この腕で食べていける。万が一、国外追放(王太子と婚約解消したから確率は低そうだが)されたとしても、マッサージ師として生きていける。
早速専属メイドでもあるファリアを呼び出した。
「お嬢様、お呼びでしょうか」
私より3つ上のフェリア。前までの私はいつも彼女を理不尽に怒鳴ったりしていたせいか、私が呼ぶと小刻みに震えている。今も震えているのが分かる。
「ねえ、フェリア。ここにうつ伏せになって寝てくれない?」
私の言葉に明らかに怯えるフェリア。きっと叩かれるとでも思っているのだろう。
「大丈夫よ。叩いたりなんてしないから。ほら、お願い。早く横になって」
「はい、分かりました」
私の言った通りにしないと怒鳴られると思っているフェリアは、怯えながらも急いでベッドにうつ伏せになった。
「ちょっと失礼するわね。もし痛かったら教えてね」
「お嬢様、何を…あぁ」
フェリアの言葉を無視して、早速マッサージ開始だ。
「フェリア、あなた若いのに随分と肩が凝っているのね。あら、背中や腰も凝っているわよ」
本当はアロマオイルなどを塗って本格的にやりたいが、今回はお試しだ。凝っている部位を重点的にほぐしていく。
「お…お嬢様…あぁぁ。物凄く気持ちいいのですが、あぁぁぁ」
とろけるような顔をしているフェリア。ある程度ほぐしたところで終了だ。
「フェリア、終わりよ。付き合ってくれてありがとう。それで、どうだった?」
「お嬢様、物凄く気持ちよかったです!これは一体何ですか?それに、体も軽くなりましたし」
鼻息荒く詰め寄って来るフェリア。こんな顔、初めて見たわ。
「マッサージと言うものよ。他のメイドたちにも試してみたいから、連れて来てもらって良いかしら?」
「もちろんです!しばらくお待ちください!」
物凄い勢いで出て行ったフェリア。しばらくすると、メイド仲間を4人連れて戻って来た。皆顔が強張っている。
とりあえず、1人ずつ施術を行う事にした。
「あぁぁぁ、お嬢様、気持ちいいです。もっと右側をお願いします」
「ここね!」
「そうです!そこ!あぁぁ、気持ちいい…」
物凄く気持ちよさそうな顔をするメイドを見て、次は私も!と、次々に横になって行くメイドたち。
一通りマッサージを終えたところで、メイド長がやって来た。
「あなた達、こんなところで何をサボっているの!あら、お嬢様もいらしていたのですね」
「あなたも私のマッサージ、受けてみて」
「マッサージ?でございますか?」
不信そうな顔をするメイド長を横に寝かせ、早速マッサージ開始だ。さすがメイド長。今までのメイドよりお年を召しているせいか、物凄く凝っている。これは、やりがいがあるわね。
「あぁぁぁ。お嬢様。あぁぁぁぁ」
どうやら声にならないくらい気持ちいい様だ。いつも厳格な顔をしているメイド長の顔が、完全に崩壊している。
随分とコリも取れたようなので、ここで一旦終了だ。
「お嬢様!物凄く気持ちよかったうえ、体が随分と軽くなりました!どんな魔法を掛けられたのでございますか?」
「魔法じゃないわ、マッサージと言って、凝り固まった筋肉をほぐしたのよ」
「まあ、こんなにも気持ちの良い施術は何処にもありません!まさにお嬢様は、“神の手を持つ女性”ですわ」
なぜか物凄く絶賛された。その後も年齢が高い人たちを中心に、マッサージをしていった。このマッサージ、かなり好評だった様で、使用人たちからはかなり感謝された。
そして夜、話を聞きつけた両親やお兄様にもマッサージをしてあげた。
「ミレニア、お前は一体いつこんな素晴らしい施術を覚えたんだ?マッサージ?と言ったか?これは本当に気持ちがいい!1日の疲れが一気に吹っ飛んだよ」
「本当ね!これは病みつきになるわ!」
「確かに毎日受けたいぐらいだよ。やっぱり私の可愛いミレニアは天才だ」
などなど、両親とお兄様にも絶賛された。
ちなみにこのマッサージがきっかけで、今までお世辞にも良好とは言えなかった使用人との仲も一気に改善された。
それどころか、毎日誰が私のマッサージを受けるか争いが起きる程大人気になった。そのため、誰が何日に私のマッサージを受けるかの表まで作られる始末。
さらに、お嬢様にばかり負担を掛ける訳にはいかないと、なぜか使用人の一部から私に弟子入りするものまで現れた。正直あまり教えたくなかったが、まあ使用人の一部に教えたからと言って、全世界に広まる訳ではないので、けち臭い事を言わずに教えてあげる事にした。
それに、一生懸命覚えようとする使用人たちが健気で、うまく出来る様になった時は、使用人たちと手を取り合って喜んだくらいだ。
こうして、私のマッサージの腕は、この世界でも十分通用する事が証明されたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。