エコアース(戦闘編)
「おおー、やっぱり外で動いてるところを見るのは違うねぇ~」
「ちょっと、黙っててもらっていいですか!!」
呑気に感嘆している太良島の横でエコアースのスーツを着込んだコアスが、その場で走るように足踏みしている。
そして、その二人の視線の先では四十メートル大のエコアースが、宙に浮いた怪獣に向かって走っていた。
二人の眼前百メートル先でコアスの動きに合わせて跳び上がったエコアースが、怪獣に向かって拳を繰り出した。
エコアースはスーパーロボットとして生まれ変わった。
というか、コアスの知らないところで最初からスーパーロボットとして作られていた。
太良島がニヤニヤとしながら語ったところによると、コアスがエコアースの企画を提出したときには既に計画が立てられていたらしい。
コアスの着るスーツをコントローラーとして、その動きに連動して戦うロボット、エコアース。スーパーロボットが、初めてガッカリの壁を突き破った傑作だった。
「うおおおおお!!」
アクロバティックに力強く動くエコアースだが、後方で全身に機械を纏いながら動くのは重労働である。
スーツの中のコアスは既に全身汗だくになりながら、この任務を言いつけてきたときの太良島との会話を思い出す。
「えっと、なんで私が?」
「体力、知力、人格共に申し分ないと認められたからだよ。おめでとう、エコアース」
「エコアースって呼ばないでください!! それなら太良島さんがやったらいいじゃないですか!」
「僕そういう肉体労働みたいなのって向いてないんだよねえ……」
「私より体力あるじゃないですか!!」
「という訳で、これはそのコントローラーになるスーツだよ。しばらく訓練してね」
「ていうかちょっと待ってくださいよ! スーパーロボットって普通、乗り込んで戦うんじゃないんですか!?」
「えぐっちゃんがそうしたいなら作り直してもいいけど、本体が傾いた時とか打撃喰らった時最悪死ぬよ」
「その呼び方もやめてください! じゃあ、こんなのじゃなくてコントローラーをもっと……」
「ゲームのコントローラーみたいのにする? ボタンじゃあ細かい動きの調整が出来ないと思うよ、ゲームじゃないんだし」
そうして、コアスはこの二週間と少しの間、このスーパーロボットを動かす訓練をさせられる羽目になったのだった。
何度思い出しても腹が立つ。
何より、あの場で辞表を出してしまわなかった自分に腹が立つ。
コアスの怒りと苦しみを乗せた拳はそのまま前方で跳び上がっているエコアースに伝えられ、渾身の右が怪獣に向けられる。
しかし、怪獣はその攻撃を軽々といなし、空中でパッと距離を取る。
行き場を失った力は大きく空振り、巨大な本体は自由落下を始めた。
エコアースには、大きな弱点が三つある。
まず一つ目は、飛行機能が無いこと。
普段出て来る怪獣相手なら大した問題にはならないが、今回のような空を飛ぶ怪獣を相手にするのは正直しんどい。
二つ目は、遠隔操作の宿命だが、コアスが動いてからエコアース自身が行動を開始するまでに、若干のタイムラグが出てしまうこと。
今回のように早く動くことが出来る怪獣が相手だと、この弱点は大きく響く。
三つ目は、体が大きいこと。
つまり、体の重量が重いことで、加速も減速も遅くなり、コアスが普通の感覚でパンチを振り抜いたりしてしまうと、エコアース本体がバランスを崩して転んでしまう。
コアスはこの間隔に慣れるのが一番時間がかかった上に、まだ完璧と言えるところまで達していない。
要するに今回の勝負、勝てる見込みが無いに等しい。
「やっぱりちょっと無理がありましたよこれ!」
「大丈夫、飛び道具があるでしょ」
太良島に言われ、コアスはふと気付く。そういえばあれがあった。
エコアースのヘルメットの内部には、エコアース本体の目の部分に取り付けられたカメラの映像が映し出される。
コアスは右腕を上方に突き出し、レンズ越しに怪獣を見上げて狙いを定める。
「ファイアッ!!」
途端、エコアースの腕から煙が噴き出し、ミサイルが発射される。
怪獣は空中で後退しながら腕を振り下ろし、目前に迫るミサイルを爆発させた。
奴も前回の怪獣同様、離れた場所から物を爆発させる能力を持っているようだ。
猫型の怪獣はしばらく空中で距離を取っていたが、自衛軍の戦闘機が再び発進し近づいて来たことを悟り、エコアースがいる地点とは離れた所に降りていった。
地上に立った怪獣の身長はエコアースと同じくらい、四十メートルにもなるだろうか。
グッと強く地面に踏み込み、エコアースは怪獣に向かって全力で走る。
さっきのリベンジとばかりに、右の大振り。
しかし対象は微動だにせず、ようやく拳が目前まで迫ってきたところでわずかに動いた。
「え?」
美しく、力強く、そして勢いよく遠方へと吹っ飛んでいくエコアース。
エコアース本体から送られてくる映像を見ていたコアスには、一瞬何が起きたか分からなかった。
「敵もさるもの、だねェ」
太良島の声に思わずヘルメットを外したコアスは、そこでようやく事態を悟る。
まさか、怪獣にこんな形でやられるとは。
「お疲れー。まああれは仕方ないよ、うん。改善点が見えてきただけでもいい結果だ」
太良島の言葉に、へなへなと脱力してしまう。
励まそうとして言っているのではなく、本気でいい結果だと考えていそうなところが腹立たしい。
しかし、怒り出すほどの元気も出ないコアスはそのままその場に仰向けになった。
髪を通して後頭部に伝わるひんやりとした感触に、ふと、久しぶりに土に触れたなと思った。
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