森の中で
「やっぱり、でかくなってるよな」
「すごいねー、成長期だねー」
ついに座高で二十メートルを超えたと思われるミーを見上げながら、アラトは内心焦っていた。
大きくなれば大きくなるほど、逃げも隠れも出来なくなってしまう。
大きくなれば戦闘力は上がりそうな気がするが、自衛軍とドンパチやるようなことっはぜひとも避けていただきたい。
そもそも、ミーは現時点で破壊行動を起こしたり、人を襲うようなことはしていない。
それが、アラト達がミーを庇う理由でもある。
もしも、たとえ自己防衛のためだとしてもミーが人間を殺すようなことをしたら。
そのときは、アラトが、自分自身の論理をもってミーのことを否定しなければならなくなる。
そんなことは、絶対に避けたい。
「ううー、腹が痛い」
「大丈夫? おなか冷えた?」
「いやストレス」
近頃腹痛の頻度が上がってきている気がする。
理由は明白だが、自分の力でどうこうできる問題ではないのがネックだ。
アラトとジュンキは胡坐をかいたミーの膝の上に乗り、腕に包まれているので寒さは感じない。
体毛の無い肌だが、これはこれで体温がダイレクトに伝わってきて暖かい。
昨日までは逆だったのにと思いながら、アラトはその柔らかなぬくもりに包まれていた。
「いやー、散々なクリスマスだね」
「……そういえばそうだった」
忘れていたが、今日はクリスマスだったか。
そういえば、明日帰って来る両親とクリスマスパーティーをする予定だったが、果たして無事に帰ることが出来るだろうか。
「雪が降ってホワイトクリスマスになるかもって盛り上がってたけど、今降ってこられたら困るなー」
「え? そうなの?」
冗談じゃない。今降ってこられたらリアルに「僕もう疲れたよ」してしまう。
ペットと一緒にいることといい、共通点が見つかるほど不吉な感じがしてしまう。
「静かだねー…」
「そうだなー」
「どうなっちゃうんだろうね、これから」
「そう思うんならもうちょっと深刻そうにしろよ」
「ははっ、それはアラトもじゃん!」
「……まあ」
「なんかこうしてると、世界中に私たちだけしかいないみたいだねー……」
「おーい、生きてるかー!」
周囲の静寂をぶち破って、聞き慣れた豪快な声が響いた。
「あれ?ヒロ?」
「ちょちょちょ、なんっ!なんでここにいるの!?」
飼い猫の膝の上から見下ろすと、ガサガサと木々を掻き分けて、森の中からヒロとうるちが出てきた。
暗い中で、ヒロは部活の練習着、うるちは学校指定のジャージで歩いてくるのがなんとか確認できる。
「あ、ごめん。邪魔した?」
「いや別にそんなことは……」
「すまんなジュンキ……」
「ちょっとお!? どうして私に謝る!!」
少し口調が変になりながら激昂するジュンキを他所に、アラトはミーの膝を飛び降り、ヒロたちのところに近づいていった。
「色々聞きたいんだけど、まず何でここが分かったんだ?」
「結構な高さじゃなかったか今の……?あー、いや、見てないのか?ニュースとかでかなり話題になってるんだけど」
「……怖くて見てない」
「だろうな。まあそれで大体の位置とかは分かったんだけど」
「待て待て、それでも結構離れてるだろ」
「ああ、だからな、部活終わってからすぐ宇喜多田さん拾って自転車で来たんだけど。遠い上に二人乗りだから時間かかっちゃって。しかも山の中は歩きだしな」
そう言う割には二人とも全く汗をかいていない。何故こんなにもケロッとしているのだろうか。
「それより、ちょっとまずいぞ」
「まずい?」
「さっき発表があってな。なんか自衛軍が新兵器を使うとかで……それがもうすぐ来るらしい」
その時、何か感じたらしいミーが、ジュンキを優しく膝の上から降ろして立ち上がった。
既に母親よりも大きくなったのではないかと思わせる巨体が、ゆっくりと空中に浮かび上がっていく。一体、何を感じ取ったのか。
黙ってその様子を見守る四人の耳に、遠くから近づいて来る巨大な足音が届いた。
「な、何だあれ!?」
足音の方を見たアラトの目に、巨大化したエコアースの姿が飛び込んできた。
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