ミーの異変
「最初はちょっと太っただけだと思ってたんだけどな……」
「すごく太ったとか?」
「いやそんなレベルじゃない。骨から変わってるんだよ」
本来なら冬休み初日になるはずだった十二月二十四日。
いつも通り学校から帰ってきたアラトとジュンキは、誰もいないアラトの家の中に、恐る恐る入っていった。
ヒロは部活、うるちは用事があるとのことで、それぞれ後から来るらしい。
なぜ二人がこんなところでビクビクしているのか。
きっかけは、昨晩アラトが気付いた、ミーのちょっとした変化にあった。
昨日、アラトが夕食の片づけを終えたころ。
いつも通り抱っこしていたミーが少し重いことに気が付いた。
少し距離を取ってじっくり見てみると、いつもより大きいようでもある。
まあ少し太ったのだろうと思ってそのまま寝てしまったが、今朝起きてみるとどうもそうではないらしいことが分かった。
明らかにミーが大きくなっている。
そもそもが仔猫だというのに、いきなり柴犬くらいの大きさになっている。
成長期だとしてもこれは明らかにおかしい。
と、ここでアラトは思い出した。
そういえば、この前の猫怪獣も普通の猫くらいのサイズから短期間で三十メートルくらいになっていたな、と。
そういえば、ヒロも以前大きくなったと言っていたか。
あの時は別に何とも感じなかったが、今までにもその兆候はあったのかもしれない。
そして、それが今回さらに大きな規模でやってきた、と。
少しのモヤモヤを残しながらも、学校をさぼるわけにいかないのでアラトはそのまま家を出た。
そしてジュンキに一連の出来事を説明してから今に至る。
ヒロとうるちには、まだなんとなく言い出せていない。
うるちに至っては学校で話す機会すら無い。
「なんか……大型犬くらいの大きさあるよ!?」
「また大きくなったなー、すごいなー……」
アラトの部屋には、変わり果てた姿のミーがいた。
朝の二倍くらいの大きさになり、たくましい体つきになっている。
鋭い目もどこか凛々しく、毛の無い肌はさらにゴツゴツとして丈夫そうな質感を持っている。
全体的にネコ科らしい、細くしなやかなボディラインをしているが、その中に妙な力強さがあった。
「今年はクリスマスも何もなくなっちゃったけど……すごい所からサプライズが来たね……」
「サプライズというかなんというか」
見た目は大きく変わったが中身はミーのままで、来客がジュンキだと分かったミーは勢いよくジュンキにとびかかった。
まだ自分の体の変化について行けていないのか、ジュンキは後ろへと倒れ、ミーも着地を誤って横に倒れたが、すぐに起き直ってジュンキにじゃれつきだした。
「よしよし、甘えんぼだねえ」
「小さめのトラかチーターにでも襲われてるみたいなんだけど……」
餌を皿に盛りつけながら、アラトは苦い顔になる。
もはや仔猫と呼べるような大きさではなくなってしまったが、ミーはジュンキに懐いたままだし、ジュンキも笑顔で頭を撫で、可愛がっている。
そんな様子に、アラトもなんとなく救われるような気がした。
そうしてしばらくじゃれついていたミーは、ひらりとベッドに飛び乗り、次の瞬間。
ボンッと、一瞬で一回り大きくなった。
「うえいっ!?」
「トラだ! とうとうトラになったよ!!」
ジュンキの言うとおり、アラトのベッドの上に、突如としてトラが出現した。
体長は二メートル近くもあるだろうか。
灰色のトラとなったミーの威圧感はとんでもなく、部屋が一気に狭くなったような感覚に襲われる。
「これは……このまま飼ってても大丈夫かな?家がかなり狭いと思うんだけど」
「いやいや!それより餌どうするの!?これだけ大きいと食べる量も……」
この時点でも、二人はまだどこか呑気だった。
しかし次の瞬間、その呑気な気分が一瞬で吹き飛ぶことになる。
ミーが、ベッドの横にあった窓のカギを器用に開け、そのまま窓ガラスをスライドさせた。
「ちょっと待てー! お前どこで覚えたそれ!」
アラトは慌ててミーの後ろ半身にしがみついた。
「襖とか網戸空けるのは見たことあったけど……鍵も開けるんだね」
「言ってないで助けて! 力も強くなってるから!」
アラトとジュンキが体を引っ張るが、ミーは難なく窓の外に半身を乗り出す。
そして、二人を引っ張ったまま窓の外に思い切り飛び出した。
「――――――――――ッッッ!!!???」
声にならない悲鳴を上げ、引っ張られるまま窓から飛び出した二人は、ミーの胴体にしがみつきながら、アスファルトに全身を打ち付ける未来を想像した。
しかし、その予想は裏切られる。
宙に浮くミーの体が急速に巨大化し、上昇する。
信じがたい光景に混乱するアラトとジュンキは、五本の指を備えた、巨大で細くしなやかな手にふわりと掴まれ、気付けばその手の上にちょこんと乗せられていた。
全長は二十メートルほどもあるだろうか。空中に立ち、どこかへ向けて空を翔けるその姿はまるで
「これって……」
「ああ、この前の……」
ついこの間現れたばかりの、ミーの母親らしき大怪獣のようだった。
夕日に照らされた大怪獣の体は段々と上昇し、冷たく激しい上空の風を切り裂いて進む。
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