エコアース(出会い編)

「環境守護神、エコアースをよろしくお願いしまーす!」

 とある日の放課後、アラトとジュンキが一緒に下校していると、通学路の途中にある商店街でおかしな怪人に声をかけられた。


 特撮作品の変身ヒーローのようなメカニックなスーツを着て、仮面で顔を隠した人物の後ろには、簡易なテントが張られ、「環境守護神エコアース」と書かれたのぼりが立っている。


 旗の下の方に対怪獣自衛軍のマークがついているところを見ると、自衛軍のキャンペーン活動か何かなのだろうか。

 テントの下ではスタッフらしき人たちが三人、チラシをまとめたりグッズのような物を並べている。


「説明しよう!環境守護神エコアースとは、地球の環境を守る正義のヒーローだ!今はただの着ぐるみだけど、住民の皆様の支持を得られた暁には、きちんとしたスーツが作られて怪獣と戦うことになるぞ!」

 ヒーローを自称する怪人は、マスクとスーツのあちこちを光らせながら豪快に叫んだ。


「しかし人類を滅ぼすこともいとわないぞ! 地球に優しく、人に厳しく!」

「江口さんちょっと抑えて!」

「少しずつ聞こえちゃいけない言葉が聞こえてくるんですが」


 マスクの中からマイク越しに喋っているのか、男とも女ともつかないリハーブのかかったハスキーボイスでよろしくないことをべらべらと喋る怪人。

 テントの中にいた男性スタッフが焦りながら止めに出てきて、アラトは冷静にツッコんだ。


 どうやら中の人の人格が如実に反映されているようだ。


「ああー、うん。ゴホン。失礼。で?君たちもエコアースに興味がおありかな?」

「いえ、特には」

「興味持ってよ!! じゃないと私、これやり損だよ!? 結構重いし恥ずかしいんだよ!?これ!」


 少しずつ中身が見え隠れするヒーローなんて嫌だ。それに結構ノリノリのようにも見えたのだが。

 しかしジュンキの方は多少興味を突き動かされたのか、神妙な顔でエコアースを見つめている。


「はい! エコアースさんは怪獣と戦うんですか!?」

「ジュンキさん!?」

「うむ、現在は自衛軍陸上部隊が担当している小・中怪獣の駆除のためのパワードスーツという位置づけになるよ!」

「じゃあどうして環境でエコなんですか!!」


 確かに、それはアラトも気になるところではある。

 エコや守護神などと地球に優しいような言葉を唱えながらやることは生き物の殺害というのはどういうことか。

 ついでに言えば子供にも優しくない。


「それはね、人間の環境破壊によって怪獣が発生しているからだよ! 汚染された水や空気、酸性雨、温暖化。その影響やストレスが動物に影響を与えて突然変異尾を起こす、つまり怪獣になるわけだね」

「あ! それ学校で習いました!」

「そうか! なら話は早い! そういう環境問題が原因で怪獣が出て来るってことは、どうしたら怪獣が減ると思う!?」

「環境問題を無くす!」

「その通り! 一気に無くすことはできないが、少しずつ解決していくことはできる! そのキャンペーンをして怪獣の発生を抑えるのが、私の活動の一つなんだよ」

「おおー!!」


 エコアースの暑苦しい講釈に感銘を受けたのか、ジュンキは目をキラキラとさせながら拍手を送っている。

 アラトも少し感心した。


 しかし先ほどの人類を滅ぼす云々があったために納得はできない。


「もちろん、いざ怪獣が発生したら倒すことも私の使命だ! でも、そんな可哀想な怪獣は少しでも減らしたいだろう?」

「減らしたいです!」


 まったくジュンキは純真というか素直というか。呆れつつも、アラトははたと気付く。結局、自分もジュンキのこういうところに助けられているのか。


「だから、君達には覚えておいてほしいんだ」

 さっきまでの暑苦しい調子から一転、神妙な雰囲気を漂わせた仮面の戦士は、慈悲も何もないドスの効いた声でこう叫んだ。


「悪いのはいつも人類!!」

「失礼します」


 アラトはジュンキの手を引いて即刻その場から立ち去った。


 途中少しはまともなことを言っている気がしたが、やはり頭のおかしい人だった。

 最近頭のおかしい人に絡まれることが多いなあと思うと、胃が少し痛んだ。


「待って!! あ、あれ!? ちょ、君らホントに待って、これ……おぎゃあ!?」

「江口さん!?何やってんすかもう!」

「だって! だって!」


 後ろで何やら大騒ぎしている大人たちを置き去りにし、歩みを止めずにその場を去った。

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