怪獣が駆除される世界
目の前で倒されている怪獣を見るたびに、アラトは思わずにはいられない。
なぜ彼らは排除されなければならないのかと。
怪獣は環境破壊によって生まれた突然変異体だ。
元々は人間の活動によって生まれてきた存在である。
彼らは普通の猫として、鳥として、それぞれに生きていただけだ。
世界征服をしてやろうとか人類を滅ぼしてやろうとか思って出て来るのではない。
訳も分からず巨大化させられ、邪魔になるからと駆除されてしまう。怪獣の立場に立てば理不尽極まる。
もちろん怪獣を野放しにしておくわけにいかないのは承知している。
迅速に駆除されているから怪我人も出ず、平和に暮らせていることも。
アラトだって、もし自分の家が、学校が、病院が怪獣に襲われでもしたらと想像するとゾッとする。
アラトは自分の頭を手のひらでポンポンとはたいた。これがアラトが考えことをする時のクセだった。
実際、怪獣保護を唱えたり、倫理的な問題を指摘する人達はいる。
そういった活動についてはよく知らず、活動には微塵も興味は無いが、そう言いたくなる気持ちはわかる。
現実的かというとまた別の話だが。
アラト自身、怪獣を庇おうとかそんなつもりは全く無い。
ただ漠然と。
「自分が明日、巨大化したらどうなるんだろうか」と、そう思うだけである。
宇宙飛行士が鳩のくちばしを掴むと、たちまちくちばしから炎が上がり怪獣の顔に引火する。
アストラマンの必殺技だ。腕から高熱を発することができ、怪獣を燃やしたり溶かしたりしてしまう。
光線を出すほどの華々しさは無いが地味に強力で恐ろしく、アラトが一番喰らいたくない技堂々の一位である。
怪獣は断末魔の雄叫びを上げ、腕を上下させている。
翼を動かす動きのように見えるのは鳥類の習性だろうか。
クルッポーとはかけ離れた「グルルルロアアァァオオオォォォ!!」という声とともに頭から燃えていく怪獣。
自衛軍が出てきてから十五分、怪獣の出現から三十分ほどでの討伐完了はもはや当たり前のこととなっている。
被害の規模はニュースででも報じられるだろうが、どうせ大したものではあるまい。
丁度空になったペットボトルを自販機横のごみ箱まで運び、捨てて帰路につくことにした。
別に怪獣が好きなわけではない。
自衛軍やアストラマンに関しても然り。
なぜ自分はこれを見るためだけに家を出て来たんだろう、なぜ三十分もあれを見ていたんだろうと思わずにはいられない。
しかし、なんとなくじっとしてはいられなかった。
この町に出て来る怪獣を、目の前に現れた彼らの行く末を他人事のように捉え、その姿を知らずに過ごすことができなかった。
何の気なしに足を止めて振り返ってみると、そこにはすでにアストラマンの姿は無く、ただ自衛軍の飛行機が怪獣の倒れた場所を飛び回っているだけだった。
自分も、いつか彼らに排除されるんだろうか。
再び足を動かしながら、アラトは今日の放課後にあった出来事を思い出していた。
「怪獣の気配がする」という彼女の言葉。デタラメだろうとは思うが、結果図星を突かれているのでドキリとしてしまう。それから、もう一つ。
『私は、宇宙人だから』
この一言がフラッシュバックし、アラトは苦虫を噛み潰したような顔になりながら足を速めた。そして、アストラマンのいた場所にもう一度目線を向けてぽつりと呟いた。
「ああいうのを宇宙人って言うんだよ」
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