第6話「アサシンの方針(カイル視点)」

 ──カイル視点──




「では『諸国連合』の王達を納得させる能力と実績を証明しましょう」


 バーゼル国王に向かって、カイルは宣言した。


「まず第一に、俺の手元には魔王城の魔物から『盗技スティール』で奪った指輪が10個、ネックレスが8個、その他こまごまとしたものを合わせると、宝石・貴金属類が22個あります」

「はぁ!?」


 ミレイナが目を見開いた。


「ちょ、ちょっと待ってカイル。あたしそれ聞いてない!」

「しょうがないだろ。だって分配する暇がなかったんだから」

「あ、そうか。姫さまがパーティ解散を宣言したから?」

「しかも、『魔王城で得たものはあげる』って言われちゃったからな」

「あの場で分配するのは無理だもんね」

「ミレイナとクレアさんの分は、別に取ってあるけどな」

「ここであたしが欲しがったら悪者だよ。クレアさんだって文句は言わないでしょ。カイルはこれを、アンリエッタ姫のために使うようなものなんだから」

「というわけで父上、俺は自分の取り分をすべて、『諸国連合』の王たちへの貢ぎ物とします。これが第一段階です」


 カイルは説明を続ける。


「それと……これはミレイナが証言してくれると思いますが、魔王討伐の旅の途中で、南方の香辛料が欲しいというふざけたことを言った王がいました」

「う、うん。あれはむかついたよね」

「香辛料……シロトウガラシを持ってこなければ、湖の小島に渡るための地下道を使わせない、という条件を出されたんです。魔王討伐には、小島の神殿で行う儀式が必要だというのに」

「アンリエッタ姫、むちゃくちゃ怒ってたもんね。向こうは殺気にやられないように、小窓を通した別の部屋にいたけど」

「正直、俺もあの王はってもいいと思ってた」

「思ってたんだ?」

「でも、地下道の鍵が手に入らなかったら困るから諦めたんだ」

「だよね。そうじゃないと、魔物がいる湖を泳いで渡らなきゃいけないもん」

「女の子に風邪を引かせるわけにはいかないからな」

「気遣ってる相手って、あたしでもクレアさんでもないよね?」


「……それで?」


 国主のセリフが、カイルとミレイナの会話を断ち切った。


「そのたわけた王の要求が、なんだというのだ? カイル」

「南方にシロトウガラシを取りに行くついでに、流通ルートを確立しました」


 カイルは言った。

 国主と、ミレイナの目が点になった。


「正確には、南方の香辛料全般ですね。シロトウガラシ、メメコショウ、ルーメリック、ウメダモン……これらを、平和になったら取り引きしようということで、向こうの領主と話をつけてあります。もちろん、俺個人の契約ですが」

「カイルってば魔王討伐の旅の間に、そんなことしてたの?」

「ああ。南方に行くことなんてめったにないからな」


 カイルは懐から羊皮紙ようひしを取り出し、机に置いた。

 そこには南方にある国々との契約について書かれていた。


 魔王討伐に成功して、流通ルートが安全になったら、という条件つきだ。

 危険な魔王討伐をコストに算入してあるので、その分、仕入れ値が安くなっている

 この条件で香辛料を仕入れたら、どれだけの儲けになるのか、想像もつかない。


「平和になったあとは、人々も食事を楽しむ余裕も出るでしょう。これらの香辛料はバーゼル王国の切り札になると思いますが」

「…………う、うむ」

「もちろん、これは俺と向こうの領主との個人契約です。俺が死んだ場合は無効になりますので、そのおつもりで」

「わ、わかった。だ、だが、実績としてはまだ不足……」

「ではこちらを」


 カイルはもう一枚の羊皮紙を取り出した。


「こちらには、南方で採れる作物について書いてあります。ターマイモ、ホロロモロコシ、ミフネイネ、その他十数種類。これらもすべて、流通ルートを確保してあります」

「こ、これがどうしたと……?」

「魔物が減りましたから、これからは安心して開拓もできるでしょう。新しい作物を増やすいい機会では?」

「「…………!!」」

「さらに、これはドラゴリオット帝国へのアドバンテージにもなります」


 カイルは──ここにはいないアンリエッタに語りかけるように──目を細めて、続ける。


「人口の多いあの国は、飢えと隣り合わせだ。だからアンリエッタも村々への投資を進めていた」

「ちょっと待って!? 姫さまそんなことしてたの!?」

「そういう奴なんだよ。あいつは」


 カイルはため息をついてから、


「アンリエッタのアドバンテージは人望と人脈だ。あの気高い勇者の人望と、皇女としての人脈には、俺はとても敵わない。だったら、俺は流通と経済で対抗する。ドラゴリオット帝国に、大陸の覇権はけんを渡さないために」

「な、なんと……カイルよ。お前はそこまで考えていたのか……?」


 バーゼル国王の身体が震えていた。

 自分の養子であり、勇者パーティの一員でもあるカイル=バーゼル──その政治的才能に、王は初めて気がついたようだった。


「魔王討伐後の覇権はけんを帝国には渡さない。だから、人口の多いあの国へのアドバンテージとなるように、新たなる作物の栽培まで考えていたのか……なんと」

「南方の作物には、やせた土地でも作れるものが多く、収穫が早いものもあります。それらの作物を帝国に売るか、あるいは栽培方法などを教える代わりに、帝国から譲歩を引き出すこともできるでしょう」

「……むむむ」

「『諸国連合』には、ドラゴリオット帝国の上に立ってもらわなきゃ困るんですよ。俺は」


 カイルは父王をまっすぐに見据えて、宣言した。


「俺たちが帝国の女王・・・・・の下につくなんてまっぴらです。だから大陸の復興には『諸国連合』がアドバンテージを取るべきでしょう。バーゼル王国には民を養うだけの力があることを、帝国に見せつける……これが、俺が示すことのできる能力と実績ですよ」

「……お前は、魔王討伐の旅の間に、そこまで考えていたのか」


 バーゼル国王は震える声でつぶやいた。


「なにがお前をそうさせるのだ。我が息子カイル=バーゼルよ……」

「俺は神に認められた勇者じゃないですからね。それなりの成果を見せないと、皆に認めてもらえません。だから……なんでもしますよ。俺の目的の・・・・・ためなら・・・・


 苦笑いを浮かべ、カイルは続ける。


「どうしますか、父上……いや、どうする? バーゼル国王ゲネス=バーゼル。バーゼル王国が『諸国連合』のトップに立ち──ドラゴリオット帝国との交易に有利となるこれらの品目を望むか、否か?」

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