第6話「アサシンの方針(カイル視点)」
──カイル視点──
「では『諸国連合』の王達を納得させる能力と実績を証明しましょう」
バーゼル国王に向かって、カイルは宣言した。
「まず第一に、俺の手元には魔王城の魔物から『
「はぁ!?」
ミレイナが目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待ってカイル。あたしそれ聞いてない!」
「しょうがないだろ。だって分配する暇がなかったんだから」
「あ、そうか。姫さまがパーティ解散を宣言したから?」
「しかも、『魔王城で得たものはあげる』って言われちゃったからな」
「あの場で分配するのは無理だもんね」
「ミレイナとクレアさんの分は、別に取ってあるけどな」
「ここであたしが欲しがったら悪者だよ。クレアさんだって文句は言わないでしょ。カイルはこれを、アンリエッタ姫のために使うようなものなんだから」
「というわけで父上、俺は自分の取り分をすべて、『諸国連合』の王たちへの貢ぎ物とします。これが第一段階です」
カイルは説明を続ける。
「それと……これはミレイナが証言してくれると思いますが、魔王討伐の旅の途中で、南方の香辛料が欲しいというふざけたことを言った王がいました」
「う、うん。あれはむかついたよね」
「香辛料……シロトウガラシを持ってこなければ、湖の小島に渡るための地下道を使わせない、という条件を出されたんです。魔王討伐には、小島の神殿で行う儀式が必要だというのに」
「アンリエッタ姫、むちゃくちゃ怒ってたもんね。向こうは殺気にやられないように、小窓を通した別の部屋にいたけど」
「正直、俺もあの王は
「思ってたんだ?」
「でも、地下道の鍵が手に入らなかったら困るから諦めたんだ」
「だよね。そうじゃないと、魔物がいる湖を泳いで渡らなきゃいけないもん」
「女の子に風邪を引かせるわけにはいかないからな」
「気遣ってる相手って、あたしでもクレアさんでもないよね?」
「……それで?」
国主のセリフが、カイルとミレイナの会話を断ち切った。
「そのたわけた王の要求が、なんだというのだ? カイル」
「南方にシロトウガラシを取りに行くついでに、流通ルートを確立しました」
カイルは言った。
国主と、ミレイナの目が点になった。
「正確には、南方の香辛料全般ですね。シロトウガラシ、メメコショウ、ルーメリック、ウメダモン……これらを、平和になったら取り引きしようということで、向こうの領主と話をつけてあります。もちろん、俺個人の契約ですが」
「カイルってば魔王討伐の旅の間に、そんなことしてたの?」
「ああ。南方に行くことなんてめったにないからな」
カイルは懐から
そこには南方にある国々との契約について書かれていた。
魔王討伐に成功して、流通ルートが安全になったら、という条件つきだ。
危険な魔王討伐をコストに算入してあるので、その分、仕入れ値が安くなっている
この条件で香辛料を仕入れたら、どれだけの儲けになるのか、想像もつかない。
「平和になったあとは、人々も食事を楽しむ余裕も出るでしょう。これらの香辛料はバーゼル王国の切り札になると思いますが」
「…………う、うむ」
「もちろん、これは俺と向こうの領主との個人契約です。俺が死んだ場合は無効になりますので、そのおつもりで」
「わ、わかった。だ、だが、実績としてはまだ不足……」
「ではこちらを」
カイルはもう一枚の羊皮紙を取り出した。
「こちらには、南方で採れる作物について書いてあります。ターマイモ、ホロロモロコシ、ミフネイネ、その他十数種類。これらもすべて、流通ルートを確保してあります」
「こ、これがどうしたと……?」
「魔物が減りましたから、これからは安心して開拓もできるでしょう。新しい作物を増やすいい機会では?」
「「…………!!」」
「さらに、これはドラゴリオット帝国へのアドバンテージにもなります」
カイルは──ここにはいないアンリエッタに語りかけるように──目を細めて、続ける。
「人口の多いあの国は、飢えと隣り合わせだ。だからアンリエッタも村々への投資を進めていた」
「ちょっと待って!? 姫さまそんなことしてたの!?」
「そういう奴なんだよ。あいつは」
カイルはため息をついてから、
「アンリエッタのアドバンテージは人望と人脈だ。あの気高い勇者の人望と、皇女としての人脈には、俺はとても敵わない。だったら、俺は流通と経済で対抗する。ドラゴリオット帝国に、大陸の
「な、なんと……カイルよ。お前はそこまで考えていたのか……?」
バーゼル国王の身体が震えていた。
自分の養子であり、勇者パーティの一員でもあるカイル=バーゼル──その政治的才能に、王は初めて気がついたようだった。
「魔王討伐後の
「南方の作物には、やせた土地でも作れるものが多く、収穫が早いものもあります。それらの作物を帝国に売るか、あるいは栽培方法などを教える代わりに、帝国から譲歩を引き出すこともできるでしょう」
「……むむむ」
「『諸国連合』には、ドラゴリオット帝国の上に立ってもらわなきゃ困るんですよ。俺は」
カイルは父王をまっすぐに見据えて、宣言した。
「俺たちが
「……お前は、魔王討伐の旅の間に、そこまで考えていたのか」
バーゼル国王は震える声でつぶやいた。
「なにがお前をそうさせるのだ。我が息子カイル=バーゼルよ……」
「俺は神に認められた勇者じゃないですからね。それなりの成果を見せないと、皆に認めてもらえません。だから……なんでもしますよ。
苦笑いを浮かべ、カイルは続ける。
「どうしますか、父上……いや、どうする? バーゼル国王ゲネス=バーゼル。バーゼル王国が『諸国連合』のトップに立ち──ドラゴリオット帝国との交易に有利となるこれらの品目を望むか、否か?」
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