第5話「勇者の方針(アンリエッタ視点)」
──アンリエッタ視点──
「皆を納得させるだけの能力と実績を示すことができるか? 我が娘アンリエッタよ」
玉座の間で、国王は答えた。
「お前の思いは尊いものだ。だが、国を率いるためには、それなりの能力と実績がなければならぬ。魔王討伐をなしとげたとはいえ、お前に政治家としての実績はあるまい」
「わかりました。では……お願いいたします、ブリッツ公爵」
アンリエッタは、ひとりの貴族を呼んだ。
「公爵どの。父上に私の実績を伝えていただいてよろしいでしょうか?」
「承知いたしました。殿下」
ブリッツ公爵と呼ばれた男性が、一歩前に進み出た。
そして国王に向かって膝をつき、語り始める。
「おそれながら申し上げます。陛下」
「申してみよ」
「陛下は国を率いる能力と実績について語られました。ですが、すでにアンリエッタ姫殿下は、魔王を討伐し──」
「魔王討伐の実績については知っておる。わしが求めているのは──」
「そして、魔王討伐の途中で、魔物がいなくなった土地を開拓するための資金を、それぞれの村々に提供されておりました!!」
「なにぃ──────っ!?」
「え──────────っ!?」
玉座の間に、国王と神官クレアの声が響き渡った。
知らなかったらしい。
「ご存じの通り、村や町を荒らす魔物たちは、魔将軍と呼ばれる上位の魔物に率いられておりました。魔将軍をアンリエッタさまたちが倒されたあとは魔物も減り、村の修復や、周辺の開拓が可能になったのですが……」
「魔物に荒らされた村々には、その資金がなかったのです。陛下」
「ですから、姫さまは、魔物の素材を売ったり、ダンジョンにあった宝物をお金に換えて、私どもに提供してくださったのです」
「ブリッツ公爵に渡したのは、民のために使うと誓ってくださったからです」
「さもないとあの殺気が飛んできますからな」
「その甲斐あって、ここ数年の間に開拓は進み、資金は数倍になって戻って来ました」
「復興が進めば、作物の収穫も上がりますからな。姫君にお金をお返しするのは当然のことです」
「そして姫さまはそのお金を、次の町に投資されたのですよ」
別の貴族が手を挙げる。
さらに別の貴族も、そのまた別の貴族も。
アンリエッタ姫が魔王討伐の途中で、解放された村にお金を与えたこと。
それをもとでに、村々が発展を遂げたこと。
その後、姫君にお金を返し……姫はまた次の村に投資を続けてきたことを。
「だ、だが、アンリエッタ個人の投資など、ほんの少額であろう?」
皇帝は反論する。
「確かに良き行いではあるが、それほど大きな功績とは言えぬのではないか?」
「勇者であり、皇女殿下でもあるアンリエッタさまが投資されたことに意味があるのです。陛下」
ブリッツ公爵は続ける。
「勇者であるアンリエッタさまが投資されたということは、もはやその地に魔物は現れず、復興を行っても大丈夫だと、勇者が保証したということに等しいのです。そのことは、貴族の方々や商人の復興への投資を促すことにもなります」
「む、むむむ」
「なにより皇女殿下が復興に投資されれば、他の貴族も金を出さぬわけにはまいりません。殿下が投資されたからこそ、多くの資金が集まり、村々は発展できたのですよ」
「だ、だが、皇帝たる余はなにも知らなかったのだが」
「殿下がおっしゃったのです。『魔王軍に悩む父上に、気苦労をおかけしたくない』『魔王討伐に燃える勇者パーティの者たちに、金銭的な心配をかけたくない』と」
「…………おぉ」
「その結果、村々はすばやい復興を遂げることができたのです!」
ブリッツ公爵は声をあげた。
彼に呼応するように、周囲の貴族たちも──
「アンリエッタ姫のおかげで、うちの村も大きくなりました!」「家畜もたくさん増えました。どうか、遊びに来てください」「私たちは自分でも『アンリエッタ基金』を作って──」
歓声が、玉座の間に響き渡った。
その中で、神官のクレアは不思議そうな顔で、
「でも、それだけのお金、よく準備できましたね?」
「クレアは忘れたの? カイルが私たちにお金を余分にくれたことを。『俺は敵の攻撃を避けるのに長けているから、防具にお金はいらない。その分、お前たちが防具に金を使え』って」
「姫さまは、そのお金を村への投資に?」
「そうよ」
「で、では、ご自分の装備は!?」
「飾りをつけて、別の装備のフリをしたわ」
「ちょっと待ってください。じゃあ、ずっと初期の鎧を使ってたんですか?」
「変なこと言わないでちょうだい。今は最強の『神聖なる鎧』を着てるじゃない」
「あれを手に入れたのって魔王城に入る直前ですよね!? それまでは!?」
「『初期鎧・改改改改改改改』でも、なんとかなるものよ?」
「改って飾りをつけただけですよね!?」
「だって……カイルがくれたお金なんか、もったいなくて使えないもの」
アンリエッタは真っ赤になって視線を逸らした。
「だから元本は取っておいて、いつでも返せるようにしてたの」
「むしろドン引きですね。その準備の良さ」
「でも、これで私の願いに一歩近づいたわ」
玉座の間には、アンリエッタ姫を称える声が響いている。
彼女を次期皇帝に押す声もある。
アンリエッタの帝位継承権は長兄と次兄に次いで、第3位だが、継承権の低いものが帝位に就いた例はある。
まずは貴族を味方につけること。
これが、アンリエッタの野望の第一歩だ。
「私はこれから大陸を平和に、豊かにする」
アンリエッタは、故国にいるはずのカイルに向かってつぶやいた。
「どうかあなたは平和と豊かさを楽しんで。幸せになってね。カイル」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます