第4話「アサシンの帰還(カイル視点)」

 ──カイル視点──




「次期国王となるのがお前の願いか、我が息子よ」

「はい。父上」


 ここは、バーゼル王国の国主の間。

 カイルはそこで、義父バーゼル国王と向かい合っていた。


「俺の願いはバーゼル王国の国王となること。そして諸国連合のトップに立ち、大陸すべての国を平和に導くことにあります」

「増長したか! 小僧!!」


 国王バーゼルは机を叩き、カイルを一喝いっかつした。

 床に膝をついたカイルは、眉ひとつ動かさない。

 びっくりして床に転がったミレイナを助け起こす余裕さえある。


「……少しは成長したようだな。小僧。我が威圧を受けてもぴくりともせぬとは」

「父上以上の殺気を持つ者と、常に一緒にいましたから」

「あたしはどっちも慣れないですけどね」

「面白い。面白いぞ、小僧」


 バーゼル国王は椅子に身体を預けて、笑い出す。


「初めて出会ったときのことを覚えているか? カイル」

孤児院こじいんにいた俺を、父上が連れ出してくださいました」

「ああ。そうだ。お前の目に強さを感じたからな。あのまま孤児院にいても、お前はひとかどの者になっていただろう。ならば、わしが教育した方が早いというもの」

「父上には、感謝していますよ」

「あれほど厳しい教育をしたわしをか? ほざくな」

「そうでなければ魔王を倒すことなどできなかったでしょう。それに……」


 言いかけた言葉を、カイルは飲み込んだ。


「……そうでなければ、俺はこれほどの高望みをすることもなかったかと」

「面白いな。孤児院で拾った子どもが、諸国連合の最高位の椅子を望むか」

「可能でしょうか?」

「不可能ではないな。お前はわしの養子であり、魔王討伐の功労者でもある」

「本当ですか!? やったね、カイル!」

「はしゃぐでないよ。魔法国の姫。不可能ではないと言っただけだ」

「もちろん、根拠もなく高望みをしているわけではありません。これを」


 カイルは革袋から『魔王の指輪』と『魔王のアミュレット』を取り出した。


「これは魔王の装身具。奴の強大な魔力を宿したアイテムです。教会で浄化すれば、国ひとつを建て直すほどの魔力が得られるでしょう。これを父上に差し上げます」

「……お、おぉ」

「もちろん、俺を次期国王に推薦していただくことが条件ですが」

「……この程度でか。わしを舐めるなよ……小僧」

「舐めておりません」

「わしが貴様の寝首をかいて、持ち物すべてを奪うことはたやすいのだぞ?」

「父上は魔王城の『ダークアサシン』以上のスキルをお持ちですか? あれの首切りを、俺はすべてレジストしましたが?」

「まぁ、親子でケンカをすることもあるまい」

「ですよね」

「なんなの、この親子」


 ミレイナがつぶやくが、カイルは涼しい顔だ。

 バーゼル国王の顔色は、だんだん悪くなっているけれど。


「魔王から奪ったものは他にも、魔力を帯びた貴金属や装身具などがあります。秘密の場所に隠してありますので、父上が手に入れることは難しいかと」

「……むぅ」

「万が一、俺にもしものことがあった場合……そうですね。ドラゴリオット帝国にでも送ることにしましょうか?」

「あの大国に、さらに力を与えるというのか!?」

「父上が、俺に手を出さなければいいだけの話です」

「ふざけるな。ドラゴリオット帝国に貴金属を送ることに、どんなメリットがあるというのだ?」

「アンリエッタがさらに綺麗きれいになるじゃないですか」

「ふっ……はっ、はははははは! 貴様、冗談も言うようになったか!?」

「え?」

「え?」

「「…………」」


 国主の間に沈黙が落ちた。

 真顔のカイルを前に、国主がぽかんとした顔になる。


「…………ま、まぁ、貴様の覚悟はわかった」

「わかってくれましたか」

「だがな、宝物はあくまで、わしに対する貢ぎ物にしかならぬぞ」

「俺が王になるには『諸国連合』の王たちを、納得させる必要があると?」

「そうだ」


 カイルの父は勝ち誇ったように、にやりと笑った。


「『諸国連合』のくわせ者たちを納得させるだけの能力と実績、それをお前は示すことができるのか? 我が息子、カイル=バーゼルよ」



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次回、第5話は明日のお昼に更新する予定です。

(しばらくの間はお昼と夕方の、1日2回の更新となります)

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