第八話 02
「イエヤス! なに、ぼんやりしてるのよぅ? 危ないっ! 『盾の魔術』発動っ!」
横穴の奥でなにかが光ったと家康が気づいた瞬間、家康の脚めがけて銃弾が飛んできていた。一発、二発、三発。三連弾。全て正確に一点だけを狙い、見事に命中させていた。
隣を進んでいたセラフィナが新調した杖を慌てて翳し、銃弾を弾き飛ばしていなければ、家康は腿を貫かれていただろう。頭を狙わなかったのは、あくまで警告ということか。
「みぎゃーっ! こっち来るなー! 来るなーっ! オレの縄張りに入るんじゃねー、人間! オレは人間が大嫌いなんだ、人間の仕事なんか請けねー! 次は頭を撃つぞー!」
洞窟の奥から、盛りのついた雌猫のような叫び声が鳴り響いてきた。
「やれやれ。ドワーフギルドが棲み着いている穴蔵の中にまでは、さすがにわが蜥蜴も入り込んでいませんのでね。見つかれば餌にされてしまい大赤字ですから。あしからず」
「遠距離からいきなり銃を三丁持ち替えて撃ってきましたわ。恐ろしい腕前ですわ? イエヤス様、いったん退かれますか?」
「いや、むしろますます憎威を雇いたくなった。敵対勢力に刺客として雇われたら厄介だ。それに王国の軍勢は、騎馬兵が主体なのだったな阿呆滓?」
「はい。ヴォルフガング一世は兵を損じない包囲戦術を最上手としますが、野戦では騎馬兵を縦横に動かして敵軍の虚を突く機動戦術を得意としていますわ」
「ならば、籠城するには多くの鉄砲が必要だ。聞け、洞窟の中に籠もるどわあふたちよ! 俺の名は徳川家康! 魔王軍を倒すためにエの世界から召喚された勇者だ! 今はえるふの森を人間軍から守るために人材を集めている! 顔を出せ、仕事を発注したい!」
「うっせー! 人間とエルフの連合軍とか、ドワーフ的に最悪じゃねーか! 誰が請けるかってんだ! バカ、バーカ!」
「……年頃の娘のはずなのに、まるきり野人だな。世良鮒? どわあふは勇者をどう思っている?」
「わかんな~い。山の至るところに神々が満ちていると信じているから、山の恵みの金銀を掘っても感謝の儀式を行えば祟られないって感じかな?」
「要は、えるふよりもさらに素朴な種族ということだな」
「セラフィナ様が想像しておられるドワーフの種族衣装は、大間違いですけれどもね?」
「イエヤスが人間じゃなきゃあ、『稀人』として歓迎してくれたかもしれないけど~」
「やはり、山の民か。山本勘助や大久保長安を思いだすな。ならば、交渉の余地はある」
「そうだー! 勇者の印籠が効くかもよっ! 控え、控え、控えおろーう! この紋所が目に入らぬかー! 勇者様の御前である! 頭が高い、控えおろーう!」
セラフィナは颯爽と三つ葉葵の御紋の印籠を繰り出して、横穴の中に籠もるドワーフたちを一喝した。ちょっと~これを掲げて決め台詞を叫んでいる間は壁を張れないじゃん! 撃たれたくないよー撃たれたくないよーと気づいて涙目になりながら。
「……ケッ。んだよその勇者の証は。そんなもの出してこられちゃ、顔を出すしかねーじゃねーか。ニセモノだったら許さねえかんな。あー、眩しい。三ヶ月ぶりに日の光を浴びちまった。おうおう、オレがこのギルドを仕切るゾーイ様だ! 印籠なんかじゃ納得しねえ! てめーが本物の勇者だという証拠を見せやがれ、イエヤス!」
多数のドワーフを引き連れて、自家製の鉄砲を担いだゾーイが横穴から家康一行の前へと出てきた。ドワーフは小柄な種族だが、ゾーイだけは背が高い。約180センチという、人間の女性でも滅多にみない高身長。頭が小さく、八頭身。口は悪いが、片目を隠してしまっているぼさぼさの髪の毛と、獣の皮からあつらえた粗野な一張羅をなんとかすれば、一国の王女にも匹敵する美少女だった。
「……がーん? なに、この子? 私より胸が大きい、腰が細い、脚が長いっ? うそーっ、まさか私ってドワーフの女の子よりもドワーフ体型だったのーっ? はっ? そうだわ! きっと生まれた時にドワーフの赤ちゃんと王家の赤ちゃんが密かに取り替えられて……私は実はドワーフの娘だったんだわー! エルフの王女じゃなかったのねー! よよよ……さようならエレオノーラ、自分探しの旅に出るので止めないで~!」
「ま、待ってくださいセラフィナ様。あなたはまだ成長期ですから。二年もすれば私のようなエルフの女性らしい体型に」
「そんな見え透いた慰めの言葉はやめてーっ! ますます自分が惨めになるーっ!」
「……なにゴチャゴチャ言ってんだよ、そこのちんちくりん娘。オレの身長の話をするんじゃねー、ハンマーでど頭カチ割るぞドラァ! むしろオレと身長を交換しろやぁ!」
エレオノーラがギャン泣き寸前のセラフィナを押しとどめる中。
ゾーイは、「オランダ人の娘よりも背が高いな」と感心する家康に「うっせー! 二度と身長の話をすんなオラア!」と怒鳴りながら、自分が高身長に育った理由を語った
「オレぁ母親はドワーフだけどよ、父親は人間なんだよ! 二人はヘルマン騎士団の傭兵として大厄災戦争に従軍しているうちに、恋に落ちてデキちまったんだってよ! だからオレは、半ドワーフ半人間だ! 親父から遺伝したんだよ、この背の高さは! 親父はオレよりもずっとデカかった、巨人族の末裔かと思ったぜ! ただし、オレの顔は母親似だかんな!」
「ほう。異種族間の子か――この世界では有り得るのか、世良鮒?」
「エルフは純血統主義だから、異種族と結婚することはまずないけれどー。他の種族間では割とあるよ? 十年前まで、異種族は一緒に戦場で戦っていたからねー。はっ? ということは、私の実のお母さんは……ドワーフだったんだああ? さようならエレオノーラ、今から瞼の母を求めて旅に出ますから止めないでー! 待ってて、お母さ~んっ!」
「あなたは紛れもなく先の国王陛下とお妃様のご実子ですから! イエヤス様とゾーイ殿の交渉が進まないのでお静かに、セラフィナ様!」
ドワーフって言うほどチビじゃねーだろおめーは、全くキャンキャンうるさい娘だ、とゾーイがこめかみに青筋を立てながらセラフィナを睨みつけた。すいません、と縮こまるセラフィナ。血筋など異種族の前には無意味。高身長、体格差、プロポーションの格差こそパワー。抗えない。
「事情は承知した憎威。どわあふとして生きる道を選んだのはなぜだ?」
「ああ? んなことまで、てめーに教える必要ねーだろ。穴掘って金脈を探してる時と、山ん中でご禁制の鉄砲を密造してぶっ放している時が一番幸せなんだよ、オレは」
「その鉱山師と兵器生産の能力を、半年後に人間軍に攻められるえるふの森防衛のために用いたいのだ。新たな金脈を掘り当ててくれれば、あとはこちらにいるだーくえるふの商人桐子が、どんどん資産を増やす。恩賞も中抜きも思いのままに許すぞ」
「はあ? ダークエルフとエルフを一緒くたにしてんのか、てめえ? ヘンな奴だなー」
「さらに俺は、えるふの森を大改造して難攻不落となすための新たな土木工事の計画を練っている。お前たちの穴掘り能力を最大限に活かせるぞ。地下を好きなだけ掘り放題だ」
「……ほ、掘り放題……? マジかよ。に、任期はいつまでだ?」
「俺の慎重極まる計画通りに改造工事を進めれば、千年。もっとも、まずは突貫工事で半年後の籠城戦に必要な最低限の改造を優先する。だが、完璧を期した要塞都市を完成させるには、工事は千年続くだろう」
「はあ? 千年? そんなべらぼーな予算、おめーに支払えるわけねーだろーが!」
うげー千年も工事するってどんだけ鉄壁にしたいのよ、いくらなんでも慎重過ぎるでしょとセラフィナが呆れた。
「幕府開設後、江戸そっちのけで駿府に銭を貯め込み続けた俺の利殖術を信じろ。人間の皇国は、異種族との対立が足枷となって、自由な利殖活動は行えていないと見た。無限に銭を稼いでくれる銃火器の封印なども悪手の見本よ」
「まあ、異種族を亜人扱いする人間族と一蓮托生で商売をしようなどという偏屈者は、わたくしのようなはぐれ者くらいですからねえ」
「うむ。故に自由都市のだあくえるふ商人が幅を利かせているのだ。この大陸で俺と桐子とお前が組めば、桁外れの蓄財が可能になり、千年間どわあふを雇える財力も手に入る。ただし、半年後の人間軍の攻勢を凌げればだがな」
「それじゃあ千年、掘り放題……話十分の一としても百年。オレの一生分。マジかよ」
ゾーイは一瞬、家康の言葉に乗せられかけた。
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