第47話 修学旅行1日目−4(笹木視点)

 やっと修学旅行1日目の宿に着いた。


 私達は広島から名古屋までは新幹線、名古屋からはバスに乗り換えて長野県松本市へとやって来た。


「ちゃんと各自、指定された部屋に荷物を置くように!男子は女子の部屋へ、女子は男子の部屋へ行ったりしないようにな!それとこれからの予定だが…」


 学年主任の先生…6組の担任の先生なんじゃけど、大きな声で私達に指示を飛ばしている。

 体育教官だから声も大きいし、夜の自由時間以外で何か企んでても見付かったら最後、一晩中正座させられるって噂が飛び交ってるから、去年の江田島合宿の時みたいな、本来は大丈夫な筈の夜の自由時間の時にも、何かしよう!みたいな雰囲気は殆どない。まあ400人近い集団で全員ジッとしてるとも思えないから、今は黙ってるだけかもしれないけどね。


 逆に女子バレー部は、その夜の自由時間に練習しろと言われてるから、面倒だよ。


 だけど6組って担任も副担も体育教官ってのはなんなんだろう。

 そんなに素行不良な生徒は6組にはおらんように思うけどな〜。偶々なのかな?


「メグ、部屋も同じじゃけぇ助かるよ〜」


 タエちゃんが旅館に入りながらアタシに声を掛けてきた。


「アタシもタエちゃんと同じ部屋になって、助かるよ」


 お互い自由時間を縛られた女子バレー部仲間、タエちゃんこと近藤妙子。アタシはタエちゃんを上井くんとくっ付けようと考えたことがあったけど、それは夏休みの合宿の最中に、どうやら上井くんのことを好きな吹奏楽部の後輩がいるっぽいのを発見したから、諦めた。


「夜の自由時間も練習だなんてさ、絶対嫌がらせよね?ミニ紅白戦やるとか聞こえたけどさ」


「えー?んもう、またアタシにはなんの連絡もなく勝手に決めとるんじゃけぇ…」


 アタシは6組副担でもある顧問とは、あまり相性が合わない。

 昔ながらの熱血バレーボール…顧問はアタックNo.1の世代なのか、練習が厳しい。確かに甘いばかりじゃダメかもしれないけど、その厳しさのせいで何人の部員を見送ったことか…。

 アタシはそんなんじゃない、まずは部活に来るのが楽しみな雰囲気作りをしたかったのに、何もかも顧問が勝手に決めて押し付けてくる。今回の修学旅行中の夜練のように。3年生も途中まで変な介入してたし、主将になったらこうしたい、って考えてたことが殆ど実現出来ていない。


 上井くんと偶に話をすると、彼は彼なりに吹奏楽部の部長として辛いこと、悩み事を抱えてはいるけど、少なくとも部活の運営は彼の理想に近い状態なんじゃないかな、と感じる。

 後輩達にも壁を作らず、オヤジギャグとか言っては突っ込まれているのを見掛けるけど、楽しそうだったし。


 でも今朝の山中くん、太田さんのセリフには戸惑ったなぁ。上井くんに、アタシのことを恋愛対象として見られるか?なんて。


 お互いその場では顔を見合わせて、即座に否定したけど。


 アタシは上井くんと上手く話せてるのは、友達だからだと思っている。

 千葉から引っ越してきたばかりの中3の1学期は、確かにアタシの広島での初めての恋愛対象ではあったけど、神戸さんに取られちゃったし。


 その後は、上井くんはアタシの思いになんか気付いてなかったと思ったから、異性の友人として接してきた。

 だから高校受験直前に突然上井くんが、クラスでは授業中以外はずーっと気配を消すように机に顔を突っ伏して過ごすようになった時は、神戸のチカちゃんと別れたんだわ、しかもチカちゃんからフッたんだわ、って分かった。

 チカちゃんは上井くんが精神的にダメージ喰らって休み時間も自分の席から動かないほどの時でも、前と変わらず…いや、前以上に元気だったし。


 だからその後、同じ高校に進学して、去年は3人とも同じクラスになった時は、思わず上井くんを応援したくなって、頑張れ!と声を掛けたかったし。

 それに上井くんと神戸さんの2人を見てると、高校に入ってからどんどん関係が悪化していると感じざるを得なかった。


 偶に上井くんは怒った顔をして吹奏楽部の朝練をサボってた時もあったな。その時は絶対に神戸さんの事で何かあったんだと思って、思わず上井くんに声掛けしたけど。


「メグ…?荷物置けば?どしたん?」


 タエちゃんがそう言ってくれた。あっ、アタシってば回想モードに入ってた!荷物を持ったまま、部屋の入口で突っ立ってたわ。


「あっ、ごめーん!アタシはデカい荷物があるけぇ、最後に部屋に入ろうかなって思うとったんよ。そしたらちょっとね」


「ちょっと?うーん、考え事?悩み事?デカい荷物ならアタシも同じよ?」


 タエちゃんは既に自分のスペースを確保して、沢山の荷物を置いていた。


「ま、まあね。夜練をどうすれば軽く出来るか、とか」


「そうだよね〜。あの顧問ってさ、絶対メグを困らせようとしとるよね!アタシはメグの味方じゃけぇ、安心してね」


「ありがとう、タエちゃん」


 タエちゃん…近藤妙子って素晴らしい女の子と知り合えたのは、女子バレー部での財産。他の同期生も優しかったり愉快だったり、個性溢れるみんなだけど、特にタエちゃんはアタシと波長がピッタリ合う。


「あーあ、アタシ達偶数組だったら、今からお風呂に入れたのにね」


 タエちゃんはそう言った。

 行程表によると、この松本市の旅館には2泊することになっている。

 お風呂は、1日目は偶数組が夕飯前に、奇数組は夕飯後になっていた。明日は逆になっている。


「まあ今日と明日で反対にしとるけぇ、平等にしたんじゃないん?先生達も」


「メグは流石やね〜。アタシは単純だわ。そこまで考えんかったもん。でもそしたらさ、今日は夕飯食べてお風呂入って、その後にユックリ出来るのに、アタシらだけはもう一回汗かかんといけんのよね?あー、やっぱあの顧問、アタシも無理。去年の顧問の先生に戻らんかな〜」


 タエちゃんが言った去年の顧問とは、体育教師ではなく国語の先生だった。だから遠征とかの折衝はしてくれてたけど、練習メニューについては今の3年生に一任していた。

 だから練習もちゃんとやるけど、今ほどピリピリしてなかった。でも春の人事異動で他の高校に転任してしまって、代わりに春に他校から異動してきた体育教官が、顧問になったんだよね…。


「まあ、アタシもなんとか抵抗するけぇ、頑張ろうよ。ね、タエちゃん!」


「うん。アタシも顧問が苦手なだけで、バレーボールは好きじゃもん。メグと運命共同体で頑張るよ」


 そんなことを話していたら、夕飯までのフリータイムだからか、同部屋の他の女子は既にどっかへ行ってしまったようで、アタシとタエちゃんの2人だけが残されていた。


「気付いたらみんなどっか行っとるし。メグ、アタシ達も…うーん、どこへ行けばええか分からんけど、とりあえずこの近くをお散歩でもしない?」


「そうね。そしたら誰かに会うかもしれんし」


 アタシはタエちゃんと、旅館の近くを散歩してみることにした。一応、担任の一条先生には一声掛けてから。


 松本市って広島より標高が高いのかな、少し凉しく感じた。

 タエちゃんと歩いていたら、結構みんな外を歩いているみたい。お土産屋さんもあるから、もう何か買っている女子もいた。


「そうそうメグ?」


「ん?なに〜」


「今朝さ、予定より一つ遅い列車で広島駅に来たじゃろ?まさか寝坊したん?」


「えー?なんでバレてんの?」


「わ、寝坊じゃったんじゃね。アタシ、適当に言うたンじゃけど、当たっとった!だって昨日みんなで一番前の車両に乗ろうね〜って言うとったんに、アタシが乗ったらメグだけおらんのじゃもん」


「アタシだけ?女バレで遅れたのって…」


「うん。タナもユカもマルも乗ってたけど、メグだけだよ、遅刻したんは」


「アチャー、なんか恥ずかしい〜」


 アタシは本当に恥ずかしかった。でもタエちゃんからは衝撃的な言葉が飛び出てきた。


「でももしかしたらメグ、上井くんと待ち合わせたん?」


 <次回へ続く>

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