第45話 修学旅行1日目ー2(神戸視点)
あれはもしかしたら、上井くんと笹木さん?
アタシは修学旅行の集合場所、広島駅へ向かうために、大竹駅から列車に乗っていた。
途中の廿日市駅で、大村くんと合流予定。
でもこの列車、広島駅に着くのが9時の集合時刻のギリギリなのよね。
「ギリギリくらいの列車の方が、色んな人に見つからんで済む」
大村くんがそう言ったからアタシも同意して、集合時刻ギリギリに広島駅に着く列車にしたんだけど、まさか次の玖波駅で上井くんと笹木さんの2人が同じ列車に乗り込んでくるなんて思わなかった。
場所的にはアタシは一番後ろの車両で、2人は1つ前の車両に乗るのが見えたから、多分電車内で会うことはないと思うけど…。
(そう言えばあの2人、夏休みの合宿中も2人でよく話してたよね。え、もしかしたら…?)
アタシは、上井くんが去年サオちゃんにフラレたと聞いてから、何とか元気になってほしいと思っていた。
勿論、アタシがそんなことを考えること自体、上井くんには迷惑だろうし、上井くんとの間にはまだまだ壁があるから、マミ(野口真由美)くらいにしかこの考えは言ってない。
上井くんは部活では明るく楽しい雰囲気で頑張ってるけど、中学にの時に部長をしてた時も、本当は辛いこと、悩み事があっても部員の前では極力明るく振る舞ってたな…。
高校でも部長に立候補してたけど、本当に上井くんは部長をしたかったのかな?
1年生の時、偶々聞こえてきた男子の会話で、上井くんは
『中学で部長をして懲りたけぇ、高校では部長はやらん』
って言ってたのをアタシは聞いている。
そんな愚痴をこぼすくらい辛かったのを今更ながら聞かされると、その頃彼女だったアタシは、上井くんのことを支えて上げられなくてごめんね、という思いと同時にアタシには辛い、悩んでる、ってことを言ってくれれば良かったのに、という思いが交錯する。
(上井くんの本音に、アタシは触れられないままだった…)
でも偶に上井くんと笹木さんが話をしている場面を見ると、いつも2人とも楽しそうに話している。
(もしかしたら、付き合い始めたのかな?)
アタシの想像がもし当たってたら、上井くんの傷…アタシが傷付けといてこんなことを思うのも失礼だけど、アタシ、そしてサオちゃんと上手くいかなかった傷が治ったのかな、と思う。
でもアタシが上井くんと付き合う前は、今の笹木さんとのように、冗談を言い合ったりして、結構楽しく話せてたんだよね。なのにお付き合いを始めてからは逆に上井くんは照れ屋さんになっちゃって、話せなくなっちゃうとは思わなかったな…。
でもこんなことを考えてたらアタシは顔に出るのか、にまた上井のことを考えてた?とか大村くんに聞かれちゃうから、リセットしなくちゃ…。
列車に乗っていると、意外と途中の駅から明らかにこれから修学旅行に行く西廿日高校2年生って分かる学生が、この列車に乗ってくる。広島駅に着くのは集合時刻ギリギリなのに。
寝坊したりして遅れたのか、アタシ達みたいに敢えてこの列車にしたのかは分かんないけど、少しずつ車内は賑やかになっていった。
上井くんと笹木さんも、どうしてこの列車にしたんだろう?
そして大村くんが乗ってくる廿日市駅に着いた。
前方を見ても、結構な同じ高校の制服姿が見えたから、知り合いもいるかもしれないな…。
「チカちゃん、おはよう、ふぅ」
「おはよう、大村くん。結構この列車に乗る同級生、多いね」
「そうじゃね。ちょっと予想外じゃったかなぁ…。廿日市駅で山中に会うたし」
「え、そうなの?じゃ、太田ちゃんも五日市で乗ってくるのかな」
「そうかもしれんね。どう?この車両に知り合いはおる?」
「何とか一番後ろの車両じゃけぇ、同級生らしき学生はおるけど、知り合いはいないよ」
「んーっと…そうじゃね、2年生っぽい西高生はおるけど、一番見付かりたくない吹奏楽部同期はおらんね」
大村くんは車内を見回してそう言った。でも…
「うん。でもね、実はね…」
「どしたん?」
1両前に上井くん、笹木さんが乗っていることを伝えようか、喉まで出かかったけど…
「ううん、何でもない、何でもないよ」
「え?なんか…あった?」
「いや、ホントに何でもないの」
その内に列車は次の五日市駅に着いた。西高生が乗り込んでくるのは、この五日市駅が多分最後。そう思って窓の外からホームを眺めたら、大村くんが言ってた通りで、山中くんと待ち合わせたのか太田ちゃんが前の方で列車を待っているのが見えた。他にも何人か同級生が見えたけど、誰かまでは分からなかった。
「なんか気になるけど、また気が向いたら教えて。今は言いにくいことなら」
「う、うん」
でも広島駅に着いたら嫌でも分かっちゃうし。だけど意外とこの列車に乗ってる同級生が多いから、分からないかな?
その後電車は結構な混雑で、広島駅に着いた。混んだのはアタシ達、西廿日高校の2年生がかなり乗っていたからかもしれないけど。
「新幹線口じゃったよね?」
「…あっ、うん、そう」
「ん?なんか今日のチカちゃん、変じゃけど、大丈夫?」
「ご、ごめんね、久しぶりに広島駅の混雑見たら、ちょっと気後れしちゃって」
「そうなん?これから広島よりもっと都会に行くのに大丈夫?」
明らかにアタシは、同じ列車に上井くん、そして笹木さんが乗っていたことに動揺してる。広島駅に着いて新幹線口の改札に向かう時に顔が会ったらどうしよう、そんなことまで考えてた。
「大丈夫よ、うん」
「もし体調悪いなら、先生に言うときんさい。新幹線の席を窓側にしてもらうとか、名古屋からのバスは前側にしてもらうとか」
大村くんとはクラスが違うから、集合後は別行動になる。明日の自由行動も、誰も何も言わなかったから、担任の先生の権限で善光寺になってしまったし。他に善光寺コースのクラスってあるのかな?大村くんの6組は、清里コースになったらしいけど…。
「大丈夫よ。心配無用!」
アタシは虚勢を張った。前方に山中くんと太田ちゃんの2人がいて、山中くんから上井くんに声を掛けているのが見えたから、ちょっと落ち着いたのもあるかもしれない。
「なら良いけど。明後日のディズニーランドしか一緒におれんし。元気に回りたいし」
「本当に大丈夫じゃけぇ、気にせんとってね?」
大村くんは何か返事してくれたけど、広島駅の喧騒に掻き消されてよく聞こえなかった。
(でももしチャンスがあれば…。上井くんには聞けないから、笹木さんに聞けたら聞いてみたいな。上井くんと付き合い始めた?って)
そう思いながら、西廿日高校2年生の集団の後ろを、大村くんと並んで新幹線口改札へ向かって歩いた。
<次回へ続く>
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