第74話 ーお盆休みその6・集団プール(最後は結局)ー
宮島ナタリーのプールでのグループデートも昼のお弁当タイムを終え、午後に入ったが、午前中に引き続きカップル別の行動になった。
8人が集まってのイベントは昼ご飯の時間だけ、になってしまった。
まあ最もその方がそれぞれのカップルが自由に動けるし、互いに気を使わないで済む。
特に大村あたりは、その方がいいはずだ。
だが広田が言っていた、神戸さんともう少し距離を縮めたいという、今日の隠れた目的は達成出来なさそうで、そうなると無理に大村と神戸を誘わなくても良かったんじゃないか、ということにもなる。
果たして神戸は、今日のグループデートを楽しんでいるのだろうか…。
そんなちょっとした引っ掛かりを感じて、若菜とウォータースライダーの行列に並んでいたら、若菜は俺の表情を読み取るのに、やはり長けている。
1年のブランクはあるとはいえ、同じ中学校で1年半共に過ごした関係があるのは強い。
「ねぇ、センパイ?」
「んっ?はいよ?」
「何を悩んでるの?悩んでる…がオーバーだったら、考え事してるでしょ?」
浮輪を抱えた若菜が聞いてくる。
「へ?な、何も悩んでも、考えてもない…よ」
「うーん、上井センパイはこういう時に嘘を付けないセンパイなんだなぁ」
「なっ、何を言い出すんだよ…」
若菜の読みには対抗出来なさそうだ。
「だって今からは流れるプールじゃなくて、ウォータースライダーだよ?もしかしたらアタシ、ポロリするかもしれないよ?お尻が凄いことになるかもよ?なのに、なんかノッてないんだもん」
「女の子が自分からポロリとか言わないの!」
「だってだって、アタシはビキニ、まだ不慣れじゃもん。滑った後にアタシのビキニがどうなってるやら。もしかしたらセンパイが見ちゃいけん状態になっとるかも…」
「う…」
つい、若菜のビキニのブラジャーがズレ、若菜が必死に手で押さえているが、バストトップまで見えそうなシーンが頭に浮かんでしまった。
「あ、センパイの顔が変わった。よしよし、やっぱり本能には忠実じゃないとね!それでセンパイ、何を考えとったん?」
行列が少しずつ動き出していて、俺と若菜も少しずつ前へと進みながら、会話していた。
「若菜には何も隠せんなぁ。まあ若菜だから言えるってこともあるか。素直に言うと、大村と神戸の2人のことだよ」
「ふーん…。もしかしたら元カノの真っ赤な水着姿が目に焼き付いて、大村センパイにバレたらどうしようとか?」
「んな訳ないじゃろ!…ま、水着はつい見ちゃうけど」
「うんうん、素直でよろしい。で、本音は?」
「うーん、今日さ、大村と神戸の2人は楽しんどるんかな、って」
「センパイ、やっぱりアタシより元カノの事が気になるのね…」
「だーかーらー、そういう視点じゃないってば。変な演技を入れないように!あのね、今日のグループデートの目的には、ちょっと俺らの代で浮き気味のあの2人を、もう少しこっちの世界に引っ張りたいってのがあるんだって。これは広田さんから聞いたんじゃけどね」
「なるほど。確かに大村センパイって、ご自宅は廿日市の方ですよね?なのに、神戸センパイを宮島口駅まで毎日送ったり、迎えに来たりしてるから、なんて暇な人なんだと…」
「こらこら、一応副部長なんじゃけぇ。…でも暇じゃなきゃ、宮島口駅まで、来んよね」
「ププッ、センパイも言いますね〜」
少しずつウォータースライダーの階段を登りつつ、若菜と俺は会話していた。
「大村はまだ、昼飯の時に少し会話に参加しとったけどさ、神戸さんは全然喋ってなかったんよね。それが気になるんよ」
「ここはセンパイを、流石部長!というべきかな…。よくアタシの弁当を食べながら、周辺観察してましたね」
「ああ、弁当はメッチャ美味かったよ!4組の中で、一番早く食べ終わったじゃろ?」
「確かに。でもそれは、他のセンパイ方はデレデレしながら食べてるから遅かった、とも言えるかも」
「な、なんだそれ。もっと俺は若菜にデレーっとしても良かったんかい?」
「まあそんな気持ちも、ゼロではなく、でも100でもなく」
「女心は分からん!年下はもっと分からん!」
「アハハッ、上井センパイは真正面から受けてくれるから、楽しいよ!」
完全に若菜の掌に乗せられているようで、若干プライドが傷付いたが、まあ楽しいからいいか…。
「で、センパイのちょっと憂いを帯びた目は、やっぱり元カノを心配する目?」
「神戸さんのことを元カノって言わないでくれよ…」
「でも、事実でしょ?」
「そりゃ、そうだけどさ。大村と比べたら天と地の差だよ、俺なんて」
「そうです?」
「宮島口駅まで毎日彼女を送迎する、これだけで負けとるよ。俺はオクテじゃったけぇ、一緒に帰るのを止めようって言われただけで凹んでさ。それで夏休みは何も出来ずに過ぎてしもうたんじゃけぇね」
「そっかぁ…。でもセンパイ?今それだとオクテもいい加減にしろじゃけど、2年前の話でしょ?」
「まあね…。中3だったし、何せ初めてだったから…」
「センパイのホロ苦い思い出だね」
そう話している内に、そろそろ順番が回って来そうな位置になった。
「わっ、センパーイ、結構高いんだね…ちょっと怖いよぉ」
ナタリーは海辺の遊園地なので、階段を上がった所にあるウォータースライダーの出発点は、横を向いたら海に吸い込まれそうな感じがする高さだ。
「大丈夫だよ。柵に掴まってれば」
「分かってるけど…。センパイ、腕貸して?」
「え?」
若菜は俺の左腕に、右腕を絡ませてきた。
「ちょ、若菜…」
「スライダーのスタートまで、腕組ませて。怖いんだもん。お願い!」
俺の左腕に、若菜の胸がビキニ越しに食い込む。
俺の心拍数が上がる。
「あ、あの…腕…」
「今日だけはアタシ、センパイの彼女でしょ?腕組むくらい、カップルなら誰でもやってるよ…コワイヨー」
「俺、別の意味で怖いんじゃけど…」
その体制のまま、少しずつ前へ進むと、少しだけ高さがまた上がる。
若菜の俺の腕にしがみつく力が、強くなる。
ということは、それだけ若菜の胸がより一層俺の肘に食い込んでくる。
若菜は気にしてないようだが、俺は全神経が左肘に集中していく。
絶対に若菜のバストは、中学時代より成長している。間違いない。
(ちょっと、こんなに若菜の胸が俺の肘に食い込むなんて、ど、どうすればいいんだ…)
若菜の顔を見たら、高い所が怖い、という顔をして、俺が唯一の命綱のようにしがみついている。
そんな顔を見たら、またキュンとしてしまった。
(可愛い…。いや、今日だけだ、今日だけ。若菜だって今日だけって割り切ってるから、こんな大胆な行動をしてくるんだ)
でも柔らかな若菜のバストの感触に、俺の左肘は完全に虜になっている。このままずっと腕を組みたい、と哀しい男の本能が俺に迫る。
順番が進み、階段をまた一段上がる。
たった一段でも、若菜の目線から見える外界は、グンと高くなるのだろう。
「センパイ…。スライダー止めとけばよかった…。こわいよぉ」
更に胸を俺の左肘に食い込ませて、そう言った。
「若菜は高所恐怖症じゃったっけ?」
俺は左肘と、女子にはない一箇所だけが燃え盛るように熱くなっていたのを悟られないよう、なるべく冷静に話した。
「う、うん。実はそうなの。でもね、ナタリーのスライダーは楽しそうじゃけぇ、大丈夫と思ったんよ。だけど予想以上に高かったぁ」
「大丈夫だよ」
俺は空いてる右手で若菜の頭をポンポンと軽く叩き、
「じゃ、一緒に滑る?」
「えっ?そ、それはダメなんじゃない?」
確かにあと数人になった先客を見ていると、1人ずつ滑り出している。
「そうだね。じゃ一緒がダメなら、若菜は先がいい?後がいい?」
「……センパイと一緒がいい」
若菜は潤んだ瞳で俺を見上げ、そう言った。俺はその表情にドキッとするしかなかった。
(なんなんだ、この可愛さは!ワザとか?その気にさせてスライダーを滑ったら、下でドッキリ大成功とか、看板が出てくるのか?)
「若菜…。よし、ダメ元で上井お兄さんが聞いてみよう、係員さんに」
「え?」
「すいません、このスライダー、浮輪で2人一緒になって滑るっていうのは、大丈夫ですか?」
何故か俺はこんな時だけ行動が早い。だが係員さんの返事も早かった。
「ダメです。あくまで1人ずつでお願いします。怪我の元になりますから」
「はぁ…。なるほど…」
若菜は俺に掴まったままだったので、一部始終を見ているのだが、俺と係員さんとのやり取りで少し気が楽になったのか、顔が明るくなっていた。
「センパイ、撃沈が早い〜」
「あんなに速攻でダメですって言われるとは思わんかったよ、ったく」
「確かに同時に滑ったらさ、途中でどんな姿勢になるかも分かんないし、ぶつかって怪我しちゃうかもね」
「そうだね…アハハ…」
「じゃあアタシ、センパイの後にする!」
「ん?俺の後にする?」
「うん。センパイに先に滑ってもらって、ゴールでセンパイに待っててもらうの」
若菜はさっきとは全然違う顔で、俺を見上げてそう言った。
(だからなんでそんなに可愛いんだ…。今日だけ、今日だけ…)
「じゃあ次の方、どうぞ」
俺の番になった。
長く若菜の右腕…というか、若菜の胸の虜になっていた左腕を離し、先にスタートラインに座った。
「センパーイ、ゴールで待っててね!」
「お、おう!」
若菜が励ましてくれる。
ここまで若菜をリードするために、頑張っていた俺だが、俺も実はやや高所恐怖症気味だ。
だから先に滑るのは、内心は若菜が先の方がいいな、等と思っていたが、流れ的に俺が先になった。
(よーし、ゴールで若菜を出迎えるために!)
俺は係員さんの合図を聞き、一気に滑り出した。
ルートは途中でトンネルもあったり、海に飛び出しそうに錯覚する箇所もあったりで、スリル満点だった。
そしてゴールに着くと、ザバーンと思い切り全身がプールへと沈んだ。
必死に這い上がると、係員さんが、次の方が来ますから、早目に動いて下さい、と案内に来る。
「大丈夫です」
「えっ、いや、危ないですよ!ぶつかったら大変なことに…」
「次に来る子は、俺の彼女ですから」
「は、はぁ…」
「待ち受けてやらないと、約束破っちゃうんで。少し横にズレてますから」
「はい…。気を付けて下さいね?」
「はい、すいません」
と係員さんに無理を言っている間に、上から嬌声が聞こえてきた。
少しずつ近付いてくる。
そして数秒後、勢いよく若菜がゴールプールへと飛び込んできた。
「センパイ、ヤッホー!キャーッ」
若菜はザバーンと、俺と同じように全身をプールの中へ沈ませた後、しばらくしてから犬かきのような動きで這い上がってきた。
「センパイ、待っててくれた!ありがとう〜」
「約束だもんね。だけどさ、俺、ちょっと横向いとくから、あの、ビキニをちゃんと直してみな?」
「え?ちゃんとブラは押さえてたのになぁ…。きゃ、危なっ!」
若菜はちゃんとビキニのブラジャーは押さえていたと言ったが、それでもズレてしまうのが、スライダーの恐ろしい、しかし男子にはちょっと嬉しい所だ。
若菜も危うく、バストトップが見えそうになっていたので、俺は慌てて横を向いたのだった。
「…ビキニ、直った?」
「う、うん…。センパイ、見えた?もしかして…」
「いやいや、見えちゃいないよ?見えそうだったけど」
ホントはもう少しで見えそうだったので、少し残念な思いがあったのも、悲しき男の本能だった。
「えーっ、危なかった!やっぱり胸を全部見せるのは、いくらセンパイでも、ダメです!」
「そりゃ、そうじゃろ。いや、見えとらんのじゃけぇ、怒らんでもええじゃん」
「うーっ、センパイ、ホントは見えたんでしょ」
「見えてないってば!すぐ横向いたじゃろ?」
「ホントに見てない?」
「見てないってば」
「……ちょっと安心」
「やっとかい!」
その後俺と若菜は、もう一度流れるプールへと向かった。
ビキニのブラジャーにばかり気が行っていた若菜は、ビキニのパンツの食い込みを直すまで気が回らなかったようで、かなりお尻に食い込んだハイレグなままだったが、俺が指摘するとまたスケベだなんだと言われるから自重し、本人が気付くのを待った。
「センパイ…」
「な、なに?」
若菜のビキニに意識が飛んでいた俺は、ちょっと動揺してしまった。
「アタシ、我儘でしょ。自分勝手でしょ」
「え?何を言い出すんよ」
「ちょっとね…。センパイ、プールで流れながら、今度はアタシの話、聞いてもらえる?」
「いいよ。なんでも聞いたげるよ」
「ありがと、センパイ」
若菜はそう言うと、手を繋いで?とばかりに、右手を俺の左手に絡ませてきた。
そんな俺と若菜の様子は、他の3組のカップルからは、もしかしたらアイツラ、本気で付き合うかもしれん、と思わせたようだ。
<次回へ続く>
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