第70話 ーお盆休みその2・集団プール②水着ファッションショーー
広電宮島口駅から、プールのあるナタリーまでは一駅だ。
俺らは宮島口から来たが、勿論反対側から来るお客さんもいる。
9時半前にナタリーの入口に着いたのだが、好天の影響もあり、既に入場券売場は行列が出来ていた。
「山中〜、前売券は買っとらんの?」
俺はダメ元で聞いてみた。
「わりぃ、そこまで頭が回らんかった。各自で並んで買ってくれる?」
山中は頭を掻きながら、バツが悪そうに言った。
「まあまだ耐えられるよ、これくらい。でも10時待ち合わせにしてたら大変じゃったかもね」
広田が場を和ませるように話してくれる。太田、広田と、癒やし系だなぁ…。
反面、大村と神戸を見たら、大村が苛ついているようだった。気のせいかもしれないが…。神戸がなんとなく気の毒に感じた。
確かに、グループとはいえ大村と神戸のデート現場に居合わせるのは、初めてだ。
去年の夏だったら、間違いなくあの2人とは一緒に居られないと言って帰っただろうが、今年はそんなことは思わなかった。
逆に大村が、部長としての俺に対する時と、単なるグループの一員としての俺に対する時とでは、態度が違うことが分かった。
まだ俺が神戸に未練があるとか思ってるのか?
そう考えると、お邪魔なのかな…とも思うが、若菜がそんな俺を元気付けてくれる。
「セーンパイ!入場券、買いますよ〜」
「ごめん、列に先に付かせちゃって」
「いえいえ。ね、センパイ、アタシの分の入場券じゃけど…」
「若菜の入場券じゃろ?買ってあげるよ」
「えっ?いいの?」
「うん、今日誰が俺の相方務めてくれるんか分からんかったけど、女の子なのは分かっとったけぇ、少しは男としてさ、ええところ見せとうて。予算は多めに用意したよ」
「わ、センパイ、カッコいい〜。横田さんや森本さんだったら、もう目がハートになっちゃうかもよ💖」
「そうやね、去年の体育祭で告白未遂されて、それっきりじゃけぇ…」
「センパイ、今その2人に会って、仮に告白されたら、受ける?」
若菜は突拍子もないことを聞いてきた。
「いや…、分からん。2人ってウチの高校が残念なことになってから、若菜は会ったことある?」
「そりゃあ、あるよ〜。同期じゃもん。電車の中で会ったこともあるし」
「マジで?そしたら俺も会う可能性が…」
「ゼロじゃないよね。アタシが会っとるんじゃもん。でもいつもセンパイ、部活後も後片付けとか生徒会で忙しいけぇさ、多分センパイはJR的に、2本か3本、彼女らとズレとるんじゃと思うよ」
「そっか。それは仕方ないよなぁ。最近の横田さんや森本さんは、どんな感じなん?」
「あっ、センパイ、入場券買う順番だよ!」
「おっと、渋滞を引き起こすとこじゃった」
列はいつしか進み、窓口は俺と若菜が入場券を買う番になっていた。話しながらだと、やはり早く感じる。ネタが、俺のことを好きだと公言してくれた2人の後輩女子のことだったから、余計にそう感じるのかもしれない。
「はい、何人分ですか?」
「高校生2枚で」
「じゃあ3000円になります」
「さ、3000円…?はい、分かりました」
事前に確認してない俺が悪いのだが、若菜の入場券も合わせて買うと、実は既に予算オーバーだった。
(レジャープールなんて小学生以来じゃけぇ、1人500円くらいかと思うとった…甘かった…1000円高かった…)
「…はい、若菜の入場券」
想定以上に財布の中がスカスカになってしまい、いきなりテンションが落ちてしまった。
「ありがとう、センパイ!…ん?元気がないけど、どうかした?」
「あ、いや…。気にせんとってね」
「気になるよ!あ、もしかしたらセンパイ、予算が足らんとか?」
「うっ、なんでそんなにすぐ分かるんよ」
「それしかないもん。入場券買う前はミキちゃんやケイコちゃんの話で楽しそうだったのに、入場券を買い終わったら、突然落ち込んどるんじゃけぇ」
「いやぁ、お恥ずかしい…」
「ねぇセンパイ、もしお金が足らんなら、アタシもちゃんと持っとるけぇ、気にせんでね。奢るとか、男が出さにゃあとか、そんなこと考えんでもええからね」
「なんだか出だしから後輩に慰められるって」
「ハハッ、逆に上井センパイらしいよ!ほら、他の先輩方が待ってるよ。行こ行こ!」
完全に若菜に主導権を握られ、俺は他の3組のカップルが待つ入口へと移動した。
「ウワイモ、なんかトラブったか?」
「あ、いやいや、大丈夫」
「そうか?時間が掛かっとったけぇ、なんかあったんかなって思ってさ」
「それは最後にアタシが暴露しまーす!」
「ちょっ、若菜ってば!」
ちょっとした笑いに包まれた。大村と神戸も落ち着いてきたのか、一緒に笑っていた。
俺のパートナーを1年生女子から選んだのは、ある意味で山中のファインプレーかもしれない。
他の3組のカップルの女子にしてみたら、2年生の同期の女子が来るよりも後輩の女子が来た方が、何かとやりやすいだろうし。
「じゃ、中に入ろうや。男女別に更衣室に分かれて、再集合は何処にしようか」
山中がリーダーとして引っ張り、大上がサポートするようだ。その大上が、今喋っとるここでええんじゃないか?といい、この場所へ着替えた後に再集合することになった。
「じゃ、男子のみんな、アタシ達の水着姿、楽しみにしててね〜」
太田がそう言って、手を振って女子更衣室に入っていった。
「じゃ、俺らも着替えようぜ」
山中を筆頭に、俺ら4人は男子更衣室に入った。
「みんな、海パンは先に穿いてきとるんじゃろ?」
大村が珍しく喋った。
「ああ、当たり前よ」
大上がそう言って、山中も俺も頷いた。
「じゃ、脱ぐだけみたいなもんじゃね」
そう言いつつ男子4人が次々と服を脱ぎ、海パン姿になると…
俺の体の貧弱さが際立つ。
色は白いし、体育が嫌いだから普段から鍛えたりしてないし。
大村は元陸上部だけあって、まだスポーツ系の肉体を維持している。大上も山中も、少なくとも俺よりは見栄えが良い肉体だった。
(あー、もう少し女子の目の前で晒しても安心な肉体にせんとなぁ)
お腹の辺りを摘んでいたら、
「誰もウワイモには筋肉美を求めとらんけぇ、気にすんなや」
と山中が、慰めなのかどうか分からない言葉を掛けてくれた。
「ハハッ、ありがとな、慰めの言葉…」
そんな男子の海パンは、全員ノーマルな膝上丈の海パンで、それぞれ色柄は好みなんだろうな、と思わせるものだった。
ちなみに俺は青を基調として、白いペンキをサッとまぶしたような海パンだ。
他のメンバーの海パンは大雑把に言うと、山中が緑、大上が赤、大村が黄色、そんな感じで分かれていた。ヨレンジャーと言えそうだ。
「さ、待ち合わせ場所に行こうや!」
大村が何故か元気になってきて、声掛けをしていた。
「大村、早く神戸さんの水着姿を見たいんじゃろ?」
大上が答えた。
「それはここにおる男子はみんな、一緒じゃろ?彼女の水着姿なんて、年に何回見れるやら、じゃけぇね」
ふと俺は、違和感を感じた。
(去年の夏、もう大村と神戸は付き合っとったけど、泳ぎには行っとらんのかな?)
だとしたら、大村の急なはしゃぎっぷりも納得いくのだが。
とりあえず男子4人は、待ち合わせ場所へと出てきた。
女子の方が、仮に自宅から水着を着ていたとしても、やっぱり時間は掛かる。
誰ともなく、まだかな~と呟いている。大村も、神戸からどんな水着を着ているかまでは聞いてないのだろう。
そのうち、聞き覚えのある女子の声が聞こえてきた。
「そろそろみたいじゃな」
山中が言った。その通りで、女子4人組が、一緒に更衣室から現れた。
「お待たせ〜。かなり待った?どう?みんなの水着姿は」
太田が女子のまとめ役なのか、先陣を切って話しかけてきた。
「待ったよ〜。いや、みんな可愛いなぁ…」
山中が太田の彼氏として返事をしたが、男子はみんな女子4人に釘付けになっていた。
4人の内、ワンピース水着が2人、ビキニが2人だった。特にビキニの2人は、恥ずかしそうにしていたのが、余計に男共には効き目大だった。
最初に口を開いたのは…
「上井センパイ、アタシがビキニなんて、ビックリでしょ?」
「ビックリだよ!まさかの若菜のビキニなんて、俺、神様に感謝しなくちゃ」
「アハハッ!じゃあこのビキニ、神様ビキニと名付けようっと」
そう、ビキニの一人目は若菜だった。これには他の男子も驚いていた。
そのビキニは、白を基調とした、やや大きめの水玉模様がプリントされたビキニで、普段は分からない、また中学時代からは想像も付かない、若菜の胸の意外な大きさが明らかになっていた。
「ちょっとみんな、若菜ちゃんのビキニ、見過ぎ〜」
少し怒り口調で、太田が他の2年女子を見ろとアピールしている。
「まあまあ太田ちゃん、若菜ちゃんがトップでビキニなんて披露したら、男子には中毒だよ」
クスクスと笑いを堪えながら広田が太田を宥めていた。
そんな2年女子の水着はというと…
もう一人のビキニは、太田だった。太田は逆にスレンダーさを活かした感じで、黒を基調として所々に星印がマークされたビキニだった。
「山中、太田さんのビキニで鼻血出すなや」
大上が茶化していた。
「鼻血が出たら首の後ろ、叩いてくれや」
山中も応えていた。この2人のやり取りも、安定感がある。
残る2人はワンピース水着だが、スクール水着ではなく、広田はスカイブルーを基調とした、小さな薔薇のイラストが沢山描かれた水着、神戸は赤を基調とした、ヒマワリが大胆に描かれた水着と、こちらも三者三様ならぬ四者四様の水着が出揃った。
「何だか男子も事前に話し合ったん?ってくらい、4人とも色違いになったね」
太田がそう言うと、山中も
「女子も話し合いとかしたん?同じ水着が1人もおらんし」
「そんなことしてないよ?女子は水着も沢山あるけぇね、あんまり被らんと思うよ」
広田が首を少し傾げながら言った。
(広田さんも可愛いな…。大上が羨ましいな)
「じゃあ最初は、カップル別に分かれて遊んで、昼前にまたここら辺に集まろうか」
山中がそう言うと大上が反応した。
「昼飯はどうする?」
「あ、それは事前に女子で話し合ったんよ〜。お弁当を、みんなの彼氏の分も作って持ってくることって」
「ホンマに?嬉しいのぉ」
山中が心から嬉しそうだったのが印象的だ。これまで、太田作の弁当でデートとか行ったことはないのだろうか。
ちなみに俺はどうなるんだろう?
「お弁当は、ちゃんと男子全員分あるよ。ね、若菜ちゃん!」
「はい!上井センパイ、アタシの作ったお弁当、完食して下さいねぇ」
「若菜、作ってくれたん?なんや、スゲー嬉しいんじゃけど」
「でもセンパイの好き嫌いは分かんないから、中身はテキトーです」
笑いが起きた。俺は頭を掻くことしか出来なかった。
「それじゃ昼前まで、各カップルで行動開始!」
大上と広田、山中と太田、大村と神戸、3組がプールへ向けて走り出して行った。
俺は部活の時の癖で、ついみんなが先に行くのを見送ってしまった。
「あれ?上井センパイ、行かないの?」
「あ、ゴメンね。つい部活の時の癖が出ちゃって、俺が最後までいなきゃ、みたいな気持ちになって、みんなを見送ってしもうた」
「アハハッ!センパイ、面白ーい。今日は部長じゃなくてええのに。さ、アタシ達も行こうよ〜」
若菜はそう言うと、俺の手を握って、プールへと引っ張ってくれた。
屈託なくニコニコしながら俺を引っ張ってくれる若菜の後ろ姿を見ながら、胸だけじゃなくビキニパンツに覆われているヒップも、中学の体育祭の時に見たブルマ姿から考えると、成長している…と思わざるを得なかった。
(2年前の若菜とは違う…。つい2年前の中学の時のように接してしまうけど、認識を改めなくちゃいけないな…)
果たしてこれから若菜と過ごすお昼ご飯までのひと時は、どんな時間になるだろうか…。
<次回へ続く>
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