第66話 ー神戸視点・合宿最終日その2(本性?)ー
3日目の朝食は、上井君がなかなか姿を見せなくて、福崎先生も先に来ちゃって、後は上井君待ち、みたいな感じになった。
D班の準備も終わって、お腹が空いてる子は、早く食べたい〜とブツブツ言ってた。
朝からこんなに長い時間、シャワーを浴びるかな?
しかも冷たいんだし。
と思ってたら、なんとこの日の朝は、上井君が一番最後に現れた。
「いや、朝のシャワーって冷たいけど、朝日を感じられて気持ちいいよ!長居しちゃってすいません。D班のみんなも準備ありがとう。では先生も揃っておられるので、合宿4日目の朝食、頂きましょう、合掌~」
やっと食べれる〜という声が聞こえた。
こんなギリギリまで、シャワー浴びてたの?
それともシャワー室に行くって宣言してたから、シャワー室で誰かが上井君を待ち伏せてたとか…。
「チカ、何を悩んでるの?」
今度はマミに突っ込まれちゃった。
「え?何も悩んでないよ?」
「嘘。アタシの目は誤魔化せんよ」
ついさっきと逆のことを言われちゃった。
「チカ、完全に目が泳いどるもん。上井君のこと、見とったんでしょ?あまり上井君のことばっかり考えてたら、大村君が嫉妬するよ?」
「う、うん…。上井君がさ、シャワーに行くって言った割に、あまりに遅かったから…。また誰かに捕まってたのかなって」
「チカと上井君の関係修復は、アタシもお節介な部分はあるけどさ、それは大村君との関係を壊してまで…ってわけじゃないし。気を付けて」
「それはアタシだって…」
「うーん…。心の奥の本音も、そう?」
マミにそう言われて、正直ドキッとした。けど…
「ま、マミは…アタシの本音、知ってるでしょ?上井君とは男女関係ない友達として再出発したいし、大村君とはこの先も高校生らしく付き合いたい…」
「大村君、そこまで大人かなぁ。最近、上井君をサポートしてる場面をよく見るけど…。アタシはなんか裏があるように感じちゃう」
「考えすぎだよ!」
ついアタシは大声を出してしまった。周りの同期の女子が何かあったん?みたいな目で、朝ご飯を食べながら一瞬アタシの方をチラッと見たけど、アタシは何もないよと首を横に振って、大丈夫だと合図した。
「ご、ごめん、チカ。なんかアタシ、上井君もだけど、チカのことも傷付けてるかもしれないね…。ごめんね」
マミは元気をなくして、そのまま朝ご飯のバターロールを食べ続けた。
「アタシもつい大声を出して…ごめんね」
「…これって、昨夜アタシが上井君にやられたことだよ。アタシ、仲直りしてほしい2人から、そろって怒られちゃった」
マミはそう言うと苦笑いを浮かべて、
「後でアタシ、上井君にこの合宿で掛けた迷惑を、正式に謝る。その前に今、チカに謝る。ごめんね」
「いやっ、アタシこそ…。ごめんね」
なんだかこの日の朝ご飯は、食べたような気がしないまま、上井君が締めの挨拶をして、終わっちゃった。
で、上井君はというと、D班の片付けに声を掛けることもなく、そのまま男子の部屋がある方へと歩いて行った。
(…やっぱり疲れてるんだ…)
「チカちゃん、お疲れさん」
「あ、大村君。ねぇ、上井君と何か会話した?」
「上井と?いっ、いや…別に?」
なんとなく上井君行方不明の一件を探られるんじゃないかと警戒してるような、それでいてやっぱり大村君も疲れているような返事の仕方だった。
「上井がどうにかした?」
「いや…別に…」
「チカちゃん、俺と同じ答えだよ」
大村君は苦笑いしながら、
「上井なら…あ、D班の片付け現場にはおらんね。また誰かに捕まっとるんかな」
「それが疲れ切った感じで、男子部屋の方に向かっていったの」
「まあ合宿最終日だし、上井だって後数時間、なんとか合宿を引っ張らにゃいけんけぇ、たまには休憩でもしてから、朝の合奏に来るんじゃない?」
「そうならいいけどね」
でもマミはさっき、後で上井君に謝っておくって言ってたし…。
きっとマミは強引に上井君を捕まえに行くだろうな…。
「チカちゃんはすぐ音楽室に行く?」
「うーん、そうしよっかなぁ。なんか、女子の部屋に戻る気が起きないの」
「分かったよ。じゃ、俺も音楽室へ直行するよ」
「ホント?ちょっと助かるな」
そう、アタシの今の彼は大村君なんだから、上井君がどうだとか、マミとの関係がどうだとか、深入りしない方がいい…。
上井君との関係は、なるようにしかならないんだ、きっと。
そして大村君と他愛もない話をしながら音楽室へ向かっていたら、遠目にマミが上井君に話し掛けている姿が、教室棟の3階に見えた。
上井君も疲れてるっぽいけど、マミは今謝らないといけないって思ってるのかな。
お昼ご飯の時でも良いのに…。
今朝大変な事があったんなら、お互いに今は合宿最後の合奏前に、少し体を休めたら良いのにな…。
って、また上井君のことを考えてる。
ダメだな、アタシは…。
「まだ誰もおらんね」
音楽室に着いたら、まだ誰もおらず、アタシと大村君が一番乗りだった。
「そうだね…って、ちょっと、大村君…」
「そろそろ、キスぐらい、させてよ」
そう言って大村君はアタシの肩を掴むと、顔を近付けてきた。
「だっ、ダメ、ダメだってば!」
「またお預け?俺達、もう付き合って1年以上経つのに、まだキスすら出来ないの?」
「とにかく、ダメ。アタシ、末永先生に、上井君がいる前で、高校生らしい清い交際をしてね、って言われてるんだから」
「キスぐらい、どのカップルでもやってるじゃろ?キスしたら、清く無くなるん?」
「そ、そういうことじゃなくて…こんな神聖な場所で…ダメだよ」
アタシは大村君から幾度となくキスぐらいさせろとせがまれている。
だけど、まだ許していない。
百人一首大会の前に、上井君がアタシと大村君がキスしてるのをアンコン(アンサンブルコンテスト)の帰りに見たから、やっぱりアタシとは百人一首大会には出たくない、って言われた時のことが、心の何処かで引っ掛かってる。
それは上井君の見間違いだったけど、それ以来、例えキスでも本当に慎重になってしまって、大村君が求めてくるタイミングと、アタシが今なら大丈夫なのにというタイミングがズレまくっている。
「あ、副部長ご夫妻だけのところ、すいませ~ん」
そう言いながら、少しずつ部員が集まってきた。
「…じゃ、練習するか…」
明らかに不満気な大村君に対し、アタシは何故だかホッとした。
確かに付き合いだして1年以上も経つのに、キスもしてないのはオカシイのかもしれない。
でもアタシは腕を組んだり、手を繋いだりで、スキンシップは図ってるつもり。
でもキスなんて、お互いの気持ちが合わないと、出来ない。
…もう一つ、心の何処かに、上井君に絶対見られたくないって言うのがあるからかもしれない…
「チカ、上井君に謝れたよ」
アタシがボーッとしながらクラリネットを組み立てていたら、マミがちょっと無理した笑顔でやって来た。
「ホント?」
「うん。最後は…ちょっとチカには言えないような話もしちゃった。エヘヘ」
マミはちょっと舌を出して、上井君と何を話したのか、ワザと気を持たせるような言い方をした。
「なによ、それー。上井君とマミだけの秘密?」
「秘密ってほどじゃないけどね。まあ、上井君も健全な男子ってことが分かったわ」
マミはそう言って、クラリネットを組み立て始めた。
(なんなの、健全な男子って?上井君に謝らなくちゃ、って朝食の時は神妙な顔してたのに)
ちょっと不満が溜まっちゃったけど…。
大村君のキスの要求といい、上井君は健全な男子っていうマミの発言といい、なんだか合宿最後の段階で…あまりこんな想像したくないけど、みんなエッチになってるのかな。
その内、ティンパニーの音が鳴り出したから、上井君も到着したってことが分かったけど…一体マミとどんな話をしたの?
気になっちゃう…。
<次回へ続く>
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