第22話 -神戸Side3-

「神戸さん、ちょっと確認したいことがあるんよ…」


 そういって太田さんはアタシを廊下へと誘った。


「う、うん。何かあった…んだよね?」


「一応、神戸さんに耳には入れておいた方がいいかなと思って」


 アタシもクラリネットを椅子に置いて、廊下へ出た。

 昼が近い。

 真夏の太陽が容赦なく照り付けてくる。


「さっき、野口さんと話したんじゃけどね」


「うん、見てた」


「でも内容は知らんよね?」


「まっ、まあね」


「簡単にまとめるね。野口さんが言うには、上井君が一生懸命考えて準備した夏合宿の改革案に文句を言ってしまって、物凄く落ち込ませちゃった、って言うの」


「えっ…」


 なるほど、マミ(野口真由美)の動きがちょっと変だったのはそういうことなんだ。でもマミは上井君とは仲がいい方じゃない?


「それでね、役員が今回の合宿の改革部分について、事前に知らされていたか?っていうことを、とても気にしてたの。神戸さん、どう?知らされてた?」


「えっ、そ、そうね…」


 知らされてなかったといえば、役員の意思疎通の無さが露呈しちゃう。でもそんなのは上井君の名誉のために言うべきじゃない…。


「事前にプリントもらったじゃない?アレでアタシは分かってたから、知らされてないと言われればそうかもだけど、どう上井君が変えるのかは分かってたよ」


 うーん、こんな言い方で良いのかな…。


「そう言えば確かにプリントには書いてあったね。食事班についてはクジ引きではなく、事前に5班体制で編成しますって」


「でしょ?上井君も忙しかったから、本当は役員で一度合宿前に集まりたかったんだと思うの。だけど集まれない分、プリントには上井君の言いたいことが全部書かれてるから、アタシはまあ、不満はないよ」


「そっか〜。神戸さんが了承してるってことは、大村君も?一緒だよね」


 アタシは2人一纏めみたいな感じで言われたことに、ちょっと反発心が湧いたけど、実際に付き合って1年、お互いに副部長となると、周りはそう見ても仕方ないんだな、と思った。


 廊下からマミの様子を見ようとしたけど、よく考えたらA班として昼食の準備に行ってるんだった。


(え?A班は上井君がリーダーだよね…。本当は上井君が部長として率先してリーダーをやるのと、上井君が話しやすい部員を選んでるはずなのに、どうなってるんだろう。上手く準備出来てるのかな…)


 急にアタシは心配になってきた。上井君もだし、マミのことも。


 何だかんだ言っても、マミは高校で出会った上井君の、一番の理解者だったと思うし、アタシが上井君にやってしまったことについても、アタシにはちょっとやり過ぎだって指摘してくれたり、反面上井君に対しては慰め役をしてくれたり。

 女子を警戒するようになってしまった上井君の心を開いてくれたのは、マミのお陰で間違いないもん。


 それはサオちゃんが上井君をフッた時も同じ…。


 だからマミと上井君の関係がおかしくなるのは、アタシには耐えられない。


 そう思ったら、すぐにでも食堂教室に行きたくなっちゃった。


「ね、ちょっと早いけど、お昼ごはんの教室に行かない?」


 アタシはパートリーダーの立場を使って、ちょっと早く午前中の練習を打ち切って、食堂教室の3年1組へ行こうと提案した。

 幸いなことに反対するメンバーはいなかったので、クラリネットパートは、みんなで早目に食堂教室3年1組へ移動したの。


 そしたら上井君と、クラの瀬戸君は力仕事で、スロープの踊り場と教室の間を、カレーやご飯の鍋を台車に積んで何往復かしていた。


 マミは女子5人で、教室を食堂に模様替えしつつ、カレー皿を配膳していた。


 神田さんは初めての食事に興味津々なのか、上井君と瀬戸君を出迎えるような感じで声を掛けに行ってたわ。


 と思ったら一度教室に戻ってきて、教室の様子を確認したら、再度飛び出していった。


(何してるの?)


 上井君は汗だくになって、ご飯の入った寸胴鍋を、瀬戸君と一緒に運んできた。これが最後なのかな?

 その後に神田さんもニコニコしながら戻ってきたけど。


 …上井君、昔から汗かきなの、変わらないね。中3の夏、バリトンサックスを凄い汗をかきながら練習していたのを見て、付き合って初めてのプレゼントにタオルハンカチを上げたなぁ…。懐かしいな。


「女子の皆さん、ありがとう」


 って上井君が自分の事を棚に上げて、A班女子のみんなに感謝の言葉を掛けていた。それに対して1年生の赤城さんが、だって先輩、汗だくで死にそうな顔しとるけぇ、って言って場を和ませていた。


 その後も1年生の女子と会話しながら、部員が揃うのを待ってたけど、一度だけマミが上井君に話し掛けていた。

 デザートがないという話の時、去年はあったよね、って。

 上井君もぎこちなく、そうだったよね、って答えてたけど。


 そのうち上井君が挨拶して、みんなでカレーライスをセルフサービスで食べ始めたけど、上井君が行方を確認するためなのか、なかなか席に座らずに様子を見ていたら、マミが上井君を気にして何か話しかけていた。


 一応大丈夫そうだけど…。


 食事後に、勇気を出して話し掛けてみようかな。


(でも、どう言って話し掛けるの?A班は片付けだから、片付け終わりを待たなきゃいけなくなるし…。アタシが1人で待つのも、変かな…)


<次回へ続く>


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


更新が滞りがちで申し訳ございません。家庭の諸事情でなかなかカクヨムにしっかり取り組める時間が無くて(泣)


この小説も早く高校3年生編に進めたいんですよね(^_^;)


どうぞ懲りずに、またアップしたら読みに来て下さいm(_ _)m

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