いざ、クラスマッチ

第25話 -クラスマッチ1-

 吹奏楽部もコンクールに向けて体勢が整ったところで、1学期を締め括る行事、クラスマッチが開催された。


 3年生が不参加の、前回の2学期末と違い、1年生から3年生まで全学年が参加し、しかも1年生は3クラス増えたことから、生徒会の事前準備が大変だったにも関わらず、吹奏楽部が退部者が出てピンチということで事前準備の参加を免除されていた俺は、流石に本番では役に立たねば、と思っていた。


 期間も年末の2日間から、今回は3日間に増え、7月16日〜18日となっていた。


「お疲れ様です!準備に殆ど出れなくてすいませんでした」


 初日の朝一に生徒会室に顔を出したら、既に来ていた同期や先輩役員に相変わらず「吹奏楽部は大丈夫か?」と聞かれる。


「はい、やっと方向性が作れましたよ」


「良かったな、じゃあクラスマッチ中は生徒会に比重を置ける?」


 と、岩瀬会長から声を掛けてもらえた。


「はい、大丈夫です。でも去年の暮れと同じと思ってたら大間違いですよね?」


「まあ全学年対象ってのはいつものことなんじゃけど、1年生が3クラス増えたってのは、トーナメントとか順位決定戦を組むのに大変だったかな。どうせ増やすんなら、奇数じゃなくて偶数にしてくれよって思ったよ」


「ははっ、確かに…」


 そこへ静間先輩が体操服に着替えてやって来た。


「わぁ、上井君、おはよう〜。吹奏楽部、大丈夫?」


 静間先輩にも気を使われてしまった。


「はい、何とか体勢を組み直すことは出来ました!事前準備を休ませて頂いたお陰です」


「だって上井君、吹奏楽部の部長なんでしょ?なのに退部者続出で吹奏楽部が危ないってなったら、そりゃあ生徒会はいいから、吹奏楽部の方を何とかしておいで…ってなるよ」


「ありがとうございます。…もしかしたら、とっとと体操服に着替えて来なきゃいけない雰囲気ですか?」


 生徒会室にいる役員の方を見たら、男女とも既に体操服に着替えていた。


「そうそう。なんなら生徒会室で着替えてもいいよ?女子は流石に生徒会室では着替えられないけど、男子ならアタシ達女子が目を逸らして上げるから」


 そこへ、生徒会ではペアを組むパートナー、近藤妙子が体操服姿でやって来た。


「うん。上井君も着替えなよ」


「お、近藤さん!おはよう」


「おはよ、上井君。3日間、よろしくね」


「こちらこそ。近藤さんはバレーのユニフォームの印象が強いから、夏の体操服って、なんか新鮮だな~」


「とかなんとか言って、ブルマ姿見てるんでしょー?まあ女子バレー部はブルマなんて今更何とも思ってないから大丈夫じゃけどね」


「いや、バレたぁ?去年の合宿の時とか、バレー部のオリジナルっていうの?あのスカイブルーのブルマ。あれをずっと見てるから、エンジの方が逆に新鮮なんよね」


 こんな際どい話もスムーズに出来るほど、近藤とはいい関係を築けていた。


「そっか、合宿ではバレー部のコスチュームで過ごしてたからね。冬のクラスマッチはジャージ姿だったし」


「えー、女子バレー部の子って、ブルマが恥ずかしくないの?アタシは何年経ってもちょっと恥ずかしいよ〜」


 静間先輩がそう言った。静間先輩は帰宅部だそうだから、確かにブルマになることも少ないだろうな。


「はい。ブルマになるのを嫌がってたら、女子バレーなんて出来ないですよ。水着になりたくないから水泳しないってのと一緒みたいなものかもしれませんね。あ、上井君、着替えちゃえば?」


「じゃあ俺、隅っこで着替えよっかな…」


「うん、見てないから気にしないでね」


 その後も次々と役員が、おはようございます〜と言って生徒会室に入ってくる。勿論皆さん、体操服に着替え済みだ。生徒会室の隅っこでコソコソと着替えているのが恥ずかしい…。


 そんなクラスマッチだが、冬に続いて体育館内でのバレーボール担当ということもあって、勝手は分かりやすかった。ただクラスが増えた分、試合ごとのサポートメンバーの調整が大変だった。バレーボールだけは全学年男女対象なので、予定試合時間もギュッと詰め込んであったし、普通なら3セット取ったら勝ちの所を、準決勝までは1セット取っただけで勝ちにするなど、工夫をしていた。


「そうそう、上井君は何の競技に出るの?」


 静間先輩が聞いてきた。


「冬にアクシデントがあったにも関わらず、サッカーです」


「えっ、そうなの?怖くない?」


「大丈夫ですよ!むしろ、バレーの方がやっぱり苦手です」


 2年男子はバレーかサッカーを選べた。


「バレーボールにしておけば、すぐ本部席から移動出来るし、楽だし、バレーにしとけば良かったのに」


 と角田先輩が言った。


「いや、バレーなんかにしたら、俺の運動神経の無さによる珍プレーが、静間先輩や角田先輩、近藤さんにバレますからね、ハハハッ」


「上井君の珍プレーなら、生徒総会で見せてもらってるじゃん。何を今更~」


「近藤さん、早く忘れてよ…ソレ」


 バレーボール担当チームは笑いが起きた。よし、なんとか3日間頑張るぞ…。


 と思ってバレーボール本部席用の荷物を籠に入れて体育館に運んでいたら、肩を叩かれた。


「おはよっ、上井君」


「おぉ、笹木さん!おはよう~。あっ、女子バレー部の主将キャプテンになったんだって?おめでとう!」


「あ、ありがとう~。上井君も吹奏楽部の部長じゃもんね。お互い出世したね」


「でも大変じゃない?」


「まあそうね。なってみて初めて分かることって沢山あるよね…。タエちゃんから聞いたけど、吹奏楽部が崩壊のピンチなんだって?」


「いや、噂って怖いね…」


 やはり笹木まで届く頃には、噂は吹奏楽部「崩壊」のピンチにグレードアップしていた。


「そこまででもないんだけどね。今はもう大丈夫じゃけぇ。夏の合宿も無事開催決定したよ」


「あっ、合宿決まったん?いつからいつまで?」


「近藤さんにも聞かれとったんじゃけど、今年の夏も女子バレー部と一緒だよ」


「ホンマに?それはありがたいわ~。去年さ、お互いに事前に調整したいよねって言ってたことがあったよね。女子のシャワーの時間とか」


「そうそう。ウチも女子が多いけぇ、是非調整しようよ。練習日程とか食事時間の関係もあるけどさ」


「そうね。一度話し合おうよ」


「ところで笹木さんは、バレーの審判?」


「そうそう。結局アタシも生徒会役員みたいなもんよ~。自分の試合以外は、ずーっと審判だから」


「そうだよね…。男子と女子で交互に試合するけど、男子がいつ終わるか分かんないから、結局ずっと待ってなきゃいけないしね」


「でも生徒会発案って聞いたけど、1回戦は1ポイントで決着っていうのは、いいね!早く進むと思うよ」


「そ、そうみたいやね。俺、部活が大変じゃったけぇ、実は細かい所は知らないこともあってさ…」


「あっそうか。崩壊の危機だったんじゃもんね」


「その分、リーダーからは今日から3日間、働いてもらうよ~って言われとるけど」


「そうかそうか。じゃお互いに頑張ろうね。合宿の打ち合わせはまたクラスマッチの後にでもしようね」


「うん、頑張ろう~」


 体育館のバレーボール本部席に着き、荷物をセットし、各学年、各クラスの対戦トーナメント表を6枚一気に貼り出した。

 やはり1年生男女の試合数が多く、混乱しそうだった。

 まず今日は1回戦~2回戦を行う。

 最初は1年女子だった。


 俺が物品を確認していると、「上井先輩!」と声が掛かった。


「あ、宮田さんと神田さん。同じクラスなん?」


「そうなんです。同じ2組なんですよ。で、バレーボールになったんですけど、先輩はバレーボール担当なんですか?」


「そうだよ~」


「じゃあアタシ達が言いたいことは、言わないでも分かってますよね…?」


 宮田がちょっと下から見上げるようにして、ウインクしてきた。


「いっいや、生徒会は公平だよ?」


「そんなぁ…先輩、八百長して♪とは言いませんけど、際どい判定は2組に有利にして下さいよ~」


 次は神田が、愛くるしい顔でねだってくる。


「だ、ダメだって。判定はバレー部が厳正に行うから」


「んもう、先輩ったら…つれないのね!」


「いつから神田は俺の彼女になったんだよ」


「まあいいや。頑張りまーす」


 バレーは全学年全クラス対象だから、次々とこういうお願いが発生する可能性が高い。

 すると…


「だーれだ?」


「おわっ?」


 俺の背後から、突然目隠ししてくる人間がいた。だがその声はよく聞いたことがある声だった。


「若本?」


「あっ、バレました?おかしいな…」


 後ろを振り向いたら、同じクラスの女子の友達と話しながら、俺にチョッカイを出してきた若本がニコッとして立っていた。いや、ヘタしたら若本の胸が俺の背中に当たる寸前だったじゃないか、危ない、危ない…。


「2組の対戦相手は…6組か。若本って6組?」


「そうです。フルートの若菜さんも6組ですけど、彼女はソフトボールに行っちゃいました」


「ブラス同士の対戦もあるんだなぁ」


「え?2組は誰ですか?」


「宮田さんと神田さんだよ」


「わ、神田さんはともかく、宮田さんは、新旧の上井先輩のパートナー対決になりますね!よし、勝たなくっちゃ」


「いっいや、そんなにライバル心を燃やさなくても…」


「だって上井先輩と出会ってからの期間は、アタシの方が長いですからね。ここは譲れませんよ!」


「宮田さんは特にそんな意識はしてないと思うけど…」


「でもぉ。打楽器の練習してる時、先輩と喋ってる宮田さんって、凄い楽しそうだし嬉しそうだし。嫉妬しちゃいますよ」


「嫉妬って…」


「まあ先輩に良い所をお見せできるように頑張りますよ!それでは~」


 若本は女子の友達の輪に戻っていったが、宮田と話している俺を見て、宮田に嫉妬する…だなんて、俺はどう受け止めればいいんだ?

 この前から燻っている、若本がもしかしたら俺のことを好きなのかもという疑念が、再び顔を出してくる。


(いやいや、そんないい気になっちゃダメだって。また痛い目に遭うだけだ…)


 ちなみにバレーの試合は、宮田と神田がいる2組がセットカウント16−14で勝利した。


<次回へ続く>


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


えー、近況ノートでも書かせて頂いたのですが、今回の話でしばし更新をストップさせて頂きます。

作者の腰の手術及びリハビリのため、出来るだけストックを事前に…と思っていたのですが、今回が事前ストックのラストとなりました。

退院し、座っている時間が苦痛でなくなれば、早速続きをアップしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

なお手術自体は、3日前に終了し、今は術後の痛みと闘っております(;´∀`)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る