第5話 -総会準備-
昭和62年4月24日(金)の6時間目に、生徒総会はセッティングされていた。
そのため生徒会役員は、昼休みの内に体育館の舞台上のセッティングを行うことになり、昼食を食べたら即生徒会室へ集合となっていた。
1学期が始まって2週間、やっと孤独だった俺にも同じクラスで気の合う友人が出来てきたが、この日ばかりはやっくり友人と昼ご飯を食べている場合ではなかった。
「上井、慌てとるのぉ」
そう声を掛けたくれたのは、7組で一番最初に友達になった、出席番号が2番で俺の真後ろの席の、大下浩二だった。野球部だからかもしれないが、坊主頭で、しかもその坊主頭が似合っているのだ。
「生徒総会は6限目なんに、準備は昼休みにやるとか言うけぇ、少ししか食べれんのよ」
「弁当の残り、俺が食べとこうか?」
「助かる~って、そこまではええよ。とにかく行ってくるよ」
ちなみに1年の時に各クラスから出された生徒会役員も、クラス替えによりバラバラになり、俺のクラスにはもう1人生徒会役員の田川雅子さんという、元2組の女子がいたが、今に至るまで一言も話したことがなかったので、声を掛け合って体育館へ向かうということはなく、互いに自分のペースで体育館へと向かっていた。
その他の同期役員では、山中が3組、中下は俺と同じくそのまま8組、近藤さんは1組へと変わっていた。
体育館へ着くと、既に3年の先輩が大半の準備を終わらせていた。もしかしたら先輩方は、昼ご飯を食べずに集まっているのではないか?
「お疲れ様でーす」
「おぉ、上井君。どうや、フロアから見て、横断幕とかテーブルの配置」
岩瀬会長が反応してくれた。
「そうですね、横断幕はもうちょっと下げた方がいいかもしれません…でも、ほかの方の意見も聞いてみてください」
「いや、俺もちょっと高いかな?とは思っとったけぇ、少し下げるわ。森田、佐野、下げてくれるか?」
「おお、下げてみるよ」
森田、佐野というのは、岩瀬会長を除いた貴重な男子の先輩だ。それ以外の5人は女子の先輩だからだ。
「どうや?」
「うん、いいと思いまーす」
「OK、ありがとう」
そんなやり取りをしているところへ、次々と1年生の役員が入ってきた。
「上井くーん、久しぶりじゃね」
「近藤さん、はるか遠くのクラスへ行ってしもうたねぇ」
近藤妙子が、俺に声を掛けてくれた。
「なんやウワイモ、近藤さんが1組になって寂しいんか?」
そう言ってきたのは山中だ。
「じゃけ、イモは余計じゃっつーの」
「わー、変わってないね、2人のやり取り!」
近藤さんがキャッキャと手を叩いて喜んでいた。
「進歩がないじゃろ~」
「ううん、変わってないのが嬉しかったよ。最近は総会の準備って言っても、アタシは全然上井君とすれ違いだったし」
「でも覚えててくれてることって、こんなに嬉しいんだね。近藤さんは、生徒会役員の名前、全員覚えた?」
「えーっとね…。3年生はまだ…。でも2年生は覚えたよ!」
「凄い!俺はまだ覚えきってない…」
「上井君でしょ、山中君でしょ、あと中下君に橋本君」
「俺、橋本君を覚えてないなぁ…」
「女子はアタシ以外の3人が、桐原さん、田川さん、辰己さん」
「田川さんだけは、同じ7組になったけぇ、辛うじて分かる…。橋本、桐原、辰己、この3名を覚えたら一歩前進やね!」
「そうかもねっ」
岩瀬会長がステージから、1年生集団を呼んだ。
「はい!」
「座り方と進行は、昨日確認した通りね。あとは5時間目が終わったら、すぐに体育館へ集まること…OKかな?」
「はい!」
「じゃあ、本番よろしくね。一旦解散しよう。俺、何にも食べとらんのじゃ…」
岩瀬会長はそう言うと、クラスへ戻って行った。
「結局3年生が全部準備しちゃったね」
そう呟いたのは、女子の桐原さんだった。1年生だが副会長という要職に就いている。
「まあこの配置を、目に焼き付けとこうや。来年は俺達がやらんにゃあいけんけぇさ」
山中がそう言った。
「だな。後は、今日自分が喋る出番で間違えないように、だな」
唯一男子で顔と名前が一致しなかった橋本がそう言った。
「じゃあ俺らも戻ろうか」
中下の一言で、1年生もクラスに戻ることになった。
「上井君、同じクラスになったんじゃけぇ、一緒に戻ろうや」
と、田川さんが声を掛けてくれた。
「あ、田川さん。俺の名前、覚えてくれてた?ゴメンね、なかなか話とか出来なくて」
「クラスじゃなかなか話せんよね。上井君は元々何組?」
「去年も7組で、末永先生だったんよ。で10月頃に捕まって、生徒会役員に…って流れ」
「やっぱりそうだよね~、捕まるよね、ちょっと目立ってたら。ハハッ」
「田川さんは何組だったん?」
「去年は3組だよ」
「じゃ、1年3組代表だったんだね」
「そうなるね。でも最初は嫌だったよ〜。なんでアタシ?って思ったもん」
「でしょ?俺も、何かあれば末永先生に、体育関係以外は頼まれてたから。俺は吹奏楽部だからさ、掛け持ちになるのを説得するのが大変で…部活の方をね」
「そっかー。アタシは放送部だから、そんなに揉めることもなかったけど、ブラスは人が多いもんね」
「…まだ今の3年生で、俺が吹奏楽部の部長と生徒会役員を兼務しているのが気に食わない先輩がいるんだ…」
「ちょっと待って?上井君、ブラスの部長になったん?」
「あっ、言わなきゃわかんないもんね、こんなこと。4月の頭に役員改選があってさ、本当はやりたくなかったんじゃけど、他に人がいなくて…」
俺はちょっとだけ嘘を吐いてしまった。選挙戦に立候補させられたなんて、恥ずかしくてまだそんなに親密じゃない田川さんには言えないし…。
「スッゴイじゃん!おめでとう!アタシみたいな放送部の部長より、吹奏楽部の部長って方が、遥か格上な感じがするわ~」
「いや、部長になって1ヶ月も経ってないけど、なるもんじゃないよ。風当たりがすごいけぇ…」
「風当たりって、3年生からの?」
「そう。吹奏楽部のシステムって独特で、3年になったら引退か継続か選べるんよ。早々に受験勉強対策したいって人は、4月頭で引退してもいいし、途中の文化祭とか夏のコンクールとか、どっか区切りを付けてそこまでやりたいっていうのもOKなんよね」
「そうなんじゃ。一斉引退じゃないんじゃね」
「そうなんよ。それで春先に役員改選するんじゃけど…。今年の3年生って、正直に言うと、残ってほしかった先輩が引退しちゃって、引退すればいいのにな…って先輩が残ってるんよね」
「じゃ、上井君としては…」
「ヒッジョーにやりにくいんだ。ハハッ」
「大変だね…。そのコンクール?夏にあるやつ。そこまで強制参加にして、コンクール後に3年生が一斉引退してから、役員改選にすればええのにね」
「うーん、まだ部活自体も5年目で新しいけぇ、規則とか決まりとか見直すチャンスはあると思うんじゃけどね…」
「アタシらの放送部は、基本は夏までだよ」
「そうなんじゃ?」
「夏までというか、NHKの放送コンテストが8月にあるんよ。全国大会がね。その地区予選が来月からスタートなんじゃけど、地区大会を上がって県大会も突破したら、全国大会。なんかね、ウチの高校は全国大会にあと一歩らしいんよ。逆に、その途中の段階で次の大会へ進めなくなったら、その時点で3年生は引退って決まっとるけぇ、いつ引退になるんかよう分らんのよね」
「へぇ…。じゃあ部長とかの役員は、まだ3年生なんじゃね?」
「そう。じゃけぇ、ブラスがそんなに早く役員改選するって聞いて、ビックリしたんよ。しかも上井君が部長だなんてさ。同じクラス、同じ生徒会役員として、誇り高いよ」
「いや…。誇り高いって言うよりも、埃まみれかもしれん…」
「何上手いこと言ってんのよ。クラスに着いたし、本番は頑張ろうね!」
「うん、頑張ろうね」
そうだ、この本番さえ乗り切れば、上からの陰口も無くなるだろうし、部活ももっと出れるようになる、そうなれば安定するだろう…。
と思っていたのだが…
<次回へ続く>
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