生徒会役員?

第11話 -生徒会に入らない?-

 2学期も体育祭が終わり、中間テストも終わり、いよいよ陽の短さを実感するようになってきた。


 部活も9月末までは6時半までだったのが10月から6時までとなり、来月11月からは5時半までとなる。

 高校の近くの公園の樹木から舞い落ちる枯れ葉が、季節の移ろいを現している。


 何より衣替えが行われ、女子のセーラー服が冬バージョンに、体操服はジャージになってしまったのが残念だ。


 彼女もいないくせに勝手にそんなセンチメンタルな感傷に浸っていた俺を、担任の末永先生が呼び出した。


 朝の会の後に、この前のように廊下でわざわざ呼び出すといった形ではなく、あっ、上井君、昼休みに美術準備室に来て、と軽いノリで言われたのも、不思議だった。


「上井、今度は何をやらかしたんよ」


 とサッカー部の長尾が弄ってきたが、全く思い当たる節はない。


 よく呼び出される原因となっていた、大村と神戸については、大村とは話すようになったし、体育祭の後に野口さんがそろそろいいじゃない?と伝えてくれたこと等から、今のところは俺の心をかき乱すような存在にはなっていないし。


「さあ…?全く思い当たる節がないんじゃけど」


「そんなこと言うてから、お前、体育祭で3年の女の人と仲良うなっとったけぇ、不順異性交遊でも見つかったんじゃろ?」


「イテテ、ナガさん、ギブギブ!」


 確かにフォークダンスで俺の悩みにサラッとアドバイスしてくれた石橋さんは、その後何度か列車で顔を合わせることがあり、その都度手を振ったりしてくれているが。

 だからって今のヘッドロックは、頬骨を狙ってたぞ?人間の急所やんか!


 …まだ頬骨に痛みが残る中、昼の弁当を食べた後、俺は美術準備室を尋ねた。


「失礼しまーす、上井です」


「あっ、上井君、待ってたよ!」


「先生、今日は何ですか?また俺、変な顔付きしてました?」


「ううん、今朝はとても落ち着いてたよ、上井君は。まあ中に入って、座りんさい」


「はい、失礼します…」


 美術準備室に入り、空いている椅子に座った。先生はまだ昼ご飯が終わってなかった。


「先生、まだ昼飯の途中だったんですね、出直しましょうか?」


「いやいや、いいの。アタシが食べるの遅いだけだから。あと、『笑っていいとも』を見てたのは、秘密ね」


「あっ、はい…」


 先生もそんな番組を見るんだな〜。その方が逆に人間味があるけどな。


「ところでね、10月ももうすぐ終わりでしょ?」


「そ、そうですね」


「ウチの高校にも生徒会があるの、知ってる?」


「はぁ、一応…」


「その任期が、11月1日から、10月31日までなのね」


「そうなんですね」


 ん?俺は何か嫌な予感がしてきたが、気のせいか?


「会長と副会長は、選挙で決めるんだけど、まあ立候補する生徒はいないから、強引に頼んで、信任投票するのよ」


「はぁ…」


「同時にそれ以外の役員も改選になるんだけど、3年生の役員は辞めざるを得ないから、3年生が抜ける分を、1年生と2年生から補充するの」


「なるほど…」


 どんどんと外堀が埋められていくこの感じ、なんなんだ?

 もう、いっそのこと早く先生の言いたいことを言ってくれ!


「それで、1年生の各クラスから1人以上、生徒会執行部に推薦するよう、各担任に依頼があったのよ」


「もう先生の仰りたいことは想定出来ているんで、どうせなら先生、とどめを刺してください…」


「上井君!7組の代表として、生徒会に入ってくれない?」


「ですよね!そういう話になりますよね?」


「そう!どうかな?」


「嫌です!」


 俺の即答に、本当に末永先生は椅子から滑り落ちそうになった。


「先生、大丈夫ですか?」


「いや、まあね、すぐにOKなんて返事はないとは思ってたけど、速攻で嫌と言われるとは思わなかったからさ…」


「すいません、先生。でも吹奏楽部の先輩で、生徒会の役員もやってる方なんていないので、多分部活との兼ね合いで受けたくても受けられないと思うんです」


「うーん、そうかぁ…。吹奏楽部との両立は難しいかぁ」


「他に先生の考えてたアテの生徒はいませんか?」


「うーん…。悩みながらも上井君が受けてくれるんじゃないかなと思ってたから、考えてないのよ」


「生徒会向きなら、男子の俺と同じ中学の本橋君とか、どうですか?彼は帰宅部ですし」


「本橋君ね…。アタシの中では、ちょっと消極的なイメージがあるけど、一応聞いてみようかしら」


「あと女子で、石本さんとかしっかりしてるイメージですけど」


「石本さんね…。うん、一応聞いてみようかしら」


 あまりにも先生の落ち込みが激しかったので、俺も申し訳なくなり、先生に申し出た。


「先生、一応吹奏楽部の部長と、福崎先生に聞いてみましょうか?」


「本当?」


「はい。先生がそんなに落ち込まれると、申し訳ないので…」


「お願い、上井君!こんなことを頼めるのはやっぱり上井君しかいないんだよ」


「先生、それって、俺が何か頼まれたら嫌とは言えない性格なのをご存知で、俺に声掛けてるってことです?」


「…アハハッ、ま、まぁ、ね…」


「やっぱりかぁ。でも部長や福崎先生に今日の放課後聞いてみますけど、あんまり期待はしないでくださいね」


「分かったよ。万一上井君がダメだったら、さっき上井君が挙げてくれた子達に聞いてみるから」


「了解です。では、失礼します…」


 俺は美術準備室を辞した。


 実は俺の内心では、やってもいいな、という気持ちが渦巻いていた。

 今年入学してからの文化祭やクラスマッチを見ていると、生徒会の方が本当に忙しそうに走り回っているのを見て、大変だなぁ…と思う反面、多忙な中に身を置いて高校に貢献してみたいという純粋な気持ち、生徒会役員を引き受けて少しは女子にモテたいという不純な気持ちもあったのだ。


 だがさっき末永先生にも言った通りで、吹奏楽部の先輩で生徒会役員を兼務している方はいないし、これまでの1期生、2期生でそんな先輩がいらっしゃったのかも分からない。

 福崎先生が、どうしても部活に多少穴を開けることになってしまうのを、許してくださるとも考えにくい。

 あと須藤部長も、いいよいいよ!と言ってくれるとは思えないし、サックスパートの先輩、同期にもダメだし喰らいそうだ


(7:3でダメだろうな…)


 でもまあ、プライベートなことまで相談に乗ってくれ、励ましてくれた我が担任の先生の渾身のお願いだ。

 吹奏楽部各方面へ、可か不可か聞いてみよう。


 かくして放課後、なぜ自分が申し訳ありませんと言いながら、先生や先輩方に生徒会役員兼務についての相談をする行脚が始まった。


(やっぱり最初は福崎先生だよな…)


 音楽準備室に電気が点いていることを確認し、ノックしてから中へ入る。


「失礼します、上井です」


「お、上井か。どうした?」


「実は先生、相談がありまして…」


「相談…?まっ、まあ、ドアを閉めて中へ入れよ」


「はい、すいません」


 ドアを閉めると、先生の机の横へと進んだ。


「相談って、なんだ?まさか…」


「はい、まさか、なんですが…」


「お前、それは勘弁してくれ!確かに今の部活にお前が不満を持ってるのは分かる。だけど、その不満を来年度、お前達の代で改革してくれればと、俺は思っとるんじゃ。だから、辞めるのだけは考え直してくれんか?」


「へ?先生、俺、退部するなんて一言も言ってないですよ?」


「え?だってお前、まさかのことなんです、って言わなかったか?」


「はい、それは言いましたが、まさかの事態で、私が生徒会役員になれと担任の末永先生直々に頼まれてしまったんです。そのことのご相談で参りました」


「お前、ビックリさせないでくれよ…。お前が吹奏楽部を辞めたいって相談かと思ったよ」


「なんだかすいません、先生」


「いやいや、早とちりした俺も悪かった。しかし生徒会か…。うーん、前例がないけぇなぁ…」


「やっぱりこれまでの先輩で、吹奏楽部を続けながら生徒会役員を兼務した方っておられないんですね」


「そうなんよ。というか、先生方の間には、この時期に生徒会役員候補に目をつける生徒は、なるべく優秀で、帰宅部か、そんなに忙しくない部活の生徒を選ぶ、そんな暗黙の了解みたいなのがあるんじゃ」


「なるほど。すると3期までの先輩方は…」


「担任の先生が、候補に推薦せんかったってことになる」


「はぁ、そうなんですね…」


「でも顧問としては、お前がどうしても部活を抜ける日が増えるのは残念だが、ちょっと喜ばしい気もあるんじゃ」


「えっ、それはどうしてですか?」


「やっとウチの部員の素晴らしさが分かったか、ってな」


「先生…」


「生徒会が忙しいのは、春先の生徒総会と文化祭、クラスマッチってところじゃろうな。その中で一番痛いのは文化祭じゃが…。まあ、なんとかなるんじゃないか?2年生、3年生になるとクラスでの出し物も出てくるけぇ、どっちにしてもなかなか文化祭前って全員は揃わん。全員揃ったら奇跡みたいなもんじゃ。お前もそこをチョイチョイと合奏に顔を出してくれればええから。末永先生の頼みじゃろ?」


「あっ、はい…」


「同じ『芸術科』でもあるからな、俺とは。じゃけぇ俺は、仕方ないと思っとる」


「せっ、先生…。ありがとうございます!」


「その代わりに!」


「はっ、はい?」


「来年度、ウチの部活の予算、増やしてくれよ」


「わっ、分かりました!」


「兼務は大変じゃと思うが、お前ならと思って、末永先生が声を掛けてくれたんじゃろうから、期待に応えるように。顧問からの命令だ」


「ありがとうございます!」


「あと、部長や副部長、沖村にも説明して回るつもりか?」


「はい、そのつもりです」


「面倒じゃろ。今日のミーティングの時に、俺が喋ってやるよ。そしたら上の者も誰も文句は言えんじゃろうしな」


「先生、そこまで…すいません」


「但し、部活の予算を増やすように、これだけは忘れんとってくれや」


「もちろんです。頑張ります!」


「じゃ、これでいいか?お前、末永先生に報告してこいよ。早いほうがええじゃろ」


「はい。じゃ、ちょっと美術準備室に行ってきます」


「おう。その後に部活にちゃんと出て来いよ」


「分かりました!ありがとうございます!」


 俺は急いで美術準備室に向かった。

 その時、音楽室に向かう部員とすれ違ったが、同期の山中がメッチャ暗い顔をしていた。


(山中…?どうしたんだ、アイツ…。まさか辞めたいとか言わないよな?)


<次回へ続く>

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