第11話 -合宿6・密談-
「アイツら、夜7時半からの合奏に遅刻したんよ」
「合奏?みんなで合わせての練習のこと?」
「そうそう。それに遅刻しちゃヤバいんじゃけど…」
「あの2人はヤッちゃったんだ?」
「そう。しかもタイミングが最悪で、先生が2人おらんけど始めるぞって言って、指揮棒を上げた瞬間に、スイマセーンって言いながら入ってきたから、緊張感はガタ崩れで、普段怒らん部長が怒鳴りつけるし、先生も不機嫌になるしで、最悪だったんよ」
女子バレー部の1年4人と、俺ら吹奏楽部の1年男子4人の深夜のトークバトルは盛り上がり、いつ果てるともなく続いていた。
俺も少し感じていた眠気は吹っ飛んだが、教室の時計を見たらもうすぐ日付がかわりそうな時間になっていた。
また、あの2人の話をしだすと雰囲気も暗くなるし、俺自身の過去も晒す羽目になりかねない。
なので一応…
「ごめーん、話の腰を折っちゃうけど、女子バレー部の皆さんは、時間的には大丈夫?」
と尋ねた。
「え?ああ、まだ日付変わってないじゃん。大丈夫だよ。明日の朝6時半に体育館に行けばいいだけだから。せっかく盛り上がってきたんだもん、もうちょっと話さん?」
と、6組のバレー部の近藤さんが言った。
「俺らもまあ、大丈夫じゃろ。というか、他の3人がダメになっても、俺は1人で闘い続けるぜっ」
案の定、伊東が目をランランとさせている。
他の男子や女子バレー部員を見回しても、せっかく仲良く喋れるようになったのに、ここでオシマイは勿体ない…という雰囲気に満ち溢れていた。
「笹木さん、まだ大丈夫かな?近藤さんは大丈夫って言ってるけど」
「近藤ちゃんはパワフルじゃけぇね」
と苦笑いしながら、もう少し話そうか…ということになった(以下、会話ラリーは、誰が発言しているか推察しながらお読み下さい)。
※ 参考
【吹奏楽部1年男子:上井、伊東、大上、山中】
【女子バレー部1年:笹木(7組・上井と同じ中学&上井、伊東と同じクラス)、田中(山中と同じ中学)、佐伯(大上と同じ中学)、近藤(村山と同じクラス)】
「でも7組にそんな名物カップルがおるなんて、初めて知ったわ」
「多分、これから拡散されていくと思う…」
「ほうじゃね。しょっちゅう休み時間とかクラスから抜け出して2人でどっかに行っとるし」
「えーっ、そんな情熱的な男の子なの?大村君って。いいなぁ、アタシもそれぐらい熱心に男の子からアプローチされてみたいなぁ…」
「いや、田中はその前にやることがあるじゃろ」
「山中君、何よそれ」
「持って生まれた芸人体質を…」
「だ・か・ら!漫才したのは仕方なく、なの!」
「でも俺、明るくて楽しい女の子、好きだよ」
「ほら!上井君が褒めてくれたじゃない。ねー上井君、漫才できる女でもいい?」
「ウワイモ、田中は考えた方がええぞ」
「イモは余計じゃっつーの」
「山中君と上井君だって漫才してるじゃない。じゃ、アタシだって資格ありよね?」
「上井君はね、問題の2人に痛い目に遭わされとるけぇね…。じゃけぇ、明るい女の子募集中なんよね?」
「さっ、笹木さんってば!」
「上井君、顔が真っ赤になってる~。これは突っ込みがいがあるのかな?」
「あ、あのですね…」
「あれ?でも上井、気になる女子がおるんじゃなかったか?」
「あっ、それをこの場で言うか、山中は〜」
「なんだー、上井君は相手がいるんだね、田中撃沈〜」
「いや、まだ、その、あの、うーん」
「片思い中だって言え、素直に」
「片思い中です」
「田中、復活〜!よし、やる気が出てきたよ、この合宿も。確かブラスとはずっと一緒だよね?」
「そうだね。今日初日の3泊4日じゃけぇ…」
「田中、合宿頑張って、ダイエットして、最終日には別人になって上井君の前に現れるわ♪」
「あのさ田中、別人になったら上井はちょっと抜けとるけぇ、気付かない恐れがあるぜ」
「いやん、そんなのせっかくいい獲物が網に掛かったのに」
「え、獲物か、俺は…」
「でも上井君、こんだけ明るい女子って、今まで見たことないでしょ?」
「確かに。中学時代に遡っても、おらんよね。元気で明るい女の子って」
「これで上井君の脳裏には、田中の名前が焼き付いたよね。よし、嬉しいから今からシャワー浴びてこようかな」
「やめときんさい、死にに行くようなもんだよ!」
「上井もビックリじゃないん?俺の同級生にこんなお笑い女がおったなんて」
「まあね、なかなか女子でユーモアセンスがある子って、おらんからね」
「なんかさ、田中ばっかりいい思いしとらん?アタシもブラスの男子と仲良くなりたい〜」
「生憎、村山が寝てしもうたからね、近藤さんの場合」
「あっ、上井君、アタシの名前覚えてる!嬉しいな」
「そりゃ、覚えるよ。俺、人の名前を覚えるのだけは早いけぇ」
「上井は同期の中でも、名前を覚えるのは早かったよな」
「中学の吹奏楽部で部長したせいかも。とにかく沢山人がおるから、名前はしっかり早く覚えなくちゃいけんかったけぇね。大上もじゃない?」
「上井君、中学で吹奏楽部の部長してたの?カッコいい〜!大上君もなんだ?凄いね、ブラスには大物がおるね」
「いやいや、俺の中学の場合、人が少なかったけぇ、嫌でも部員の名前は覚えるよ」
「大上君の中学の吹奏楽部って、何人くらいいたの?」
「25人」
「へぇ、3学年合わせてだよね?」
「そう。少なかろう?上井の中学は何人?」
「俺の中学は58人おったよ」
「58人!?」
「えっ?上井君、そんなに大人数だったっけ?」
「うん、一応ね。2年生と3年生で45人くらいじゃったよ。1年生が少ないから、俺らがいなくなった後、ガクンと減ったけぇ、今年どれだけ新1年生が入ってくれたか気になるんよね」
「確かに…。アタシと上井君のクラスだけで、吹奏楽部員が10人いたもんね」
「そうそう。じゃけぇ、俺と同じクラスだった他の部員は、嫌だったと思うよ〜。サボるとすぐ分かるけぇね」
「ふふっ、そうよね」
「笹木と上井君って、中学でも同じクラスじゃったの?」
「うん。アタシが中3に上がるタイミングで、お父さんが転勤になってね、上井君、あと村山君か、がいた中学校へ転校したのよ」
「えっ?笹木って去年広島に引っ越して来たん?」
「そうなんよ。その前…中2までは千葉におったんよ」
「へーっ?全然知らんかった!だって広島弁バリバリじゃん」
「それを言ったら、上井君も横浜からの転校生だよね」
「ホンマに?」
「マジか?俺らも知らんかった」
「小学校卒業まで横浜におったよ。でも広島にすっかり染まったけぇね」
「2人とも凄ーい!都会に住んどったんじゃ!」
「だから、アタシが転校してきて、誰も知らなくてポツンとしてた時に、一番最初に声を掛けてくれたのが上井君だったの。俺も転校生なんよ、って。ね」
「そうなの?優しいんじゃね〜」
「いや、上井の場合は優しいよりヤラシイけぇ、気ぃ付けんさいや」
「伊東君、ちょっとタイミングが外れたかも…」
「なんか悔しいのぉ。上井がええ人になっとる」
「だって、実際にええ人じゃもん。仕方ないよ〜」
「いや、俺自身は敢えて言うなら、ええ人の前に、❝どうでも❞って付くんじゃないかと思っとるよ」
「プッ、ウワイモ、眠くなって来たか?変なこと言い出すなや」
「イモは余計じゃっつーの」
「山中君と上井君のこのやり取り、定番じゃね!」
「ハハッ、そうじゃね〜。でも笹木と上井君、そんな感じで出会って、今も同じ高校に来て、付き合ったりはせんかったん?」
「そうじゃねぇ。アタシと上井君って、恋愛感情よりも、友人感覚でいつも話してたかなぁ。上井君はどうだった?」
「確かに。女の子なんじゃけど、ご覧の通りボーイッシュじゃん?それでバレー部で背が高いけぇ、話とかする時は友達感覚だったよ、俺も」
「上井君は、アタシが転校してきた時は、例の子のことが好きだったもんね…」
「…そ、それは…」
「上井君、動揺しとる〜。笹木じゃなくて、他の女の子が好きだったのね」
「そうなんじゃけど…」
「ちょっと内容が深くなるよな、上井」
「え?俺はまだ知らんことかな?」
「伊東にはまだ話してないかな。もうここまで来たら、解禁しちゃうけど、その時俺が好きだったのは、今夜トラブルを起こした女子なんよ」
「トラブル?あ、さっき言ってた練習に遅刻したカップル…って、えーっ?」
「えっ、マジか、上井!」
「伊東でもビックリする?」
「当たり前じゃん!お前、よくこの環境に耐えとるなぁ…」
「じゃけぇアタシ、たまに上井君を慰めよるんよ」
「でも、どんな流れがあったの?」
「去年、2人が付き合い始めた時に、アタシ2人と同じ班だったんよね。だから、結構応援しとったんじゃけど、多分1月終わり位かな、突然上井君が死んでしもうてさ。その反面、Kさんはイキイキしとるんよ。ああ、2人は終わったんじゃね…って気付いてね」
「笹木さん、分かっとったんじゃ?」
「あんな分かりやすい死に方されちゃ、誰だって気付くよ。一応確認じゃけど、上井君がフラれちゃった側よね?」
「まあ、ね」
「その後、同じ高校の同じ吹奏楽部、更に同じクラスでしょ。どう考えても上井君を応援しないと、って思ったよ、アタシは」
「ありがとね」
「わ~ん、そんな辛い目に遭ったの?なんか上井君をヨシヨシってしてあげたいわ。女なんて他に一杯いるんだから。見返してやりんさい。例えばアタシでもどう?」
「じゃけぇ、田中はいつの間にか話をすり替えるなって」
「でもさ、なかなか高1でこんな目に合う事もないと思うんだ。フラれた相手と何から何まで一緒で、フッた相手は次の男に乗り換えてるんでしょ?」
「上井の場合、もっと深刻なネタが隠れとるんよ、な」
「いや、もうこれ以上はええよ。ミジメになるけぇね。場が暗くなるし。ハハッ」
「でも笹木って、上井君にとって大切な存在になるよね」
「うん。なんだろ、男女の間に友情はあるって思わせてくれる存在かな?」
「なんかアタシ、男子みたい?」
「いやいや、去年、笹木さんって足長いね!って言ったら、ブルマ姿見てたんでしょ!って怒られたじゃん。褒めたのに」
「だってスカートの時だと、足の長さなんて分からんじゃん。だからブルマの時に足をガン見されたんだって思ってさ」
「アハハッ、アタシ達が今更ブルマ姿見られたからってなんとも思わんけど、去年の笹木はまだ女の子してたんじゃね」
「でも、この高校のブルマの色は驚いたんじゃないん?」
「確かにね〜。でもバレーしとると、色んな学校と試合するじゃない?その時、他の学校のブルマも見ることがあるんよ。ウチの高校のエンジなんて、まだマシだって思ったよ」
「えっ、どんな変わった色があるん?」
「伊東君には教えなーい」
「俺、信用ないのぉ。グレちゃる」
結構話し込んだ所で、何故か女子バレー部の2年生がうるさい!早う寝んさいや!と注意しに現れたため、今夜はこれで解散となった。
だが、明日も集まろうという約束をしたので、続きがあるのだろう。
お互いに誰となくお休み〜と声をかけ合って寝室へと戻ったが、寝室に戻ったら急に睡魔が襲ってきた。
自分の布団を確認して横になると、あっという間に眠りに落ちてしまった。
眠りに落ちる寸前に、そう言えば大村は戻ったのかとか、神戸は女子の寝室でいじめられてないかとか、ちょっと気に掛かったが、深く考える余力は無かった。
<次回へ続く>
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