第7話 -詰問-
3日間のクラスマッチも無事に終わり、俺達のクラスは男子のサッカーが3位、バスケが5位、女子のソフトが4位、バレーボールは1位で優勝という結果に終わった。
クラスマッチで競技に出るのは気が進まなかったが、これまでバラバラだと思っていたクラスが、応援し合うことで男女とも仲良くなってきたのは嬉しかった。
男子の競技を空いてる女子が応援したり、その逆もしかり。
俺自身、サッカーに出ていた時、誰かは分からなかったが、女子から「上井くーん、頑張れー!」という声援を受け、思わず張り切ってしまったし。
「みんな3日間、頑張ったね!女子バレーの優勝も凄かったけど、他の競技も結構いい成績じゃったね!」
末永先生も凄い喜んでいて、打ち上げをやろうという話が始まった。
こういう時は話が早く、今度の週末、ボーリングに行こうということになったが、俺は参加出来なかった。というか、吹奏楽部と野球部は参加出来なかった。
夏の甲子園出場を懸けた高校野球広島県大会が始まり、打ち上げが決まったまさにその日が、俺達の高校の野球部の1回戦の日で、吹奏楽部は応援に行くことが決まっていた。
末永先生が、俺ら吹奏楽部や野球部の男子に、本当に申し訳なさそうにしていたのが印象的だったが、こればかりは仕方ない。
野球部の須永というクラスメイトは、心底打ち上げに行けないのが悔しそうだった。
そして俺も少し、行きたかったけどな…という思いが残った。
(上井くーん、頑張れー!)
と、おれみたいなポンコツに声援を送ってくれた女子のクラスメイトは一体誰なのか?
その子が打ち上げに来ていたら、何かあるかもしれないのにな、という心残りがあるのだった。
とりあえずクラスマッチ最終日はそんな感じで終わり、そのまま俺は部活へ行った。
だが、部活出席者は少なかった。
「須藤先輩、お疲れ様です」
「おぉ、上井君」
音楽室の片隅でチューバを拭いていた須藤先輩に挨拶した。というよりも、まだ須藤先輩しか来ていなかったというのが正しい。事実上、俺が今日の部活2人目なわけだ。
「クラスマッチの後って、いっつもこんな感じですか?」
「ははっ、そうみたいだね」
須藤先輩は他人事のように言ったが、体育系の部活も休みになっている部活があるほどなので、文化部の吹奏楽部の練習に人が集まらないのも仕方ないのかもしれない。それほどクラスマッチは疲れる行事ということだ。
俺は個人練習するか…と思ってバリサクを楽器庫から引っ張り出したが、そのタイミングで須藤先輩から手招きされた。
「上井君、俺達しかいない今のうちに…」
俺は直感で、野口さんのことじゃないかと思ったが、案の定だった。
「はい、先輩、どうされましたか?」
「ちょっと聞きたいんじゃけど…上井君さ、野口さんとはいつから付き合ってるの?」
…はぁっ?困ったぞ、野口さんとそんな細かい部分は話し合ってないし。と、とりあえず…
「4月下旬にあった、宮島への遠足がキッカケです」
「そうなんだ。だから俺がゴールデンウィーク明けにお付き合いを申し込んだのは、タッチの差で負けてたんだな」
なんとかしのげたか?
「でもさ、そんなに早くお互いを意識して付き合うものなの?」
うわっ、第2弾だ!
「上井君は野口さんとは違う中学校だったよね?」
な、なんだ、この圧は。早く誰でもいいから、他の部員さん、来てくれーっ!
「はい、中学は違います。俺は大竹方面ですし、野口さんは廿日市方面です」
俺は手と背中に大量の汗をかいている。
「同じ中学ならさ、同じ高校だね、とかいって早くから付き合うのも自然だと思うんだ。でもお2人はそんなに早くから意識し合ってたの?」
いいえ、なんて言えるわけないでしょ!
「はい、俺が先に入部して、野口さんは後からでしたけど、俺が言うのもなんですけど、バリサク吹いてる姿に一目惚れしてくれた…んです…ハハハ…」
実際にそんな話があれば、狂喜乱舞だけどね!
「じゃあ宮島で、野口さんから告白されたの?」
しつこいなぁ…。あ、これが野口さんが言ってた理屈っぽいって所か!なるほどね!
「そうです。俺も野口さんって、ちょっと可愛いなって気になってたので、お互いに意識してたってことになりますね」
「そうか…。うーん…」
終わったよね?他の部員さーん、誰でもいいから、来てーっ!
「俺が見る限り、上井君と野口さんてさ、最近こそよく話してたり、この前は一緒に帰るのもチラッと見えたんだけど、これまではそんなに親しいようには見えなかったんだよね。だから俺も思い切って告白したんだけど…」
まだ終わってなかったー!
「そ、そりゃあ、部活ではパートも違いますし、俺は他のカップルと違って、イチャイチャしてる所なんて見せたくない主義ですから…」
他のカップルってのは、大村と神戸のことね。
「そんなもんなんだね…」
もう何も聞かないでくれ、頼みます…と思っていたら、ここで救世主、前田先輩が登場してくれた!
「あれ?須藤君と上井君だけ?」
「はっ、はい!先輩、心からお待ちしてました!」
「何々、上井君はそんなにアタシのことを待っててくれたの?」
「はい、そうです!」
この時、俺がどんな表情だったかは、タイムマシンででもなきゃ確認出来ないが、心底安堵した顔だっただろう。
「冗談でも嬉しいわ。ありがとね」
須藤先輩の詰問は、前田先輩の登場でなんとか終わったが、こんなに執拗なのかと思い知らされた。
野口さんが、須藤先輩は理屈っぽいから苦手と看破していたのは、流石女子だからと言えるだろうか。
その後、やっと…という感じで部員が集まりだし、音楽室も賑やかになってきたが、あの須藤先輩の圧の凄さは、忘れられない。
話の整合性を合わせる為に、野口さんに報告しとかないとな…。
<次回へ続く>
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