第5話 -クラスマッチ-

 ついに1学期を締め括る学校行事、クラスマッチの日となった。


 中学校の時とは大違いの壮大さで、延べ3日間掛けて順位を決めるそうだ。


 確かに中学校の時は1学年4クラスだったから、すぐトーナメント表が作れるし、2回勝てば優勝という単純さだった。


 これが高校となると1学年8クラスで、トーナメントだけは組みやすいものの、試合数は単純に倍になるだけではなく、1位から8位まで順位を決めるので、試合数は凄まじいものとなる。


 そのせいで3日間も掛かるのだが、体育と雷と飛行機をこの世の三大苦手としている俺には、拷問に等しい3日間だ。


 この前の部活で前田先輩に見抜かれたが、女子の体操服姿を見られることだけが、体育が大嫌いな俺の、クラスマッチや体育祭での唯一の楽しみだった。


「上井君は何に出るんだっけ?」


 同じ中学から進学した本橋君が聞いてきた。

 高校では中学と違って、出る種目を選べるようになっていた。

 そのせいで日程消化に時間がかかるんじゃないか?とも思ったが、俺は1年男子に用意された種目の2つ、バスケットボールとサッカーのうち、消去法でサッカーを選んでいた。

 バスケはドリブルも出来ないし、ボールをパスされても受け取る自信がないし、第一突き指する可能性が高い。こんな危険な球技は吹奏楽部員としては選べない。


「えっとね、サッカー。モッ君は?」


 俺は本橋君を、モッ君と呼んでいた。


「僕もサッカーだよ。おぉ、仲間だね!」


「モッ君と同じなら安心だ~。よろしくね」


 そのサッカーでは、サッカー部のクラスメイト、長尾博が中心となって、作戦を立てていた。


 元々俺は戦力として期待されていないのは分かっているので、上井はゴール前で守備を頑張ってくれ、と言われただけだった。


 ちなみに女子はソフトボールとバレーボールの2つが用意されていて、神戸はバレーボールを選んでいた。

 大村はバスケを選んでいたので、恐らく2人して体育館内の競技を選んだのだろう。俺と違って大村は運動神経はいいと思うから、別にバスケでも何の心配もいらないのもあるのだろう。


 俺としては2人の顔を見なくて済むから、助かると言えば助かる。


「みんな、おはよ~」


 と言いながら、担任の末永先生が珍しくジャージ姿で入ってきた。


「今日から3日間、クラスマッチだけど、全部で4種目、みんな、優勝目指してね!」


 はーい!と、文化祭の合唱コンクールの時とは違う元気な声がクラスメイトから返ってきた。


「男子はサッカーとバスケ、女子はソフトとバレー、みんな一番最初の試合開始時間は確認してあるかな?もし分かんなかったら、下駄箱にトーナメント表が貼ってあって、各競技担当の生徒会の人達が進行状況を書き込むようになってるから、試合ごとに確認してね。勝ったら次はどこのコートで何時から、負けたら…は考えてないけど、その時も次は何時からどこで、って確認してね」


 はーい!!



 …みんな、文化祭の時もそれぐらい団結してくれよ…と俺は思わざるを得なかった。


 文化祭の合唱コンクールは、末永先生が必死に煽ってくれたお陰で、1年生で7位と、なんとか最下位は免れたものの、合唱ならではの輪唱とか男女の掛け合い、ハモリなど何もないカラオケのような出来となってしまった。それが大いに俺は不満だった。


 なんで体育系行事はこんなにみんな張り切るんだ?なんで文化祭はあんなにやる気がないんだ?


 本橋君も俺に合わせてくれているが、中学では陸上部に入っていたので、サッカーも俺より間違いなく戦力として期待されているはず…。

 今日から3日間、嫌だなぁ。こんなのが年に2回あるのかぁ。


「9時から全体の開会式がグランドであるから、それまでにみんな着替えて、集まってね!」


 はい!



 俺は口パクで返事をした。


「上井君、元気ないよ!頑張ってね、サッカー!」


 と、同じ中学から進学した女子の笹木さんが、俺の肩をポンと叩いて励ましてくれた。


「ありがとう~。邪魔にならん程度に頑張るよ」


 笹木さん自身は、部活にも入っているバレーで3日間過ごせるから、物凄く楽しそうな雰囲気だった。自分の試合もだが、他チームの試合では女子バレー部が動員されて審判を務めるのも、モチベーションアップに繋がっているのだろう。


 末永先生が出て行った後は、8組の男子が7組にやって来た。また逆に7組の女子は8組へと移動していった。

 普段の体育だと、男子は各自の教室で着替え、女子は女子更衣室で着替えるのだが、学校全体の行事ということで、男女とも体操服に着替える時は奇数クラスが男子、偶数クラスが女子という割り当てになっていた。


「なぁなぁ、早く着替えて6組とか4組の前通ったら、着替え中の女子とか見えんのかな?」


 誰か分からないが、男子なら誰もが願う光景を口に出した奴がいた。よく分からなかったので、8組の男子だろう。


「バーカ、女子だって気を付けてカーテン引いてるよ。見えるわけねーだろ」


 と、俺のクラスの長尾が答えていた。知り合いなのかな?


「上井君、行こうか?」


 モッ君が声を掛けてくれたので、俺も覚悟を決め、廊下へ出た。


「なんか、凄い光景だね…」


「ホンマに…」


 男女入り乱れて体操服姿で廊下を一斉に下駄箱へ向かう光景は、何と表現したらよいのか…という風景だった。


 下駄箱へ向かっていくと、途中で吹奏楽部の同期とも出会う。

 男子とは軽く手を上げたりする程度だったが、女子の場合、俺の敵以外は初めて体操服姿…つまりブルマ姿を見掛ける訳で、ちょっと照れてしまった。


 グランドに出るまでに出会ったり、会話したりした吹奏楽部の女子は…


 野口さんは先方から俺を見付けて声を掛けてくれたので、余計に照れてしまった。更に、ブルマ姿がとても似合っていたのである。そういえば中学時代は何部だったか聞いてないな…。体育系の部活なら、ブルマも上手く穿くコツがあるのかもしれない。


 伊野さんも久々に会ったが、ブルマ姿を見てしまうと照れてしまう。太腿をつい見てしまうと、去年まで打ち込んでいたテニスのスコートの裾に沿った日焼け跡が残っていて、多少肌の色が違う部分があることに、興奮というか背徳感を覚えてしまった。


 その他、2年生、3年生の女子の先輩方を見ると、意識するなという方が無理なハイレベルの、ブルマファッションショーの様相を呈している。


 奇しくもモッ君が俺に話し掛けてくれた。


「女子の体操服がヤバいよね。中学までとは全然違う…」


「モッ君も思っとった?なんか、見ちゃいけないような気がするけど、見ちゃうんだよね、これが」


 2人して開会式の列に加わりながら、そんな会話をしていた。


 そう、男子はアホなのである。


 こんな壮大な景色が3日間も眺められるなら…クラスマッチも悪くないな。


 <次回へ続く>

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