第3話 -体操服談義-

 期末テストも終わり、部活も再開された。


 勿論吹奏楽部は、8月下旬に開催されるコンクールに向けて全力を…とはなかなかいかず、学校行事に振り回されていた。


 1つは期末テスト終了から1週間後に、3日間に渡って行われるクラスマッチだ。


 中学の時もクラスマッチはあったが、一日で終わっていたので、3日間もあることにまず驚いた。


 体育が一番苦手科目な俺には、苦痛の3日間になりそうだ…。


 そのお陰で部活動も、再開したはいいものの、各クラス毎に熱が入っていて本番前に放課後残って練習したり、そのクラスマッチの練習で疲れ果てて音楽室まで足が向かない部員が多発するなど、開店休業に近い状態になってしまった。


 俺も放課後の練習に誘われたが、逆に部活があるので…と逃げてしまった。


 同じクラスの伊東と大村は練習に参加しているのに…。


 だから音楽室も閑散としていて、いつもなら各パートで音楽室以外に練習場所を設定するのだが、当面は全員音楽室で練習になっていた。


 俺のサックスは、文化祭前と似たようなもので、前田先輩と俺の2人だけ練習に来ていた。


「前田先輩と2人のパート練習ってのが、学校行事の前は定番ですね」


「なーんかそんな感じだね。上井君のクラスは、クラスマッチの事前練習とかしないの?」


「やってますよ。伊東がいないのがその証拠みたいなもんで…」


「ああ、2人は同じクラスだったね。でも伊東君は参加して、上井君は不参加なのかな?」


「そうです。俺、物心付いた時から体育ってもんが嫌いなんですよ~。クラスマッチなんて地獄の3日間になりそうです」


「そうなのね。アタシのクラスは、事前練習やろうなんて雰囲気すら無かったから…。良いのか悪いのかよく分かんないけど」


「沖村先輩と末田さんは、熱血クラスでしたもんね。きっと事前練習で欠席なんでしょうね」


「そうね、きっと。で、上井君のクラスは熱血気味だけど、上井君は部活のほうがいいと…」


「勿論です。いかに体育的なことから逃げるかが勝負の分かれ目で…」


 前田先輩は声をあげて笑っていた。


「そんなに上井君、体育が嫌いなんだ?」


「そうなんですよ。だからこの高校を選んだんですけど、登校する時に体力を使うのが必要なのは誤算でした」


「アハハッ、そうよね~。多分登校する時に坂を上らないでいい生徒なんて、極僅かだと思うよ、アタシも。でも体育苦手でこの高校って、どんな意味?」


「先輩、この時期の体育といえば、アレですよ」


「もしかして水泳?」


「そうです。プールがないので水泳の授業がない!これは大きかったですよ!」


「そうなんだ?女子の水着姿を見られる♪とかよりも、水泳自体がない方が…」


「俺には重要でした」


 再び前田先輩は笑った。


「あっでも、体育祭の雰囲気とかは好きですよ。あと吹奏楽部だとテントにいれる特権もありますし」


「体育祭は好きなんだ?それってもしかして、女子のブルマ姿が見れるからじゃないのぉ?」


 俺はドキッとした。確かに気になる女の子のブルマ姿、いや、女子全員といっても言いだろう、ブルマ姿を見るのはワクワクするのは否定できない。核心を突かれたと言っても過言ではない。


「えぇっ、そっ、そそんな、ことは、ない、かも、いや…」


 俺は自分でも分かるほど顔が赤くなっていた。


「ウフッ、上井君って本当に隠し事が出来ないよね。素直に言えばいいのに。女子のブルマ姿を見るのは好きだ、って。アタシはそれで上井君を軽蔑したりしないよ」


「そうですか?」


「だって、ブルマなんて、パンツの上にパンツ穿いてるようなもんじゃない。女子は仕方ないから穿いてるけど、食い込んだり、下着がはみ出たりが気になって、体育に集中出来ないもん。男子にしてみたらきっと気にしてないふりして、気にしてるはずよ。アタシはそう思うしね。女子のブルマ姿を見ても何にも感じないとかいう男子の方が、アタシは信じられないもん。それとね、逆に女子は女子で、男子の短パン見て、あまり大きな声では言えないけど、品定めしてるんだよ」


「しっ、品定め?」


「っと、ここまでにしとくね。ナニを品定めしてるかは、ヒ・ミ・ツ」


 前田先輩はそう言って指を唇に当てて、ナイショというポーズをみせたが、既に前田先輩は答えを言ってしまったようなものだった。


(短パンの上から、アレの大きさとか、分かるんかな…)


 俄かに俺は不安になってしまった。




 結局この日は最初から最後まで前田先輩とのトークで、部活時間が終わってしまった。まあこれはこれで楽しかったのだが。


 最後のミーティングでも、2年生の先輩方より、1年生の方が出てきているメンバーは少なかった。

 初めてのクラスマッチということで、熱心なクラスが大半なのだろう。


 俺といつも一緒に帰る、村山、松下、そして伊野さんも欠席していた。ただ神戸と大村は途中で暮らすマッチの練習を抜けてきたのか、ミーティングには参加していた。


 須藤先輩が、いつものようにミーティングを始めた。


「はい、ミーティング始めます。クラスマッチのせいで、まともな練習に取り掛かれるのはまだ先かもしれませんが、放課後とか無理なら出来るだけ朝、昼に少しでも練習に来れるよう、皆さんの同じクラスの部員さんに伝えてくださいね」


 傍から見ていると、須藤先輩からは、野口さんにフラれたショックは微塵も感じられない。


(たった1年違いだけど、流石先輩、大人だな…)


 それに比べて俺の場合。


 もし中3の部長在任中に、神戸にフラれていたらどうなっただろうか?


 中学時代はラストを締めるミーティングとかは無かったが、練習中も無気力になっただろうし、最後に鍵を締めるために、部員が音楽室から退室するのを待つ間も、ボーッとしていただろうな。


 それより、神戸が野口さんにふと漏らしたという、俺が中学の吹奏楽部で後輩女子からモテていたというデマは、いったい何なんだ?

 本当なら神戸を捕まえて、そんなデマ流すな、と言いたいのだが、神戸とは永遠に喋らないと固く心に決めているので、言えない。

 ミーティングを大村と並んで聞いている神戸の後ろ姿を見ながら、俺はジレンマに陥っていた。


 …誰かに間に入ってもらって、伝えてもらおうかな…


 <次回へ続く>

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