第28話 -仮の彼女-

「須藤部長が?」


「そうなの。俺と付き合ってくれって…。返事は保留中なんだけど、この前…文化祭の時かな、そろそろ答えを聞かせてくれって言われたの」


 明日から期末テスト一週間前による部活禁止期間になる。その前日、最後の最後で俺は爆弾を受け取った。


 同期の野口真由美さんから悩みを聞いてほしいと言われ、応じて聞いてみたら、なんと須藤部長が野口さんに告白してきたとのことだった。


 それもゴールデンウイーク明けくらいに告白されたとのことなので、単純に考えても1ヶ月以上須藤先輩に答えを返せず、野口さんは悩んでいたことになる。


「全然気付かんかったよ。いつも明るいってイメージがあるけぇ…野口さんは」


「本当?アタシ、笑い声が大きいからかな?」


 それまでの硬い表情から、少し微笑んだ表情で、野口さんは返してくれた。


「あっ、それそれ。野口さんは笑顔が可愛いんよ。だから狙ってる男子もいたとは思ってたけど、まさか部長が…ねぇ」


「でしょ?もうビックリよ。…上井君はアタシのこと、狙ってたの?」


「俺?俺はね…今は誰も好きにならないようにしてるんだ」


 ちょっと俺は嘘を付き、伊野さんに片思いしていることは隠した。


「えー、なんで?上井君なら、きっと好きっていう女子、いると思うよ」


「うーん…。中3の時に、神戸…さんに付けられた傷が治ったら、だね」


「気になるぅ。ねぇ、中3の時に上井君と神戸さんの間で、何があったの?」


「知りたい?」


「知りたいよぉ。アタシの悩みなんていいから、教えて?」


「いやいや、野口さんの悩みもちゃんと考えるよ。とりあえず俺とあの人の間ではね…」


 これで他校卒業生に話すのは、何人目だろうか。中3の夏に付き合い始め、俺の不甲斐なさで半年後にフラれ、その直後に別の男子にバレンタインのチョコを上げ、卒業式では目の前でイチャイチャされ、高校ではまさかの同じクラスになったこと、ゴールデンウイーク明けには次の彼氏とも別れ、今は大村が江田島合宿で告白して付き合っている…ということを。


 下を向いて話していたので、野口さんの表情は分からなかったが、言い終わって上を向くと、目に涙を溜めた野口さんがいた。


「ねぇ、上井君。そこまでされても上井君ってなんで平気なの?」


「えっ、いやぁ、まぁ、平気ではないよ。二度と喋らないって決めてるから」


「それだけ?それで気が済むの?2人の仲を裂こうとか、思ったりしないの?」


「そんなこと、思わないよ。そんなことしても、後味悪いし。ただ、大村を吹奏楽部に誘ったのは俺なんだよね。大村を誘わなきゃよかった…って後悔したことはあるよ」


「…アタシなんかより、ずっと、もっと辛い思いをしてたんだね、上井君…」


「まぁ仕方ないよ。こうなるように運命が決まってたのかもしれないし。でも目の前でイチャイチャされるのは、正直…ツラい…」


 俺の顔もちょっと悲しげな表情になっていたかもしれない。


 野口さんはしばらく黙っていたが、突然驚くようなことを言った。


「ねぇ上井君…。アタシと付き合ってたことにしない?」


「え?」


「アタシと上井君は、入部して早々、お互いに一目惚れして付き合ってたの。だから、須藤先輩の彼女にはなれません、って言うの」


「それって、恋人偽装?」


「ううん、そんなんじゃなくて、もうちょっと…。アタシ、上井君の傷を治してあげるよ?」


「俺の傷?中3の時の?」


「うん。でも、お互いに本当に好きな人が出来たら、解散するの。友達以上、恋人未満。でも…友達関係は続けたいな。」


「いいのかな…。須藤先輩、なんで黙ってた!とか、怒らないかな…」


「期間が空いたのは、中間テストがあったり、文化祭があったりで、須藤先輩が忙しそうにしてたから、なかなか言えなかったってことにすればいいよ」


 こんな時は、女子の方が頭の回転が速い。


「でも確認じゃけど、野口さんは須藤先輩のことは…」


「なんとも思ってない。むしろ苦手なタイプかも…。話は長いし、理屈っぽく感じない?ミーティングとかの喋りを聞いてたら…」


「そうなんだね。じゃあこの1ヶ月と少々は、どうやれば上手く断れるか?で悩んでたってことなんだ?」


「率直に言えば、そうなるかもね」


「須藤先輩、ショックだろうな…」


「だからこの事は、アタシが1人で須藤先輩に言うから。上井君は出なくていいよ」


「いや、仮が付くけど、彼氏役になるんなら、一緒に言った方が絶対にいいよ。須藤先輩が逆上して…ってなったら、俺が野口さんを守ってあげなきゃ、ダメじゃん」


「んもう、なんて優しいの、上井君は。そんな嫌な役回り、一緒にいてくれるの?」


「まあ仮にさ、須藤先輩に俺が嫌われたとしても、学年も違うし、しばらく我慢してれば大丈夫でしょ」


「ごめんね…。でも、でもさ、アタシとカップルってことにして、これで上井君が女の子を好きにならないって決めてる傷が、ほんの少しでも治れば…」


「ありがとう。野口さんも優しいじゃん。こんな俺に、そんな優しい言葉かけてくれるんだし」


「こちらこそ…。じゃあ明日の朝練の時にでも、実行しちゃう?」


「そうしよう。早くケリ付けたいでしょ、野口さんも」


「うん。じゃあ、明日の朝、音楽室で待ってるね。雨が酷いけぇ、気を付けて帰りんさいね、上井君」


「野口さんこそ、気を付けてね」


 じゃあ、バイバイとお互いに言って、お互いに帰路に着いた。


 傘を差しながら、上手く行くことを願い、宮島口へと向かった。果たしてその結末は…。


 <次回へ続く>

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