第24話 -縁切宣言-
「神戸さん、どう?まあ全部は聞こえてないけどさ、俺と神戸さんが付き合い始めたのがもう上井に見付かって、3人が俺達のことを話してるのを聞いて…」
大村は神戸と付き合い始めたことで、遂に宮島口駅まで一緒に帰るようになった。
元々大村と神戸は自宅が反対方向なので、最初は校門で別れていて、上井達と帰っていたのが、伊野沙織の一言から共に帰れなくなり、代わりに大村が間隙を突いて神戸と一緒に帰るようになり、少しずつ距離を伸ばして、カップルになったことで宮島口駅まで来るようになったのだ。
「告白現場を見られたか、聞かれたかはよく分かんないけど、もうアタシは前を見て進むしかないもん。上井君みたいに、いつまでも昔のことを引き摺ってたら、進歩がないよ」
神戸は宮島口駅の手前でハッキリとそう言った。
「神戸さん…。それは上井への決別宣言みたいなもの?」
「元々アタシは、上井君をフッて、次の彼に告白した時点で、上井君には決別してるんだから…」
神戸は勇ましい言葉とは裏腹に、表情は寂しげだった。
そう大村に言うことで、心の底にある上井への未練を断ち切ろうとしているのだ。
だが上井と縁を切ることは、多くの同期生を敵に回す可能性もある。
漏れ聞こえる話からは、松下弓子は中立的な感じだったが、伊野沙織は完全に上井を支持する感じだった。
また少しずつ話せるようになってきた、他校を卒業し吹奏楽部に入ってきた同期生と上井は、男女問わず結構上手く、人間関係を構築しているように見えた。
先輩方も上井のことを結構可愛がっているように見えるし、顧問の福崎先生も、バスクラリネット担当の部員が初心者ということから、バスクラの難しいフレーズをバリサクに吹いてくれと、かなり上井を頼っている。
一言で言えば、上井はもう西廿日高校吹奏楽部にすっかり馴染み、溶け込んでいるのだ。主流派と言っても良いかもしれない。
逆に神戸は、まだ話したことのない同期生、先輩方がかなりいる。
クラリネット以外のパートで喋れる相手が圧倒的に少ないのだ。
だから吹奏楽部に入ったものの、思うようにいかない現状に多少の苛立ちも感じていた。
残るは村山だ。
松下、村山には大竹駅のホームで本音を吐露している。
だからこそ松下は、中立的な立場で発言していたのだろうと思った。
今はその本音を消し去ろうと、勇ましいことを大村に宣言しているが、村山と話すことがあったら、自分の気持ちがどう揺れ動くか、神戸自身も解りかねていた。
「あっ、あの3人、ホームに入るよ。どうする?」
大村は遠目に、上井、松下、伊野の3人が改札を通ってホームに入るのを確認した。
「えっ…」
踏切の音も聞こえるので、岩国方面の列車が来るのだろう。
「大村君ごめんね、とりあえず3人とは別の車両に乗って、帰るわ」
「分かったよ。気を付けてね」
「じゃあまた…バイバイ」
神戸も急ぎつつ、かつ3人とは違う車両に乗るべく、ホームに入った。
(上井君は大抵一番後ろに乗ってるから、前に乗れば大丈夫)
神戸の読み通り、上井達は夕方のラッシュで8両と長くなっている列車の、後ろから2両目に乗ろうとしているのが見えた。
神戸は前から2両目に乗り込んだ。
(大竹駅でユンちゃんに会うかもしれないけど…ユンちゃんなら、まだ話せそうだから…)
その列車は定刻通りに走り、大竹の一つ前、玖波駅で上井と伊野が下車した。
「じゃあまたね〜」
と、誰からともなく言ったあと…
「また来週ね。上井君、元気出すのよ!」
松下が、流石元バスケ部という迫力で俺を励ましてくれた。
「おぉ、分かったよ」
ドアが閉まり、次の大竹駅へ向かって、列車は走り去った。
「クスッ、ユンちゃん、男の子みたいだったね」
と伊野さんが話し掛けてくれた。
「なんだろ、元バスケ部の迫力があったよね」
「アタシは元テニス部だから、あんな迫力ある声は出ないなぁ」
俺と伊野さんは、話ししながらゆっくりと自転車置き場へ向かった。
「でもさ、ダブルスの試合とかだと、結構パートナーに声を掛けたりするんじゃない?」
「そうね、ダブルスだとそうだけど、絶叫するわけじゃないから…」
伊野さんが少し照れているのが分かった。距離を縮めるチャンスだ。もう少し話してみたい…。
「あとさ、テニスの試合でミニスカート履くじゃん?」
「アレはミニスカートじゃなくて、スコートって言うの」
「えっ、そうなの?知らんかった〜恥ずかしっ」
俺は本当に知らなかったのだが、伊野さんはそうとは取らずに、俺がワザと言ったんだと思ったようで…
「上井君って、もしかしてテニスしてる女子のスコートが捲れるのを期待してた?」
「えっ?そ、そんなことないよぉ」
「ウフッ、本当かなぁ?でも、そういうことにしといてあげる。ついでに言うと、スコートの下に穿いてるのは、パンツじゃないからね」
「あっ、そ、そうなんだ…」
「アンダースコートって言うの。白いから、パンツでやってるとよく思われるのよね。きっと上井君もそう思ってたでしょ?」
「いやっ、そ、そこまでは、その…」
逆に俺が照れて、顔を赤くしている筈だ。
「アハッ、なんかシドロモドロの上井君って、楽しいね」
俺は伊野さんからパンツという単語を言われると、どうしても中学時代の合同体育で、伊野さんのブルマからはみ出ていた白いパンツが脳裏に蘇ってしまう。
(その時はガン見してゴメンね…)
心の中で伊野さんに必死に謝った。
なんだかんだと玖波駅前で話して、最後はまた月曜日にね…と別れたのだが、ここまで伊野さんと話せたことで、もう神戸も大村もどうでも良くなってきた。
(勝手に仲良くやってくれ。俺は伊野さんとの距離をもっと縮めて、俺の事を彼氏候補に考えてくれるまで頑張るぞ)
その頃大竹駅では、神戸と松下が対面していた…。
<次回へ続く>
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