第19話 -乱気流1-
俺は、男女4人で話し続けているとこんなに楽しいんだ、と改めて感じながら、食べ終わったたこ焼きの入れ物とジュースのコップをごみ入れに入れて、宮島口から列車に乗った。
車内でも喋り続け、周りからはうるさい高校生だと思われたかもしれないが。
この4人の内、偶然なことに、俺と伊野さんは宮島口駅から二駅目の玖波駅、村山と松下さんは三駅目の大竹駅で下車する。
「じゃあまた明日〜」
「バイバーイ」
と言い合って、俺は伊野さんと玖波駅で下車した。
「伊野さん、同じ駅だったんだよね。今更だけど」
「アタシは入学式の日から気付いてたよ、上井君と同じ駅なんだ…って」
え?本当に?俺はそんな言葉でも嬉しかった。
「もう、上井君、気付くのが遅ーい。罰として、アイス買ってもらおうかな?」
伊野沙織が、例によってちょっとだけ首を傾げるポーズで俺を見る。これが今の俺にはたまらない。
「あっ、アイス?うん、いいよ。何食べたい?」
「あははっ、冗談よ。でも中学の時は上井君って顔を知ってる位だったけど、お話しするようになったら、上井君って楽しい男の子なんだね〜」
「本当に?嬉しいなぁ。伊野さんとは部活も全然違ってたし、クラスも確か3年間一度も一緒になったことはなかったよね」
「そうね、アタシは何故かずーっと2組。上井君は?」
「俺は1年1組、2年4組、3年1組だよ」
「そうなんだね。じゃあ1年と3年の時は、お隣だったんだね。体育でもしかしたら一瞬同じ空間にいたかもしれないね」
中学の体育は、1組と2組、3組と4組という組み合わせで行われていた。
男子と女子は基本的に別々だが、たまに雨の日とかは、男女合同で体育館でゲームみたいなことをする時もあった。
実はその稀有な男女合同体育の時、俺は伊野さんのブルマから、パンツがはみ出ているのを見てしまったことがあった。
勿論誰にも言ってないが、俺はその事で伊野さんに対してちょっと罪悪感を持っている。
その時は途中で友達が教えてくれたのか、体育終わりにははみ出しは直っていたが。
「上井君?」
「え?あっ、ごめん、妄想してた〜」
「えー、何を妄想するの?夏服になった女子とか?」
「うぐっ!まあ、秘密ということで…」
「アハハッ、きっと当たってるんだ〜。でも上井君と話すと楽しいね。これからも一緒になった時には、2人だけでもお話しようね」
「もっ、勿論!」
「じゃあアタシはこっちだから。また明日ね。バイバーイ」
「あっ、うん。バイバイ」
俺は自転車を押しながら、反対方向へと帰っていく伊野沙織の後ろ姿を眺めていた。
夕日に照らされた夏服が輝いて見える。
こんなに気持ちがワクワクするのはいつ以来だろう?
当然、今の伊野沙織が、俺のことを好きだとは思っていない。単なる同じ中学出身の同じ部活の、異性の友達程度にしか思ってないだろう。
これから俺のことを好きになってもらえるよう、片思いを両思いに成就させるよう、頑張るしかないんだ。
俺は家に帰ってから中学の卒業アルバムを引っ張り出し、伊野沙織を探した。
「ずっと2組って言ってたよな。3年の時は村山と同じクラスじゃん…」
クラスを確かめると、確かに伊野沙織がいた。
「なんかあどけない感じだなぁ…。制服だと、ザ・女の子って雰囲気」
次に部活のページを開いた。もちろん、女子テニス部の部分だ。
「女子テニス部は…と…あっ、これが伊野さんかぁ。可愛いなぁ…。クラス写真より、凛々しい顔付きだなぁ」
女子テニス部の3年生は8人いた。後輩たちと写ってはいたが、3年生は試合用のコスチュームで写っていて、下級生は普通の体操服で写っていたから、すぐに分かった。
「こんな可愛い子がテニス部じゃなくて吹奏楽部に来てくれただけで嬉しいのに、神戸ショックでなかなか気付かんかったのはいかんね。でも、少しずつ色んな話が出来るようになっていけば…。明日の部活も楽しみだな♪」
俺の頭の中はすっかり伊野沙織とどうやったら親しくなれるか、挙げ句は告白に漕ぎ付けられるか?に染まっていた。
「文化祭でどれだけもっと仲良くなれるかな?」
<次回へ続く>
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