第18話 -決意-

 神戸は、ついに大村から江田島合宿の時に告白されたことを明らかにした。


「やっぱりか…」


「え?村山君、アタシが告白されたのに勘付いてたの?」


「最近、大村からのアタックが凄いじゃん、部活の時」


 村山は上井から聞いていた話も織り込みつつ、そう言った。


「あー、それはアタシも見てて分かったよ」


「弓ちゃんも?」


 松下も、神戸と大村の接近については勘付いていたようだ。


「うん。最近仲良くなった、他の中学校出身の女子も言ってたし」


「えー…もう、外堀埋まってるのかな…」


「外堀を埋めてるのは、神戸さんじゃなくて大村だよ。みんながいる中でも構わず神戸さんにだけ話し掛けて、2人きりになる場面を作ってるじゃん。で、神戸さんが他の男子と喋ってると、明らかに不機嫌な顔になるし」


 村山なりの分析だった。


「2人がそんなに気付くなら、上井君ももう分かってるよね?」


「そりゃあ分かっとるよ。分かっとるから、神戸さんに対する態度が軟化するどころか…こんなこと言っちゃわるいけど、悪化しとるんよ」


「…だよね。でも…」


「でも?」


 村山と松下が揃って言葉を発した。


「アタシはもうこれ以上、大村君からの告白に対する返事を先延ばし出来ない…」


「合宿の時からどんだけ経ったっけ?」


 村山が数えるまでもなく、


「丁度1週間だね」


 松下が答えた。


「付き合うにしろ、断るにしろ、早く大村君に返事しなくちゃ…って思ってるんだけど」


「断れるん?」


 村山がそう言った。


「…アタシの本音は…悪い人じゃないしいいお友達でいたい、なんだけど、大村君はそれじゃ満足しない。もう分かってる。だから上井君とはもう二度と喋れなくなるかもしれないけど、大村君にはOKの返事をしようと思ってる…」


「そっか…。こういうのはあくまで本人達の意思が一番じゃけぇ、俺や松下さんが大村なんて断れよ、とは言えないし、断ったら上井よりも凄い反撃が来そうじゃけど」


 頭を書きながらそう言う村山に続き、松下が続けた。


「チカちゃんがそう決断したなら、アタシとかサオちゃんとか村山君は、見守るしかないよね。アタシは本当は、ずっと…中3の時に別れたりせずに、上井君とチカちゃんがカップルでいてほしかったなぁ…。今更じゃけど」


「みんな、ごめんね…」


 神戸は泣きながら謝った。


 松下が、女子同士でもあるので、神戸の肩を抱いて慰めていた。


「まあ、泣かずにさ、大村と付き合うって決断をしたなら、全てを吹っ切って…上井に対する気持ちもだよ、楽しく大村と付き合いんさいや。上井のことを引き摺っとったら、大村にも悪いし」


「うん…。明日って土曜日だよね?部活前にでも返事するつもり」


「分かったよ。俺や松下さんは、知っとるけど知らないふりしとくから」


「え?村山君、それでいいの?」


「この現状を知らない上井と伊野さんとの兼ね合いもあるじゃろうし。まああの2人もすぐに分かるとは思うけどね」


 神戸がふと漏らした。


「大村君と付き合ってるのが分かった時の、上井君の反応が怖い…」


 村山は言った。


「上井の性格、考えてみなって。確かに更にアイツの怒りは増幅するかもしれんけど、だからってどこかで待ち伏せて襲ったりとか、するわけないじゃん。だから、上井のことを考えてたら大村と楽しく付き合えんけぇ、吹っ切らんにゃあダメやって」


「でも…上井君と話せるようになりたいっていうのは…」


「チカちゃん、それは二兎を追う者は一兎をも得ず、だわ。今は大村君を選んだんじゃけぇ、上井君と話せるようになるのは時間が解決してくれるとでも思って。村山君が言ったように吹っ切ること。それしかないよ!」


 神戸はしばらく考えていたが、


「分かった!高校生活も始まったばかりだもんね。アタシは大村君の彼女になる。上井君のことは片隅に仕舞っとく。ごめんね、長いこと駅のホームで…」


「ホンマよ~。何本列車が通り過ぎたと思っとるん!?」


 松下が冗談ぽく言った。


「ハハッ、もう真っ暗だしな。ええ加減、帰ろうか」


 3人は揃って改札を抜けた。


 母親が迎えに来るという松下とは早めに分かれ、途中まで村山と神戸は2人で歩いた。


「遅くなってごめんね、村山君」


「そっちこそ。俺は一応男じゃけぇ、まだええけど、神戸さんは女の子だからお母さんが心配しよるんじゃないん?」


「うん、多分家に帰ったら怒られるわ」


 やっと明るく喋れるようになった神戸を見て、村山は言った。


「…大村からのアタックは、部活以外の場でも結構熱烈なんじゃろ?」


 ちょっと間を開けてから、神戸は答えた。


「うん…。あとはいつアタシがOKを出すか、彼が待ってる状態にまでなってるからね」


「それで1週間だもんなぁ。アイツの性格考えると、ここまで引っ張っておいて断ったら大変じゃろうね。神戸さんとしては大村のことは、好きなん?」


「うーん…分かんない。今は猛烈にアタックされて、好きなのかもと思ってるけど…。あと、今から言うことは、絶対誰にも言わないで。村山君の心の中に仕舞っておいてね。この前も言ったことだけど」


「あっ、ああ。分かった…」


「アタシは、上井君のことが一番好き。これまでも、これからも。こんな関係になっちゃったけど、一番大好きで忘れられないのは上井君、ただ一人。本音では、せめて話せる仲になりたい。でもここまで来たら村山君の言う通り、もう戻れないし、大村君に断ることも出来ないし。だから上井君にどう思われても、大村君には明日、付き合ってもいいよって答えるつもり」


「そっか。分かったよ。そこは幼馴染として、秘密は守るけぇ、安心しな。上井のことは俺に任せとけ。俺の数少ないつてで、神戸さんのことを忘れさせるような女の子と付き合えるように、頑張るから」


「ありがとう」


 村山の家の前に着いた。


「暗いけぇ、気を付けてな」


「うん。色々とありがとね、村山君」


「じゃ、お休み」


 神戸は決断をした。一方、上井は…


 <次回へ続く>

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