第13話 -査問委員会-

 江田島合宿も終わり、1年生は日曜日に江田島から戻ったこともあり、月曜日1日のインターバルをおいて、火曜日から部活が再開された。

 文化祭までは残り2週間を切ってしまっていたが、何となく先輩方の練習を見ていると、それほど熱心ではなく、ミスなく吹ければいいや、程度の感じだった。


(前に沖村先輩から聞いた話が本当なのかな?)


 蒸し暑い体育館に全生徒を集めて強制的に聴かせるから、途中で生徒が飽きてきて騒ぎ出す、コッチのモチベーションも下がる、だから10曲もやりたくない、これが沖村先輩の本音だった。


 中学の時は文化祭が一番の晴れ舞台だったけどな…と思いつつ、サックスのパート練習に顔を出すと、前田先輩しか、まだ来ていない。


「お、上井君、お帰り~」


「ありがとうございます。無事に江田島から帰還いたしました!」


「ハハッ、帰還ってオーバーじゃね。どうだった?江田島は…。女の子から呼び出された?それとも誰かを呼び出した?」


「いや~、私には全く縁のない二晩でした。アッハッハ!」


「本当に…?なんか嬉しそうな顔が気になるなぁ。お姉さんに白状したら、楽になるわよ?」


「先輩、追求が厳しいですよ〜。あまりのモテなさによるカラ元気ですよ」


「そうなの?うーん…。実はアタシ、上井君のことが気になるって女子がいるって噂をキャッチしてたの。だから呼び出されたんじゃないかな~って思ったんだけど」


「マジですか!?…でも本当に二晩とも何もありませんでしたし、私、夕飯後から消灯までの2時間、孤独に推理小説読んでたんですよ」


「じゃあ、噂の子はまだ告白には早いと思ったか、他の男子に奪われたか、かな?」


「もし先輩が掴んでおられた情報に信憑性があれば、きっと後者だと思いますよ…」


「上井君、ネガティブだねぇ。前向きにならなきゃ!」


 そこへ同期の末田さんがやって来た。


「確かに上井君の姿は、2晩とも見掛けなかったね」


 正直、助かった。


「え?ということは、末田さんも江田島で誰かに呼び出されたとか?」


「ううん、アタシも何もないよ。ただ友達が8組の男子に告白したいからって、呼び出し役させられたの。伝令役よ、ただの」


 末田はアルトサックスの準備をしながら喋っていた。


「そうなると、あとは伊東君に確認しなきゃだね。あの子、モテそうな顔してるから、江田島じゃたくさん告られたんじゃないかな?」


 前田先輩がそう言っていると、沖村先輩と伊東が喋りながら、サックスのパート練習の場所に現れた。


「おー、待ってたよ、伊東君!江田島で恋人ができたかどうかの査問委員会なんじゃけど、どうだった?」


 と、俺が尋ねたが…


「俺?まあ100人ほど告白されたけど、全部断った」


 伊東は肝心な話を、いつも巧みに逃げつつ、脱力させる。


「そ、そう…」


 前田先輩は苦笑いしながら、しかし更に聞いた。


「伊東君は、要は彼女は作らなかったんだ?」


「まあ正直に言いますと、2人ほど呼び出されて告白されましたけど、俺、実は同じ高校内では彼女を作らない主義なので、断ったのは本当です」


「へぇーっ!」


 女性3人組が、一斉に驚きの声を上げた。さっきのは冗談にしか聞こえなかったが、今回のは本当の話に聞こえた。


 モテる男は違うなぁ。俺なんか、「好き💕」と言ってくれる女子なら、よっぽどじゃない限りウェルカムだけどなぁ。江田島に行く前に、俺より先に彼女を作るって言ってたのは、カムフラージュだったのか?


 そんな感じでこの日のサックスの練習は、お喋りだけで終わってしまった。


 中学時代にはパート練習で楽しく話し続けるようなことは無かったので、これでいいのかな?という思いと、高校はやる時はやる、脱力するときは脱力する、という感じなのかなという思いを抱いた。


 ただ、文化祭の10曲はまだ仕上がっていないのだが…


 <次回へ続く>

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