第11話 -合宿初日-

 いよいよ江田島合宿の当日になった。


 集合場所は宮島口のフェリー乗り場で、ジャージ姿で集合となっていたから、女子はブーブー言っていた。


「そんな恥ずかしくもないと思うけどなぁ。どう思う?」


 村山と同じ電車で宮島口駅へ向かった時に、村山に列車内で聞かれた。


「俺も…。女子がなんで恥ずかしがるのか分かんないよ」


 宮島口のフェリー乗り場には、既に集まっている同級生が結構いた。

 確かに同じジャージ姿の高校生がこれだけの群衆でいるのは、遠くから見ると異様ではある。

 だが、デザインは中学の時のジャージよりも洗練されてていいと思うんだけどな…。


 フェリー乗り場ではクラス別に点呼を受け、フェリーに乗った。教頭先生や事務長さんの見送りを受け、貸し切りフェリーは宮島口を出航した。


 フェリーの中は自由で、誰と座っていてもよいし、ずっとデッキで潮風を浴びていてもいい。 

 

 俺は村山と一緒に、おとなしく座っていた。


「サックスの前田先輩が、この合宿ではカップルが沢山出来るとか言ってたけど、村山は好きな子とか出来た?」


「ちょっと待ったー。俺にはお前のことを1年サポートした副部長だった彼女がおるけん、そんな心配はいらんのじゃ」


「あーっ、そうだったな。で、船木さんとは上手くいってんの?高校は別じゃけど」


「まあな。普段は俺の部活帰りに合わせて、駅で俺のことを待ってくれとって、少しじゃけど話しよるんよ。あとは部活がない時は、どっか出掛けたり…かな」


「いいカップルじゃん。俺も1年前、そんな夢を見とったなぁ」


「そういう上井は、誰か好きな子は出来たんか?神戸のことを忘れるような…」


「出来ないよ、そう簡単には。神戸千賀子が同じ部活になるまでは想定内だったけど、まさか同じクラスになるとはね。どうしても吹っ切れず、なかなか次に進めない自分にも腹が立つけどさ」


「そうか。まあお前の場合、フラれた直後に真崎のヨウちゃんに奪われるって、なかなかキツイ体験しとる上に、進学しても同じクラスだもんな。ここまで傷め付けられる16歳も、まあおらんよのぉ」


「だからね、もう女の子を好きになるのはやめた。誰かを好きになっても最後は傷め付けられるだけだし、どうせフラれるし」


「お前、完全にネガティブループにはまっちゃったな」


「誰かを好きになって傷付くなら、誰も好きにならないほうがいいんだ、もう」


「16歳で人生諦めたようなことを言うなよ。そのうちきっと、お前のことが好きだっていう女子だって、現れるって」


「いや、そんな女子は現れない自信がある」


 俺はなぜかムキになって、モテない自分を力説していた。とはいうものの、内心はやっぱり高校で一度は彼女を作りたいな、という思いは持っていた。


 そんな会話をしていたら、あっという間に江田島についた。


 桟橋で学年主任の先生が、


「ここからは事前に知らせておいたグループに分かれての行動になります。A、B、C、Dに分かれてスケジュールをこなすように」


 8クラスを4つのグループにするだけだ。だから俺の7組は、8組と一緒に行動する、Dグループになる。


 合宿中は1日目の午後、2日目の午前と午後、3日目の午前という4つの時間帯に分かれ、4つのテーマの研修を行う。

 俺のDグループは、1日目の午後はクラスマッチで、恐怖のカッター訓練は最終日の午前となっていた。


 予定では昼食を全員一斉に食べ、午後からのプログラムへ臨むことになっている。


 ここで、サックスの沖村先輩が言っていた意味が分かった。


 クラスマッチの集合場所へと7組、8組の生徒が集まり始めたのだが、6月に入ったので男子も女子もジャージではなく、体操服姿である。女子は恥ずかしがってシャツをグーッと伸ばし、ブルマを隠している。


 その中でも意外とあっさりとしている体育系部活の女子は、気にせずブルマ姿を披露していたが、色がエンジなのだ。


 これは確かに驚いた。


 俺たち男子の短パンもエンジだが、あまり違和感はなかった。だが女子のブルマがエンジというのは、初めて見た。こんな色のブルマを履いてるのは、ウチの高校と全日本女子バレーチームくらいじゃないか?

 だからか、女子バレー部で同じ中学出身の笹木さんは、特に隠そうともせずブルマ姿になっていて、しかもなんとなく似合って見えた。


 男子たちも、表向きは平然としていたが、内心は色にびっくりしていたんじゃないだろうか。


 でも7組vs8組で行われるクラスマッチは和気藹々としたもので、バレーやバスケ、ソフトやサッカー、テニスなど、男女関係なく自分がやりたい種目に参加すればよいだけだった。親睦を深めるのがメインのようだ。


 とはいえ、女子はテニスかバレー、男子はソフトやサッカーに集まりがちだったが。


 時間が進むにつれ、女子のエンジブルマに対する羞恥心も薄くなっていくのか、シャツで必死にブルマを隠そうとする女子は減っていったし、男女混合テニスとかやり始めているグループもあった。


 俺はもともと非体育系だから、目立たぬようにサッカーを選び、チョコチョコ動いていただけだったが、ふとテニスを見ると、大村が神戸と一緒にペアを組んでいるのが見えた。


(神戸のやつ、すげー楽しそうじゃないか…。大村のやつ、絶対合宿中に告白するつもりだな)


 そんな杞憂は絶対に当たるもので…


 事件は帰りのフェリーで待っていた。


<次回へ続く>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る