第10話 -合宿前夜-

 高校初の中間テストを終え、江田島合宿の日が近付いて来た。


 配られたしおりを見ても、朝昼夕と予定がギッシリで、自由時間が少ない。


 入浴は夕飯前に2クラスずつに分けて4時半から6時半までに一斉に行われる。30分ずつということだ。


 2クラスといっても、男子約40人、女子約50人だから、かなり壮絶な修羅場になるのではないか?


 その後6時半から夕飯で、夕飯後にはレクリエーションをクラスごとに1日目に4クラス、2日目に4クラス披露することになっていた。半分ずつ、ということだ。


 我が7組は同じ中学校から一緒に進学した、女子バレー部の笹木さんが、高校で意気投合して友達になった番長格の坂本さんという女子と連携してリードしてくれ、アタックNO.1のパロディをやることになっていた。


 前田先輩にしおりを見せたら、その夕飯兼レクリエーションが終わるのが9時で、完全就寝時間の11時までの2時間が、カップル誕生タイムらしい。


「もし好きな女の子がいたら、何とかしてその時間に呼び出すんだよ」


 今日の練習は何故か俺と前田先輩の2人だけしかサックスは出席していない。

 そうなるとパート練習よりも、喋ってばかりになる。

 前田先輩にはそうアドバイスされたが、今の俺には好きな女子がいない。逆に前田先輩に聞いてみた。


「もしかしたら先輩、呼び出されたんですか?」


「フフッ、どう思う?」


 クールで綺麗な前田先輩が微笑んだ。しかし初対面から思ってたけど、本当に綺麗な先輩だよなぁ…。スタイルも抜群だし、きっと彼氏がいるんだろうなぁ…。


「上井くんには好きな女の子はいないの?」


「いないんです。…実は俺、中3の時に彼女がいたんですけど、私立の受験直前にフラレて、次の男にすぐ乗り換えられる屈辱を味わってるんです。なんとかして高校で切り替えようと思ってたんですけど、これがなかなか切り替え出来ない状況に追い込まれてしまって…」


「ん?後半が何か気になるセリフだね。もしかしたらその元カノちゃんも、同じこの高校に進学したの?」


 流石に女子だ、勘が鋭い。


「ま、まあ、そうなんです」


 更に同じ吹奏楽部にいる、とまでは今は言わなかったが、きっとその内に分かるだろう。


「そっかぁ、辛い体験してるんだね。それが誰かは聞かないけど、毎日練習頑張ってる上井くんだもん、きっと上井くんのことが気になってる女の子もいるはずよ。そう信じて、江田島に行っておいで」


 なんでこんなに優しいんだろう。前田先輩に惚れちゃうよ。きっといるだろう彼氏さん、ごめんなさい。




 さてクラスでもレクリエーションの練習をしながら、何となく慣れてきたみんなが腹の探り合いを始めている。


 だが俺は、その話には加わらなかった。


 前田先輩は優しく励ましてくれたが、どうせクラスでも部活でも、俺のことを気に入ってくれてる女子なんか、いるわけないだろうから。


 一方で俺は、大村の動きを気にしていた。

 この合宿で、神戸千賀子に告白しようとしてるんじゃないか?


 だが最近は吹奏楽部で割と会話しているからか、クラスではそんなに会話をしていない。


 もっとも5月のGW明けに、1回目の席替えがあり、最初の規則正しい列がバラバラになったこともあるが。


 しかし吹奏楽部での会話は、かなり以前と異なり、フレンドリーな、内容も結構深くなってきているような印象だった。


 神戸自身も、積極的に大村が話し掛けてくれるのが満更でもないようで、いつも嬉しそうに応じている。




 …自分も中学時代、大村ぐらい積極的に話しかけていれば…




 真崎君、神戸と別れたりしないでくれ!



(次回へ続く)

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