第6話 -吹奏楽部初日-

 高校の吹奏楽部初日の練習が終わったのは、6時半だった。


 中学でも一番長い夏時間で6時までだったので、流石高校は違うと思った。春先で6時半だったら、夏だと7時までになるのではないだろうか。


 中学までと違うのはもう一つ、部活終わりにミーティングをやることだった。


 部長が司会をし、各パートからの報告、部長からのお知らせ、先生からの伝達事項などを、毎日話し合うのだ。


 中学校時代は、部活終了のチャイムが鳴り、そのチャイムを合図に部員が楽器を片付け、片づけ終わった者から帰っていくという流れだったので、ちょっと面食らったのも事実だ。


 今日から部長になったという須藤先輩が眼鏡の位置を調整しながら、教壇に立った。


「えーっと、皆さん、お疲れさまでした。新部長の須藤です。よろしくお願いします。今日から新一年生の体験入部期間と言うことで、2年生の皆さんも大変かと思いますが、なるべく多くの1年生に入ってもらえるよう、頑張りましょう。そして今日早速体験をすっ飛ばして、正式入部してくれた頼もしい1年生諸君も5人います。1年生全員の紹介は、体験入部期間が終わった後、改めて行いたいと思いますが…。早速今日、一番に駆け付けてくれた1年生の上井君に、部活の感想を聞いてみたいと思います。上井君、1日過ごしてみてどうでしたか?」


 えぇっ、いきなり喋ろって?ちょっと、急に指名されても…ええい!


「えー、はい、今日すぐに正式入部させて頂いた上井と申します。パートはサックスで、バリトンサックスを吹かせて頂くことになりました。えっと感想は…。5ヶ月ぶりに吹きましたが、音が無事に出てホッとしています。ちなみにバリトンサックスを希望したのは、この高校で一番高い楽器だという噂を聞いたからです。以上です」


 周りからはちょっとした笑いと拍手が起きた。とりあえず、ホッとした。アチコチで先輩方が、1年生なのに話が旨いね…と話しているのが聞こえた。


「お前、やっぱ喋る才能あるわ。アドリブだろ?俺、お前みたいには、よう喋らんわ」


 横に座っていた村山が話し掛けてきた。


「いやいや、ド緊張に脂汗だってば。今の俺の脈拍を測ってくれと言いたいよ。あれ以上は何も出てこないし。ところで村山も正式入部にしたんじゃろ?」


「そりゃあ、竹吉先生やお前にも宣言しとるしな。希望通りトランペットになれるかどうかは分からんけど、体験期間中はどんな楽器でも挑戦してみるって」


「じゃあ俺と村山の2人が確定で、あと3人の正式入部者って誰かな?」


「お前には辛いかもしれんけど、まあ、神戸は正式入部だろうな。他の2人は、他の中学からのヤツじゃないんか?パッと見、そう思うけどな」


「確かにね。制服がまだ着慣れていないヤツを見回してみよっか…。もしかしたら女子2人かなぁ。男子にはいなさそうやね」


「今日のところ、1年の男子は俺と上井の2人か」


「いや、きっと他の中学の経験者とか、増えてくと思うよ。というか、増えてほしいよな」


 その間も須藤部長は色々と説明していたが、重要な部分は終わったので既に音楽室内はザワザワしていた。

 俺と村山もその様子を眺めつつ、男子が増えればいいな~と会話していた。


 そんな2人の会話を、離れた所から神戸千賀子が見ていた。


(アタシ、いつ上井くんと話せるようになるのかな…。一杯お話ししたいことがあるのにな…。でもきっとまだ、アタシのことは避け続けるよね)


<次回へ続く>

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