第2話 -まさか?-

 そうこうしている内に、昭和61年4月8日、あっという間に高校の入学式の日を迎えた。


 下見で一度、受験で二度、入学者説明会で一度と、入学前に計4回西廿日高校に来ているが、何度登校しても、国鉄宮島口駅から延々と山を登る通学路は苦痛だった。

 なので入学式の日は親もいることから、友達一家で分散して、何台かのタクシーで高校まで行くことにした。


「アンタみたいに体力のない子が、毎日こんな道、通えるの?」


 ウチの母親が思わず漏らした言葉だった。

 俺は反骨心の塊だったから、通ってやるよ!と大見得を切ってしまった。


 肝心なのはクラス分けだ。


 1クラス47名で、全部で8クラスある。

 俺が進学する西廿日高校は、この近辺では珍しく、女子の制服にセーラー服を採用していることから、女子人気が高かった。

 1クラス47人の内、女子が26名、男子が21名と各クラスの男女比率が均等になるように、クラス分けされているようだ。


 各クラスで5名、女子が多い。

 学年全体では40名になる。


 それだけ女子が多いなら、今度こそ高校で、前の教訓を活かして素敵な彼女を見付けて、高校生らしい恋愛を経験してみたいなぁ…。


 下駄箱の前に貼り出されたクラス分けの表には、みんな群がっていて、なかなか近付いて見ることが出来ない。


 俺と同じ中学校から合格したのは20人ほどらしいから、同じクラスになれるのは確率的に2人か3人だろう。


「まーたお前とは別のクラスだったよ。なんでやろうな?」


 先にクラス分け表を見た村山が声を掛けてきた。さすが背が高いと有利だ。


「お前は何組になったの?」


「俺は6組。お前は7組だったよ。あっ、7組の表を見て驚くなよ!とだけ、俺からの遺言じゃ」


「なーにが遺言だよ、縁起でもない…」


 と思いながらボードにやっとこさ近付いて1年7組の名簿表を見てみると…


(はあっ?なんで?何やこれ?何の嫌がらせ?)


 俺は思わず心の中で激怒した。


 部活が吹奏楽部で一緒になるかもしれないのは覚悟していたが、どうしてクラスまで一緒になるんだ?神戸千賀子と…。


 しかも出席番号は、俺が男子3番、神戸は女子4番。

 最初は出席番号順に廊下側から男女男女と並んでいくから、俺の左斜め後ろに神戸がいることになる。


 神様、俺は何か悪いことでもしましたか?


 仏様、なんでこんな仕打ちを受けなきゃいけないんですか?


 俺の高校生活、出だしから最悪だ…。


 同じクラスだからといって、神戸と喋ったりなんか、絶対にするものか。


 因みに他に同じ中学校から進学して同じクラスになったのは、あと2人いる。これまた同じクラスだった、本橋清君と笹木恵美さんだ。


 計4人ということで、ちょっと確率は高い方で助かるが、寄りによって神戸千賀子と一緒にしなくても良いだろうに…。


 竹吉先生、俺と神戸の内申書に余計な事でも書いたんじゃないか?


 とりあえず教室に入ると、まだ人影はまばらだった。

 自分の席に座る。

 黒板を見ると、


【祝・ご入学🎉🌸】


 と書かれていた。なかなか綺麗に書いてある。担任の先生はクラス分けの表によれば美術の先生らしいから、先生が書いたのだろうか。


 まだ入学式には時間があるから、俺は学校案内に目を通していたが、ふと背後に気配を感じた。少しだけ後ろを見ると…


(神戸千賀子!)


 同じクラスになってしまったんだから、いつかは顔を合わせなくてはならないが、まだ早い、というよく分からぬ変な気持ちが俺にはあった。


 一瞬目と目が合った。時間にして数秒だったが、とても長い時間に感じられた。


 俺は気を取り直し、視線を逸らすと、前を向いた。


 神戸は、何か俺に対して言いたそうな表情だったが、絶対俺は死ぬまで神戸千賀子とは喋らないと決めたんだ!


(次回へ続く)

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