第2章 高校1学期'86-高1-

第1話 -合格-

 公立高校の受験も無事に終わり、俺は親友の村山と共に第1志望の西廿日高校に合格し、新たな高校生活を送ることになった。

 束の間の休息を味わいたかったが、高校からは春休みも休ませないよとばかりに、課題が山のように出されていた。


 1学期が始まったら、その課題からテストをやるそうだ。


 オチオチ遊んでばかりもいられなかったが、本屋で「高1時代」とか「高1コース」の4月号を見ると、いよいよ俺も憧れのこんな雑誌を読めるんだな〜と思ったりもした。


 一方、神戸がどうなったのかは知らなかったが、村山家からの情報で、同じく西廿日高校に合格していることを知った。


(まあもしかしたら吹奏楽部で一緒になるかもしれんけど、喋らなきゃいいだけだ)


 俺はそう思い、心に決めた『神戸千賀子とは一生喋らない』を守ろうと思っていた。


 一方、俺の親経由で、後輩の福本朋子さんがついに豊橋へ引っ越してしまったことも聞いたが、最後まで俺のことを気にしてくれ、広島に残れるんなら、俺と同じ西廿日高校に行きたい、とまで言ってくれていたそうだ。


 そんなピュアな気持ちを持った女の子が遠くへ行ってしまい、俺をフッて、直ぐに同じクラスの別の男子に告白する元カノが身近にいるのが、俺は悔しくてならなかった。


 親友の村山はというと、卒業式の後に中学3年間ずっと片思いしていた女の子から逆告白を受ける形で、彼女が出来ていた。


 不思議なことに、村山が片思いしていた女の子とは、元吹奏楽部の副部長で、俺と1年間ペアを組んでくれた、船木典子さんだった。


 俺はあまり船木さんとは喋れず、吹奏楽部の運営でも迷惑を掛けっぱなしだったが、それでも要所では

「部長の言うことを聞きなさい!」

 とサポートしてくれ、俺を立ててくれて、感謝している。


 是非俺と違って、長く続くカップルになってほしい…。


 更に俺を驚かせたのは、村山が高校では吹奏楽部に入る!と言ったことだ。


「どうしたん?何でまた吹奏楽部に?」


「まあ、俺らが行く高校はプールがないってのも大きいかな。あとさ…」


「ん?」


「楽器が出来たら、カッコええじゃん」


 ちょっと村山は照れながら言った。


 ははーん、船木さんと付き合った影響もあるな?


 村山は元々水泳部で、成績も結構優秀だったのだが、何故か高校は高台の立地のためにプールがない、これから進学予定の西廿日高校を、俺よりも早くから選んでいた。


 もしかしたら、俺も知らないような、水泳の競技生活を続けられない何かがあるのかもしれないが…。


 そして3月31日、昭和60年度最後の日の夜、俺は神戸千賀子から交際中にもらった手紙、写真類を、全て社宅の裏庭で燃やした。


 付き合い始めた頃にもらった手紙、10月頃に交換日記の代わりに毎日交換していた手紙、1月にもらった別れを告げる手紙。そして12月にクラスマッチの打ち上げでカップルの写真を撮っちゃると先生に言われ、一回だけ神戸と腕を組んで撮ってもらった写真…。


 マッチで火を着けた瞬間、ちょっと胸に迫るものもあったが…。


 …これでいいんだ…。


(次回へ続く)

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