第7話 -バレンタイン前日の悪夢1-

 俺、上井純一は、半年間付き合った彼女、神戸千賀子に1月30日にフラレてから1週間ほど経った頃、滑り止めながら私立高校の受験が迫ってきたため、やっと無気力な毎日から、自宅に帰ってからも受験勉強をするようになった。


 その高校の入試日は、なんとバレンタインデー当日、2月14日だった。


 しかもその高校は、俺と同じ中学校からも3年生の半分以上が受験する、ある意味で滑り止めの名門的な私立高校だった。

 そのため2月14日は、3年生は臨時休校措置が取られる程だ。


 バレンタインデー当日が休みということで、男子にチョコレートを上げたい女子は、前日に意中の男子に上げているようだった。


 俺はついこの前までは、人生で初めてバレンタインデーに本命チョコをもらえる♪と思っていたが、その夢も消え、まさか今更チョコをくれる女子なんか義理でもいる訳がないと思い、バレンタインデー前日はとっとと帰宅して、翌日の受験に備えようと思っていた。


 すると担任の竹吉先生が、帰ろうとしていた俺を呼び止め、職員室に招いた。


「失礼します。先生、何かありましたか?」


「上井、明日受験なのに申し訳ないな。あまり答えたくないかもしれんが…、お前、神戸と別れた…というかフラれたんか?」


 先生からのストレートな質問だった。俺は先生の質問に驚きつつ、


「はっ、はい。フラレました…。でも先生、どうして知ってるんですか?」


「そりゃあ、お前と神戸のクラスでの様子を見てりゃ、一目瞭然よ。神戸はお前には悪いけど前よりもイキイキしとるし、お前は…こんな言い方してごめんな、死んでるような毎日だし」


 先生は完全にお見通しだ。俺は苦笑いするしかなかった。


「俺が心配なのは、明日の受験だよ。明日の私立高校は、まあお前の普段の実力なら大丈夫だけど、そんな直前に失恋して、精神的に大丈夫か?」


「まあ、最近やっと少し生き帰りまして…」


 先生もそうか、と言いながら聞いてくれた。


「だから、明日は何とかいけるとは思います。明日も朝はちょっと早めだった…って、あれ?俺、教室に忘れ物して来ました」


 カバンの中を探しても、今日配布された、明日の予定表が見当たらなかった。集合時間とか試験日程、持参物が書いてあるので、手元になかったら大変だ。多分、引き出しに入れっ放しなのだろう。


「何か忘れたんか?」


「明日の受験生用の日程表です。机に入れたままですね、多分。教室に取りに行ってから、帰ります」


「おお、分かったぞ。まあ精神的には何とか大丈夫そうだな。ちょっと安心したよ。明日はリラックスして受けて来いや。それと…」


 それと?


「お前、この先の人生で、まだまだ沢山の女の子に出会うぞ。高校に入ったら今までのことを忘れて、新しい上井純一になれよ!神戸を見返してやれ!応援しとるから」


「はい、ありがとうございます。俺のプライベートまで心配してくれて、スイマセン」


 俺は先生に頭を下げて、慌てて教室に駆け上がり、自分の机の引き出しを確認した。

 やっぱり明日の日程が書かれたプリントが入ったままだったので、引き出しから取って、帰ろうとした。


「ん?」


 その時、俺のクラスに入ろうとして、俺がいることを見付けたからか、サッと逃げた影があった。


 急いで廊下に出てみたが、人影は見えない。


 だが不穏な雰囲気を感じ、俺は帰るフリをして階段を降りるマネをし、手すりの影に隠れ、俺のクラスの方を見続けた。


「!!!」


 神戸千賀子だった。


(次回へ続く)

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